帝国の第一王子
「なるほどな・・・」
ハンスは帝国でも唯一真面目に政治に取り組み国民のために尽くしていたらしい
正義感も強く曲がったことが嫌いな王子はこの国を変えたかった
でも、帝国は力に溺れている
誰も味方をしてくれなかった
孤独の中で戦っていた王子はある日、ちがや達の研究のことを知った
こんなこと許されていいはずがないと王に直訴するつもりだった
だが、資料を見ていた王子は背後に敵がいることに気付かなかった
王子は捉えられ口封じのために奴隷としてここに売られた
「信じてくれるのか?私は君達を実験材料にしていた国の王子なのだぞ?殺したいとは思わないのか?」
それは王子としての罪悪感
国がやった事は王子の責任でもある
だから殺されても文句などなかった
でも
「思わんわそんなこと・・・だってハンスは手を貸したわけじゃないんやろ?むしろ刃向かって捕まったらしいやん。恨む理由がないわ。」
「・・・」
ちがやは全く気にしてない様子であっけらかんと答えた
その答えに王子は唖然とする
「むしろ身内の恥と思って謝罪してくれた誠実さがよく伝わってきたわ。ね?ちがや」
「まぁ・・・せやな・・・王族なのに頭下げたことは偉いことや・・・」
「ありがとう・・・私は間違っていなかったのだな」
救われた想いだった
誰にも理解されず自分が間違っているのではないかと考えた時もあった
だからこれまで腐らずまっすぐ生きてきた自分に安堵した
「それはうちが保証したるわ!だから胸を張れ!ハンス!」
「あぁ!!そうだな!」
認めてくれる
理解してくれる
そんな人が目の前にいることに歓喜し涙が浮かぶが、自分を奮い立たせてくれた存在に恥じないように胸を張った
「とはいえこれから色々忙しくなるし助けるのはいいとしてどうしましょう?」
「忙しいとは?」
「ここは商業国家なんやけどな、トレードフロントっちゅーとこの大商人が犯罪に手を染めてんねん。うちらはそいつの裏取引の証拠を掴むためにここに潜り込んでたんやけどこれからあの野郎を追い込まなあかんねん」
「だから悪いけどあなたの面倒見てるほど余裕がないの。王子だからその辺必要なんでしょ?」
なるほど、2人が心配するのも仕方ない
何故なら王子とは本来自分の身の回りのことはメイドがやってくれるため1人でやることができないことが多い
普通はそうだ
だが、王子は孤立していたのでメイドから手を貸してもらうのも最低限のことまで
あまり頼らず自分でできることは自分でして生きてため心配はない
「いや、それには及ばない。自分の面倒は自分でみる。それよりその問題私にも協力させてくれないか?こう見えて剣には自信がある。君達の身を守ることぐらいはできるだろう。」
この人たちには恩がある
ならば剣となって力を貸そう
ダストエンドに2人で侵入できるほどの手練なら必要はないかもしれない
だが、女性を守るのは紳士の嗜み
のだが・・・
「捕まえた王子が街を歩いてたらバレちゃうでしょ・・・」
「た、確かに・・・」
ぐうの音も出ない
自分が囚われの身だったことを忘れていた
なんだったら帝国の人間に今度こそ消されるかもしれない
「いや、うちには仮面かぶってるやつおるから何とかなるんちゃう?」
「王子に仮面かぶせるのね!なるほど!」
「何がなるほどなんだ!?普段から仮面被ってるやつが仲間なんてそんなの・・・そんなの・・・!?」
1人だけ思い浮かぶ
帝国で有名な常に仮面を被っていた大男
王子はまさかなと考え直す
「帝国の王子なら知っとるやろ?SSSランク冒険者のジェイソンや」
「なっ!?あのジェイソンが仲間なのか!?そして私はあれと同じ仮面を・・・仮面を・・・あれは大丈夫なのか?」
憧れでもあった
強くて正義感が強い伝説のSSSランク冒険者ジェイソン
だが、あの仮面に関してはにわかには信じ難い噂があった
それは、あの仮面が呪われていて外せないということだ
「いやいや、そこは普通の仮面やから平気やて・・・あんなの何個もあるわけないやろ」
確かに、呪われた仮面などいくつもあるわけが無い
あっても収集家とかじゃない限り持ってるはずも無いか
「でも正直ジェイソンと同じ仮面は似合わないんじゃないの?デザイン変えない?」
多分似合う仮面を選んでくれているのだろう
確かに王子はジェイソンと違って華奢な身体で威圧感もない
そんな王子が同じような仮面を付けても弟子か子供か見間違われることだろう
そんなことを考えているとちがやがよしわかったと手からそれらしきものを何も無い空間から取り出した
取り出したのか?
