脱出
ゴゴゴゴ
研究施設でロキを消滅させたちがや達は地下にいた
今にも陥没してしまいそうな状況だが、焦る必要などない
ちがやは天井を見上げる
「あの時もここから抜け出したんよな・・・」
ジェイソンが救出しにきて天井をぶち抜いて地上に脱出した
でもここにはジェイソンはいない
やることは変わらない
私がやるまでだ
もう一度無限神力砲を天井に撃とうとするとその横でポチも魔導砲をチャージし始める
まるでお供しますと言わんばかりのその姿に心強さを感じた
そして、ミラもちがやと重なりながら共にいる
思わず笑みが溢れた
何も怖いことはないんだ
なぜならひとりじゃないから
ゴゴゴゴ
地響きが鳴り徐々に崩れ始める
その時、ちがやとポチの魔導神力砲が炸裂した
ドンッ
一瞬で地上で爆発し巨大な打ち上げ花火となって散っていった
上を見上げれば夜空が顔を覗かせていた
ルナ達はなんとなくこうなることに気付いて離れて見ていた
空に広がる虹色の花火がキラキラと輝いては消えていく
その美しさに思わず見とれているとシュンと勢いよく穴から飛び出してきた存在が目に入る
虹色の羽が夜空を背景に輝いている
そしてその後ろにはちがやによく似た少女
それに付き従う神獣フェンリル
三人はニッと元気よく笑い親指を立てた
それに応えるようにルナ、ジェイソン、リリスも笑顔で『やったね』と伝えあう
これで今度こそ完全に消し去った
残るはちがやとポチの攻撃によりできた拡大した巨大な穴のみ
もうここで悲惨な歴史が産まれることはないだろう
とはいえ、このままでは穴だらけで地上まで影響があるかもしれないと軽く神力を使いちがやが作ってしまった穴を硬めに埋めていく
これで後始末は終わりあとは子供たちを保護者に送り届けるだけ
でも、時間的にそろそろ限界だと地上に降りてから全員で夢境へ転移する
子供たちは既に眠りについている
そしてその中にふらふらと混ざりパタリと力尽きて寝てしまったちがや
ちがやは毎夜21時に必ず寝ていたので眠くて眠くて仕方なかったのだ
そして胡蝶にとっても重要な要素
子供たちを悪夢から守るように優しく包み込むちがや
その日見た夢のことを二度と忘れないことであろう
翌日
「ちがや姉ちゃんありがとう!」
「おう!元気でな!」
子供たちを送り届け一安心していた
「あとはギルドに報告して終わりやな。」
「おーい!俺達を忘れないでくれ!」
「あ、ハンス。すまん、忘れとった」
念の為ハンス達を置いてきたんだった
「まぁ、いい・・・お前達は大丈夫だったのか?」
「にひひ!」
ちがやが親指をぐっと突き出して『やったった』と伝えた
「そうか・・・」
「ハンス、こっちは大丈夫だった?」
そういえばこっちの心配だったからハンス達を置いていったんだ。
あれからずっと気になっていたのだ
「あぁ、帝国の人間が1回きたが返り討ちにしてやった。まぁ、やったのはほとんどねぇさんなんだが・・・」
あの後帝国の兵士が押し込んできたが姉がボコボコにして叩き出したらしい。ハンスは彼女達の近くで守りを固めていたのでほぼやることなく終わったとか。
「ふふ、弟のためだからな!」
ドヤ顔のねぇさん
「保険かけておいてよかったわ・・・」
ちがやの予想が当たったことで彼女達は守られた
「帝国の保身でしょうね」
厄介な奴らだ
「今更抗っても無駄なんやけどなぁ」
器を作れるロキは死んだ
着々と駒を失っていく帝国はさぞ焦っていることだろう
だが、それは自業自得だ
手札を大切にせずに使い捨てていたから今の状況になったに過ぎない
暗部もロキも無くなりさぁ次は何をしてくるかな
そうしてギルドに辿り着くとまっさきにギルマスが詰め寄ってきた
「ちがや!ジェイソン!お前ら生きてたのか!1日経っても帰ってこないから心配しただろう!」
「いや、仕事が仕事なんやから1日ぐらいしゃーないやろ!」
あまりの勢いに押されていると呆れ顔の受付嬢が話に入ってきた
「すみませんちがやさん、ギルマスは昔からこうなんです。特にジェイソン様には・・・」
「ジェイソンの過保護成分はギルマス由来やったんか!?」
なるほど、過保護なところがそっくりやわ
「まぁ、少しは影響してるかもね・・・」
「とりま報告したいから部屋に入ってええか?」
こんな目立つところで話すことでもないのでギルマスの部屋へ案内を促す
「お、おう・・・ご苦労だったな」
ギルマスの部屋に入り各々の席に付き話し始める
「お前達・・・よく生きてたな・・・」
ギルマスは昨夜の1件のことを知っているようだ
そりゃあ、暗部を使い捨てにして襲わせてその上スタンピードを局地的に起こせばそう考えるのも無理は無い。
普通なら逃げることも出来ず死んでしまったであろう。
「まぁ、慣れとるしなぁ」
「そうね」
「あぁ」
「私はそこまでではないですよ!?」
「そうか?リリスも活躍しとったやん。相変わらず凄い妹やで」
