アジトを探そう、過去との決着
翌日。
曇天の空が広がり、不安を煽るかのように街全体が薄暗く包まれていた。
ギルドで依頼された任務を遂行するため、まずは 被害者の家族 を訪ねる。
攫われたのは 子供――。
一刻も早く見つけ出すため、少しでも手がかりが必要だった。
「どうか……! どうか娘を助けてください!」
事情を説明すると、母親は今にも泣き崩れそうな形相で懇願してきた。
「大丈夫ですよ。必ず助けます。」
ハンスが優しく声をかけると、母親はすがるように 娘の大切にしていた品 を手渡してきた。
「この子がいつも持っていたものです……どうか……」
「ポチ、いけそうか?」
「わん!」
ポチが大きく鼻を鳴らし、匂いを確認する。
彼の能力ならば、攫われた少女の行方を追うことができるだろう。
「ハンス、エリス。」
「?」
「この場に残って、彼女を守っててくれへんか?」
「……わかった。」
「承知した。」
攫われた子供の次に狙われる可能性があるのは、その 家族 だ。
そのため、ハンスとエリスの 姉弟コンビ をここに残すことにした。
万が一、街で何か問題が起きても、彼らなら十分対応できる。
「皆、行くで!」
「はい!」
「おう!」
「行こう!」
ポチを先頭に、一行は 誘拐犯のアジト へと乗り込んでいく――。
――――――
「ポチ! 本当にこっちなんか!?」
「間違いありません!」
ポチに導かれながら、森の中を駆け抜けていく。
だが、そこはあまりにも 見覚えがあった。
――この道は、うちらが捕まっていた研究所の道――
だとしたら……。
森を抜けると、一度破壊したはずの研究施設が改築され、そこに残っていた。
「ちがや……ここ」
そうだ、ここは ルナとちがやが最初に出会った場所。
もう二度と戻ることはないと思っていた。
「ジェイソン、うちらの記憶、間違ってないよな?」
「あぁ……まだ残っていたなんてな……」
あの時は、同化して間もなかった。
だから、もしかしたら記憶違いかもしれない――
そう思い、救いに来てくれたジェイソンに尋ねた。
しかし、やはり 間違いないようだ。
記憶違いでもなんでもない。
自分たちは またここに戻ってきたんだ。
そして、帰りを出迎えるように、半分異形の姿になりかけた黒いローブの男たち が、ゆらりゆらりと現れた。
「結局のところ、暗部ですら使い捨てなんやな……」
かつて何度も対峙した存在。
それすら 人間としての形を失わされてしまった。
その事実に、ちがやはただ 哀れ だと感じる。
ジェイソンが剣を振るうと、うねうねと 異形の肉体が 再生を繰り返す。
――もはや、人間だった頃の 名残すらない。
それはもう ただの肉塊。
触手が、一直線にちがやへと迫る――
だが、
バチンッ!
