帝国はホコリを舐めていた
「帝国の兵が来たぞ!」
街の入り口で、見張りをしていたドワーフの声が響いた。
周囲の鍛冶職人や商人たちが顔を上げ、緊張感が走る。
ちがやは、すぐに 見守るくん たちに指示を飛ばし、街の安全を確保するよう命じた。
冒険者たちも、戦闘態勢を整え始める。
(……まぁ、まずは話し合いやな。)
門の前に現れたのは、 帝国の高官らしき男と、数十名の武装した兵士たち。
堂々とした態度で街へと歩を進める。
「この街は帝国の領土であるにもかかわらず、最近やけに勝手な動きをしているようだな?」
男は冷たい目で周囲を見渡しながら言った。
「鍛冶ギルドの創設……冒険者ギルドや商業ギルドとの独自の取引……帝国に相談もせずに、好き勝手にやっているではないか?」
親方たちは 拳を握りしめながら その言葉を聞いていた。
ドワーフたちの誇りを踏みにじってきた帝国が、今さら「勝手な動き」とはよく言ったものだ。
しかし、ここで頭ごなしに反論しても無駄だ。
ちがやが一歩前に出る。
「好き勝手に、ねぇ……。それ、500年前に勇者を裏切った国が言うんか?」
その言葉に、周囲のドワーフたちが 「おぉ……」 と唸る。
帝国の男の眉がピクリと動いた。
「……言葉には気をつけろ、小娘。我々は歴史に執着するつもりはない。」
「ほな、今さらうちらに圧力かけるのもナンセンスちゃう?」
ちがやは腕を組んで、ニヤリと笑った。
「もうこの街は、帝国に頼らんでもやっていけるだけの力があるんやで?」
「そうだ!」
「もう帝国の言いなりにはならねえ!」
ドワーフたちが 拳を突き上げ、声を上げる。
兵士たちが 圧倒され、後ずさった。
帝国の男は、顔を歪める。
(……この鍛冶ギルド、想定以上に厄介だな。)
鍛冶ギルドの誕生は、明らかに 帝国の支配に対する反発 だった。
帝国の武器供給を独占する予定だったのに、ドワーフたちは全く言うことを聞かない。
そして――
事あるごとに 帝国の作戦を潰してきた黒髪の少女。
――小夢茅。
こいつが現れてから 全てが狂い始めた。
「お前たちのような田舎の鍛冶屋が、帝国に対抗できるとでも?」
男は 冷笑 したが、その目には 焦りがにじんでいる。
ちがやは その様子を見逃さなかった。
(焦っとるな……。やっぱり帝国は、鍛冶ギルドが独立するのを恐れとるんや。)
「対抗してもええんか? 国潰す勢いで徹底的に叩きのめすけど?」
帝国の男は 「戯言を」 と言いかけたが、
すぐに ぐぬぬ…… と言葉を詰まらせた。
(……こいつならやりかねない)
「まぁ、ええ。うちが手を出さんでも、今のお前らが不利なのはわかってるんやろ?」
ちがやは 周囲を指し示す。
鍛冶ギルドに味方する、冒険者たち。
あちこちに展開された、増殖した見守るくん。
怒りに燃えるドワーフの戦士たち。
圧倒的不利。
そう悟ったのか、男は ギリッと歯を食いしばりながら 捨て台詞を吐いた。
「……覚えておけ。」
そして そそくさと街を去っていった。
(ふぅ……)
ちがやは ゆっくりと息を吐き、後ろを振り向く。
「よっしゃ! 勝ったで!」
『うおおおおおお!!!』
ドワーフたちが 雄叫びを上げる。
500年間、耐えに耐えてきた帝国の圧力。
今、この瞬間、ようやく一矢報いることができた。
その事実が、彼らの心に 熱い炎 を灯した。
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その日から、帝国は 一切干渉してこなくなった。
ちがやの言ったことは 必ず実行される。
今まで何度も 痛い目を見せられてきた 帝国は、それを 誰よりも理解していた。
(……帝国、やっぱり焦っとるんやな。)
「親方、こっちはもう大丈夫そうやな?」
「あぁ。これで帝国に頼らんでもやっていける。ありがとよ。」
見送りに来た街のみんな。
彼らの表情は 誇りに満ちていた。
もう 帝国に怯えることはない。
「何かあったら、商業ギルドか見守るくんを通して連絡してくれや!」
「おう! そっちは気をつけろよ!」
こうして、ちがやたちは「帝国の新たな器開発計画」を止めるため、新たな街へと向かうのだった……!