魔獣ゼクト
バルザックの一時的な釈放の日
肝となるアトソンを 詰みに追い込む ため、作戦会議が行われていた。
「俺は大商人の振りをしてアトソンの横に陣取り、国王に手を出そうとしたら阻止する。
ハンスやリリスは、その際に抑え込めなかった時の保険として、その場に待機していてくれ。」
「バルザック……お前、本当にできるのか?
その体を見てると、そうは思えないんだが。」
「この体格だからこそ抑え込むことができるのだ。
だが、俺だけでは不安だ。その時は頼むぞ、ハンス。」
「おうよ。」
「私は国王たちの側で、いつでも結界を張れるように準備しておきますね。」
「それでいこう。とはいえ……まさか、お前たちと協力することになるとはな。」
「お姉ちゃんには感謝するんですよ?」
「無論だ……」
そして、作戦そのものの内容は以下の通り。
ハンス、リリス、バルザック、そして近衛兵が王宮に残り、
国王の玉座で大商人と大賢者たちも共に待機する。
一方で、街にやってくるゼクトは ちがや、ルナ、ポチ、ジェイソン、ミカ が対応する。
これにより──
ゼクトはちがや達が討ち、
アトソンはハンス達が仕留める。
覚悟を決める。
──これは最終決戦。
商業国家の最後の "大掃除" が始まろうとしていた。
王宮・玉座
主要メンバーが 全員 集まっていた。
その中には、当然 大賢者アトソン もいる。
大商人の席には、バルザックが変装した姿で悠然と座っている。
リリスは国王の側で控え、いつでも対応できるように 構えている。
近衛兵も周囲を固め、アトソンを警戒している。
さらに 大賢者の近くにはハンスが控え、暗殺の動きがあれば即座に対応できる配置 だ。
──準備は整った。
そして、肝心なのは ゼクトが敗北したときのこと。
その時、必ず大賢者アトソンが動く。
だからこそ、王の側にいながらも 姉の無事を案じるリリスだった。
街の上空
見晴らしの良い場所まで飛び、周囲を見渡す。
──今のところ、ゼクトの姿はない。
現在 時刻は12時。満月ですらない。
月光蝶は使えない。
亜神となった胡蝶で倒せるかもわからない。
──戦闘能力は相変わらずだ。
防御に至っては意味を成さないだろう。
何故なら、相手は "反魂の力" を持つ。
──"結界くん" では防げない。
避けるしかない。
聖女もいない状況で、本当に倒せるのか?
だって……
眼前の巨大な魔獣は、
禍々しく黒い体躯に、
反魂の魔石を5つも付けた──
"犬型の魔獣" なのだから。
──ドシン、ドシン。
魔獣は、ゆっくりと 街へと迫ってくる。
その歩みのたびに 木々がなぎ倒されていき、
その巨体の異様さを見せつけていた。
──ジェイソンが 真っ先に飛び出し、
魔獣を切り裂く。
だが──瞬時に再生する。
続けて、ルナとちがやが 魔法で応戦するも、
深手を負わせられず、またもや再生。
そして……
ポチの "魔導砲" すら 反魂の力で反射 されてしまった。
幸い、反射された魔導砲は 空の彼方へと飛び去ったため被害はない。
しかし……
──どうしても "致命傷" を与えられない。
「強い……これが、人を食った魔道具の力……。」
このままでは ジリ貧だ。
魔導砲は反射され、
上級魔法ですら 巨体ゆえに致命傷にはならず、再生される。
──そんな時だった。
空から、ゼクトの 頭部めがけて"何か"が飛んできた。
──ドンッ!
ゼクトの 体勢が崩れる。
そして──
その上に立つ 一人の男 の姿があった。
「──ヴァルガ!?」
──離脱していたヴァルガが帰ってきた!!
ゼクトは苦しそうにうずくまり、
その攻撃が効いていることが見て取れた。
「ったくよ〜、面白そうなやつを見つけたなら、
俺も混ぜてくれよな!」
快活に笑うヴァルガが、もう一度 ゼクトを叩きつける。
──だが、再生する。
やはり "物理" では埒が明かない。
「こいつの弱点は"混合魔法"だ!
五大属性には弱い!!」
「……そうか、一つ一つの魔法で足りないなら──
"混ぜれば" いいんだ。」
「ポチさん、混合魔法を魔導砲で押せますか?」
──ミカのアドバイスに、ポチは 「承知した」 と頷き、
超極大魔導砲の チャージを開始する。
ちがやとルナは スピカとベガの力を借り、
水と火の上級魔法を織り交ぜ、
"巨大な球体" を形成する。
その力は この街を覆い尽くすほどに肥大化。
──混合魔法『蒼炎の激流』。
ちがやとルナが 魔法を全力で放った瞬間、
背後から強力な魔導砲が、
混合魔法を押し上げる。
ゼクトは、咄嗟に 反魂の力を何十にも展開する。
──しかし、その 全てが破壊されていく。
「あと少し……あと少しなのに……!」
──ギリギリのところで止められ、
悔しそうに ちがやが歯を食いしばる。
だが──
「私がどんな魔法使いか忘れてない?
私の魔力はね……"戦闘中でも成長する" のよ!!」
──ルナの魔力が、急激に肥大化する。
その勢いは 反魂の力をも打ち破り、
ついにゼクトへ直撃。
「──いっけええええええええええええええええええええ!!!」
──ドドドドドドド!!!
ゼクトは 魔力の奔流に飲み込まれ、
跡形もなく消滅した。
「さすが……俺の自慢の娘達だ……。」
──ちがやが倒れかけると、
ジェイソンが そっと支えた。
そして、その胸の中で、
ルナが 勝利の雄叫び よりも 重要なこと を叫んだ。
「おなかすいたああああああああ!!」
「はは……ルナの魔力の源、それやったんかーい!!」
──こうしてゼクトは、全員の力を合わせて完全消滅。
商業国家は、再び平和を取り戻したのだった。