激しい衝撃音とともに、弾かれた。
「お姉ちゃん! 反魂の力です!」
優しい妹だ。
ちがやが 反魂の力に弱い ことを知っているからこそ、
聖女の力で 守ってくれた。
そのおかげで、正気に戻ることができた。
「ポチ!!!」
タクトでポチを全力強化
「ガオオオオオオオオオオオ!!!!」
神獣フェンリルの姿へと変化したポチが、雄叫びをあげる。
魔導砲をチャージし、横に薙ぎ払う――
フェンリルと反魂の力は相性が悪い。
しかし、相手がこの程度なら 造作もない。
一瞬で、魔導砲の痕跡だけが残る。
地上部分は 完全に消し去った。
だが、それでいい。
なぜなら 上に何もないことは、よく知っているのだから。
今度こそ、根絶やしにしてやる――。
そう思った瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
地響きが鳴り響く。
すると、全方位から魔物が押し寄せてきた。
「帝国め! 証拠ごと消し去るつもりか!!」
すぐにルナとリリスが 範囲魔法を展開 し、次々と殲滅していく。
だが、止む気配がない。
ジェイソンは、二人を守りながら戦っている。
ちがやも 力を展開しようとするが――
「お姉ちゃん! 先に行ってください!」
リリスが叫んだ。
「でも――!」
全員、必死に守っている。
こんな時に、自分だけ先に行くなんて――。
ちがやは迷った。
だが、地下には助けを求める子供たちがいるかもしれない。
ならば……
「必ず戻るから、それまで耐えてくれ!」
全員を 強化 した後、ちがやは 地下へ向かう決意を固めた。
こうして、ちがやとポチは 地下へと潜ることになった――。
――――
見覚えのある 薄暗い部屋。
壁には 拷問器具 が並び、
ところどころに 血痕のような跡 がこびりついている。
見慣れないものがあるとすれば、その血痕や残骸がさらに増えている ということだろう。
最近まで 使われていたのだ。
あの日から止まることなく、犠牲者が出続け、彼らは実験体とされた。
ポチのおかげで 子どもたちは無事に見つかった。
全員、精神的に衰弱していたが、幸いにも捕まっていただけだった。
少し安堵しながら、彼らを 夢境ハウス に避難させる。
あそこなら安全だ。
「全て終わらせたら、家に送り届けるからな」
そう約束すると、子どもたちはようやく 笑顔を見せてくれた。
ポチを連れ、最奥へと歩を進める。
一本道だから迷うことはない。
おまけに今は ポチがいる。
とても 心強い。
証拠も確保した。
これで帝国を追い詰める材料は手に入った。
あとは、たった一つ。
やるべきことは、決まっている。
「よう……久しぶりやな……」
広い研究室に たった一人、 白髪の青年がいた。
研究者らしく 白衣を纏っているが、
その目は 黒く染まり、もはや人間をやめていることがわかる。
そして、ちがやは そいつを知っていた。
ミラの記憶を通して。
「ロキ」
研究者ロキ。
この研究を 最初に始めた者。
かつて ミラとロキは二人だけだった。
だからこそ、ミラの記憶を見たちがやは よく覚えている。
泣き叫ぶミラに酷い仕打ちを続け、追い詰めた存在。
その男が、今 目の前にいる。
「失敗作の001じゃないですか。覚えていますよ。もちろん……」
男は 終始落ち着いていた。
「失敗作か……はは……」
ちがやは 乾いた笑み を浮かべる。
確かに、帝国にとっては失敗作だったかもしれない。
帝国が求めていたのは、『邪神の器』 だったから。
器とそこに入る存在が対になっていれば、相性が悪すぎる。
だからこそ、ミラは帝国にとって失敗作だったのかもしれない。
――でも、それがどうした?
「とはいえ……情報では聞いていましたが、まるで別人ですね……あなたは一体、誰ですか?」
男の言う通り、ちがやは もうあの時の少女ではない。
拷問され、好き放題に 実験材料にされ、蹂躙されていた少女ではない。
ちがやは 日本から来た存在。
ミラと 同化し、一つになった自分たちは、もはや過去のミラではない。
バサリ――
胡蝶の羽が展開され、 その後ろから ちがやと瓜二つの少女が現れる。
「うちらは二人でちがやや!(私達は二人でちがや、もう過去の私ではない!)」
「!?」
いつだって、二人は一緒だった。
同化したからといって、どちらかが優先されるわけではない。
一つの存在として、世界を見てきた。
最初は よくわからなかった。
でも――自然と 「同じ」 だと思えた。
心が 共鳴し、一つになった。
――そして、今。
目の前の男を倒したい。
ただ、それだけだ。
「神になりましたか! はははは! なるほどなるほど!