まぁ、このパーティは何度も修羅場をくぐってきたからな。
死なないのは当然ともいえた。
「えへへ」
「はぁ・・・証拠も綺麗に確保されてるが酷いものだな・・・」
集めた証拠を見聞していくギルマスの顔が一気に嫌そうなものを見る顔になる。
それも当然だ。
見るのもはばかられる内容ばかりでいかに悪質なことに加担していたかを記されているのだから。
あの施設でやっていたことだけでも犠牲者は数え切れないだろう
それがなくとも邪神のためにあらゆる悪事に手を染めていた
そしてその証拠を消すために親父の魔道具を使って証拠隠滅を図った
今思えばあそこは罠だったのだろう
くるとわかっていたから魔道具を準備し全て葬ってなかったことにしたかったのだろう
まぁ、それは自分達の力で阻止されたわけだがな。
「とはいえ、証拠があってもどう追求するかだな・・・」
「多分それ最後になると思うで」
そう、追求するのは一番最後になるだろうと踏んでいた
なぜなら次帝国が巻き起こす行動は邪神顕現であるからだ
それは近いうちに必ず起こることで追求なんてしてる暇どこにもなくなることであろう
「なぜだ?」
「あの施設をくまなく調べたけど新しい器もなかったしうちらが流した牙も見つからんかった。恐らく帝国は器を作ることに失敗し牙で不完全な邪心降ろしをすんじゃないかなぁって」
「つまり邪神を倒してからだといいたいのか?」
「せや。まぁ、あいつ自身が器やった可能性もなくもないけどもう木っ端微塵に消し去ってもうたからな」
純度の高い反魂の魔石を胸に埋め込んでいたロキのことを思い出す
ロキは研究者だったが、最終的に自分を器にしようとしてもおかしくはない。
やつはそれだけ邪神に全てを捧げていた狂ったやつだった。
子供達を器にするのもいいがロキの性質は邪神にとっても都合が良かったといえる
だから、合うか合わないかわからない子供より自分で試したのだろう。
ロキは死んだのであくまでも推測だがロキはそういう男だということをミラの記憶で知っている。
だから間違いではないだろうとちがやは思考していた。
「どちらにしろ帝国にとっては不完全でも牙を使うことが切り札ということか・・・」
「てか、この国にきてからずっと気になってたんやけど、外で聞いた情報と食い違いがあるんやけど」
そうずっと不思議だった。
商業国家で聞いた話によると魔王国に宣戦布告をして内乱がおきていると聞かされた
だが、そのような事実はどこにもなく違和感だけが残っていた
「あぁ、それか。俺達も調べてわかったんだが、帝国が国外に対して情報操作をしていたらしい。内情を隠して作戦を進めるためだろうな。内乱は起きるかもしれんが今のところ起きていない。魔王国への宣戦布告も嘘だ。まぁ、魔王国側は警戒しているがな。」
「とんでもないホラ吹きやな。もっと早く聞いてたらよかったわ」
情報通の商人達も騙しせるなんて相当な情報操作やったやろな。
いや、他の国から何も言ってこなかったのも不自然やな。
もしかすると、他国も情報操作されていることに気付いていた??
わからんし、今度あったときにでも聞いてみよう
特に魔法国家のアリアとか情報通だし、あとは、商業国家の賢者ミカも知恵を貸してくれるだろう。
「だがな、お前達がきたから内乱が起きなかったとも言える。お前達、この国に入ってきてから色々やっていただろう。それが人々を抑えたように思える。それと剣姫の存在もでかい。」
「私か?」
「各町を周って人助けをしていただろう?お前はそんなつもりじゃなくとも、人々はお前という『旗』を目印に心の支えになっていたんだ。元が軍人ということもあるが、この国で少数派のまともな存在だ。人々が信頼するには十分すぎる。」
「つまり何もしなかったら勝手に滅んでたかもしれんってこっちゃな」
帝国ならありえそうな話だ
「そうだな・・・まぁ、心配な要素はまだあるが、最初の頃よりは状況がいい。最悪な展開は避けられるだろうさ。」
「あとは邪神だけか・・・神様も警戒してたしとんでもないやつなんやろな・・・リリス、あれから何か信託はきてないん?」
「あぁ、そうでした!今朝お姉ちゃんと一緒にまた祈りなさいって言われてました!」
「また会えるんか。久しぶりやな。元気にしてっかな。」
「ジェイソン・・・お前はみたことあるのか?」
「いいえ、あの二人だけです。聖女とその姉ですから」
「はは・・・それはすごいな」
「ジェイソン、うちらお祈りしてくるからあとは任したで」
「おう、任せろ」
「まぁ、神様の件の方が優先されるよな・・・」
「まぁ、ちがやも神なんですけどね」
「は!?」
「元人間ですが色々あって新米亜神となったそうです。もちろん、機密情報ですよ」
「いいのか?俺に話して・・・」
「最初は俺も警戒していましたが、あのちがやを止められる存在がいると思いますか?」
「はは、ちげえねぇ!」