無から有を生み出したようにみえたが
「ほならちょっとカッコイイ感じにしよか」ポンっ
「っ!!?」
「いいね!これなら似合いそう!それじゃあ付けてみて!」
「よし分かった・・・とはならんだろ!?なんだ今のは!?」
流れで押し切られそうだった
危ない危ない
「ちっ・・・誤魔化せへんかったか・・・まぁ、別にええけど」
「勢いで誤魔化せなかったかぁ・・・でもまぁ、この人なら話してもいいよね」
「まぁ、ウチのうっかりなんやけどな。」
てへっと下を出すちがやをジト目で見つめる
「ひとまず君達の重要なことだとはわかった・・・話したくないなら無理にとは言わないが」
恩人に無理強いは出来ないと諦めようとしていた時
「そもそもこの空間なんだと思う?」
ちがやが忘れていたことを問いかける
「ん??そういえばそうだったな。地上ではない別の空間とは聞いたが魔法でそんなことできるものなのか?」
魔法には詳しくないが空間そのものを作るなんて聞いたことがない
そんなことが出来れば魔法使いがこぞって使いたがるはず
「魔法ちゃうねん。うちの能力や。ここは夢境。うちが想像した世界。うちだけの空間。誘われなければ誰も入れへん。うちの力は創造する力やねん」ポンっ
「創造だと・・・!?それではまるで」
神ではないかと言いかけた時
ちがやが唇に指を当てウインクしながら秘密にしてねと可愛くポーズした
「うちのことは秘密やで?にひひ」
「っ!っ!っ!」
顔がいいちがやの可愛いポーズに思わずドキリとしながら必死に頭を縦に振った
「ちなみに私は魔法使いだからね?知ってるとは思うけど」
「魔力の成長が生まれつき早いのだったな。資料を見たから覚えている。」
「今思えば大したことじゃないのにね。うふふ」
「いやぁ・・・それはどうなのだろうか」
確かにちがやに比べたらそうかもしれないがどっちもすごいだろと王子は心の中でツッコミを入れた
「ちゅーかそんなことより剣はどんなのがええんか?ジェイソン用に手広く作ってたから色々あんでー」
ちがやはガサゴソとバックの中をあさり出したと思えば入るはずのないサイズの武器がゴロゴロと並べられていく
ショートソード
ブレード
大剣
槍
他にも様々な武器が並べられておりそのどれもが一級品のように見える
「私は普通のブレードなら構わないが・・・まさかと思うがこれもちがやが?」
「神器になるであろうギリセーフな武器や!前作った時やりすぎてもーたからなー!」
意味がわからない
なんだよ神器になるであろうって
「それでも神器になってしまうのか!?どうなっているんだ・・・」
「ちがやの作ったものは成長するから・・・気付いたら神器になってるのよ」
「武器が成長・・・?」
どういうこと?と考えているとちがやが身につけたブレスレットがひとりでに動きだしたような気がした
シャリンシャリン
「ちがや、何やら君の腕のブレスレットが動いているように見えるのだが」
「あぁ、この子は元闇の聖杯のスピカやで。帝国の王子と聞いて反応したみたいやな」
それも資料でみた
邪神下ろしのために開発された器
確か黒い杯のような形をしているはずなのだがもはやその面影すら残っていない
綺麗な青白い光を放つ金属製のブレスレットにしか見えなかった
「意思があるのか・・・?」
「スピカとベガは特別よね・・・神器だし意思もあるから」
「まだいるのか!?」
ちがやが腰に装備していたタクトまでもが勝手に動き出し宙を舞う
ブレスレットもそれに呼応して綺麗な音色を奏始める
シュンシュン シャリンシャリン
「タクトがベガでそのブレスレットがスピカ」
「せやでー!最近忙しくて構ってやれんかったな。ごめんな。」
シャリンシャリン
シュンシュン
「なんか喜んでいるような気がする」
「せやでー」
もう考えるのが馬鹿らしくなってきた
そうだちがやは神なのだ
何があっても不思議ではない
そう受け入れて誰にも言わないことを心に誓った
「あぁ、そうだ。ここにはお風呂もあるから一回入るといいよ。綺麗になるし服も準備しておくからさ
「ありがとう」