我らが崇拝する邪神様とは、相性が悪いわけですね!」
男も 邪悪な力を解放し、
禍々しい 黒い翼を生やして対抗する。
その胸に輝くのは、赤黒い 反魂の魔石。
ゼクトの時よりも、はるかに純度が高い。
虹色の光と漆黒の闇が交差する。
交わることなく、激しくぶつかり合う。
ちがやは 神力を巨大な拳に見立て、
ロキは 反魂の力を拳に変え、
――互いに拳をぶつけ合う。
ちがやの姿とミラの姿が、重なって見える。
うちらは 一つ。
だから、一緒に戦うんだ。
「「うおおおおおおおお!!」」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
もはや 相性など関係ない。
お互いが お互いを弾き合い、
凄まじい衝撃を生み出していく。
ポチの背に乗り、華麗に攻撃を交わしながら、
拳だけはずっと動かし続ける。
このままでは 終わらないのではないか――
そう思えるほど、拮抗していた。
だが、ここで ちがやの強みが発揮される。
「くっ……!」
メキ――
「なんだ……!? こいつの力は……!」
メキ――
「枯渇しない!? いや、それどころか、時間が経つほど強くなっていく……!」
メキメキ――
「バカな……バカなッ!!!」
魔石に、ヒビが入る。
「この時を待っていた……!」
ロキの攻撃の勢いが 徐々に弱まる。
そう――魔石の魔力切れだ。
そして ロキ自身の魔力も、尽きようとしていた。
だが――ちがやは違う。
ちがやの神力は無限。
そして、それを支えるのは精神力。
ちがやの精神力は もともと桁違いだった。
胡蝶は、不屈。
決して 折れない。
だからこそ――
世界を渡れた。
ミラと出会えた。
仲間と出会えた。
その奇跡を、誰よりも理解しているのが、胡蝶ことちがやだ。
「これで終わりや!!!」
ちがやは拳を 大砲の形に変え、
隙の生まれたロキに向かって 無限神力砲をチャージする。
ロキには もう抵抗する力は残っていない。
ギュンギュンと莫大な量の神力が集約し光り輝く
魔法でもなければ魔導砲でもない
それはちがやの無限の神力を濃縮させた塊
無限に溢れ出る神力を眼の前の悪しき存在のためだけに凝固させていく
激しく色を変えながらバチバチと輝くそのエネルギーはもはや誰も止められない
そのエネルギー量は小さな宇宙を産み出すほどだった
「これが001の今の姿・・・はは・・・勝てるはずがない」
ただ 呆然と、その光を眺めるしかなかった。
――そして、
バシュン!!
特大の閃光が、全てを包み込んだ。
――――――
地上での出来事
「くっ!!そっちはどうですか!?」
「こっちもダメ! ちがやの無限供給のおかげで、いくらでも魔法を撃てるけど……全然減らない!」
ひたすら魔法を打ち続けなんとか食い止めているが持久戦となると不利だ
体力が削られ力尽きれば最後
その時は魔物達に一斉に餌にされるだろう
「門があるはずだ! そこを潰せば、あるいは……!?」
ジェイソンも焦りながらも打開策を見つけるがそんな時、絶望的な状況を覆す眩しい光が夜空に弾けた
ドンッ――!!
突如、地面から 眩い閃光 が発射され、天へと放たれる。
その 煌めく光 に、思わず息をのむ。
ちがやの無限の神力を名一杯詰め込んだその光の塊は空高く飛ぶとピタリと動きとめた
その瞬間ーーバシュンーー
周囲の魔物目掛けて拡散していった
「……綺麗……」
「あれは……お姉ちゃんの願い……とっても綺麗です……」
閃光が降り注ぐ。
それは 魔物たちを次々と貫き、 一瞬で 一掃していった。
ちがやの無限の神力を凝縮させた危険すぎるエネルギーに触れた者は再生することも許されず消滅する
そして何より――
魔物を 生み出していたゲート に直撃し、そのまま永久封印にしてしまった
ピタリ。
魔物の襲撃が 止まった。
何も言うまでもない。
これは ちがやの力――ちがやの勝利 なのだと、誰もが確信した。