胡蝶はあきらめない
ひらりひらり…暗闇を虹色の胡蝶が舞う
胡蝶は不運だった 日本という国の世界に産まれ
産まれた時には既に母はいなかった
ひらりひらり…胡蝶はそれでも舞う
胡蝶は父親にも愛されなかった
日々の暴力に耐え懸命に行き続けた
ひらりひらり…だが胡蝶は愛していた
日本の大阪の人達の温もりを…
ひらりひらり…だから胡蝶は諦めずに舞う
肉体を失ってもなお舞い続ける
そして胡蝶は、世界を渡った
この物語は、胡蝶の成長の物語
儚くも弱かった胡蝶が叶えられなかった夢を果たすための途方もない旅路
胡蝶は諦めない
儚いと言われ続けても強く舞い続けるのであった
そして胡蝶は目覚める
「ん??あれ?ウチはなんでここに・・・」
目が覚めるとそこは見覚えのない薄暗い部屋
壁には拷問器具のような物がいくつも置いてあり壁にはところどころ血痕のようなものがついている。
そして自分にも手枷が嵌められており身体も酷くボロボロになっていた。
そんな彼女の横には自分のようにボロボロの姿ながらも美しい銀髪をはためかせている15歳ぐらいの少女がこちらに気付き心配そうに見ていた。
「あなた目が覚めたのね。大丈夫?」
「はっ!ここはなんや!?なんでウチはこんな所で捕まってるん!?それに君も!?」
「落ち着いて、混乱するのも分かるけどあなたと私は帝国の研究材料として捕まったの。私は後からきたんだけど、その時にはもうあなたはボロボロで意識を失ってたわ。」
どうやら自分は研究材料にされるらしいとわかった少女は、一瞬ズンと暗くなるがすぐに首を振りキリッとした表情で隣の少女に質問する。
「君の名前?うちはこゆめちがや!よろしゅーな!」
「あ、うん・・・私はルナ魔法使いよ」
ルナと名乗った銀髪の少女は、すぐに立ち直ったちがやに驚きつつもここにきて初めて笑みを浮かべた。
「それでルナ、今は誰もおらんのか?うちらが話してても平気なん?」
ちがやは辺りを見渡しつつヒソヒソと話しかける。
「うん、この時間は特に何もされないかな。でも夜になると・・・」
ルナは諦めたように俯く。恐らくルナも身も心もボロボロで披露しているのだろう。そう思ったちがやは明るく微笑んだ。
「ほなら、さっさとこんなところ逃げ出さんとあかんな!なんか夢みたいな気がするしいける気がするで!こういう悪夢にはパターンがあって逃げ出せるのが定番やねん!」
ちがやはあれでもないこれでもないと知恵を絞る。ちがやもルナ同然既に満身創痍だが、心は折れていなかった。その姿にルナは励まされ一緒に打開策を探り出す。
そんな時だった。突然、奥の暗闇から怒声と悲鳴が混じり合い激しい衝突音が聞こえてきた。
「え・・・時間にはまだ早いしなんで」
ルナが混乱してるがちがやは切り替えて覚悟を決め暗闇を睨みつける。
すると暗闇からにゅるりとおぞましいお面を付けた2m近くのお男が死体を引きずりながら出てきた。
「ひぃ!?」
ルナは怖がって悲鳴をあげるがちがやはその姿をよく知っていた。何故ならそのお男は・・・。
「ジェイソン!?うそ!?本物!?あ、これは夢やんな うちうっかりしてたわあはは!」
B級ホラー映画のダークヒーローことジェイソンなのであった。
なぜこんな所にと思いつつちがやこれは夢だという疑惑を思い出して爆笑する。
そんなちがやとジェイソンを交互に見て困惑するルナを一瞥するお男。そして、ちがやに目を向け一言だけ話した。
「見つけた よかった」
どうやらお男は2人を探してここに来たらしいと分かったちがやは臆せず話しかけた。
「おっさん、ジェイソンやんな?その姿形ジェイソンそのものやん!なんでこんなところに!?」
質問責めにするちがやを無視してジェイソンは2人の頭に手を置き優しく撫でた。
「助けに来た」
「やっばりな!言ったやろ!なんとかなるって!な!ルナ!」
「え!?え!?でも・・・」
ジェイソンの手は優しいが如何せん見た目が怖すぎる。ちがやとジェイソンを何となく疑いたくなくてその先は口にしなかったがジェイソンは何も言わず2人に嵌められていた手枷をいとも簡単に破壊した。
「うお!?さすがジェイソンやな!これはもう勝ち確やろ!ガハハハ!」
何やらよく分からないこと言いながら豪快に笑うちがやに呆気にとられルナは改めてジェイソンに視線を送ると。
ジェイソンは近くに転がっていた死体を入口目掛けて投げつけた。
「ごめんなさいごめんなさい!許してください!」
「大丈夫やてルナ。ほら、残党でもおったんやろ。な?ジェイソン」
ジェイソンはこくりと頷きちがやの言う通りだったことはわかった。だが、行動がいちいち唐突で奇怪だ。怖がるなと言うのが無理がある。
「ちがやちゃんはなんでそんな安心してるの・・・?怖くはないの?」
ガタガタと震えながらヒソヒソと話しかけてくるちがやに何言ってるんや?と言わんばかりの顔をして回答する。
「だってジェイソンって子供と動物には優しいダークヒーローやん?敵なわけないやろ?」
さも当たり前かのようにいうちがやにジェイソンは何故か額に手を当て上を向く。どうやら泣いてるらしい。
「た、確かに助けてくれたけど・・・あ、そんなことよりまた・・・」
どうやら応援がまたきたようだ。カタカタと革靴で走るような音が響き渡りあっという間に包囲される。
ルナもこの状況でジェイソンを疑ってるわけにはいかないと構えるもジェイソンは2人を守るように前に出た。
「ジェイソンさん・・・?」
その姿にルナは翻弄されるも大きな背中で必死に守ろうとしていることは確かに安心できた。
「ジェイソンならやれそうやけどスプラッターは嫌やな・・・血って洗っても落ちへんし」
「そんなこと考えてる場合かな!?ってジェイソンさん!?」
ジェイソンはわかったと言わんばかりに一呼吸で包囲していた連中を一瞬で無力化してみせた。その力は圧倒的で完全武装していた敵を掴み殺さない程度にボコボコにしている。恐怖を通り越して圧巻であった。
「つよ・・・魔法は使ってないし物理攻撃・・・だよね」
「ガハハハ!やっぱりジェイソンは最強やな!人がゴミのようや!」
嬉しそうにはしゃぐちがやを見ていると怖がってた自分が馬鹿みたいに感じ一緒になって笑い出すのであった。
「とはいえ真正面から逃げ出すんか?流石にやばない?」
大胆かと思えば変なところで冷静なちがやに驚愕しつつもルナは説明する。
「ここまでくる道は一本道だからどの道選択肢は1つなのよ」
「そうなんやな!うーん・・・ルナ、ちなみにここって地下なん?」
「そうだけどそれがどうかしたの?」
「なぁなぁジェイソンジェイソン、あれ、壊せるか?」
ジェイソンの肩にいつの間にか乗ったちがやは自分達の前の天井をさしてきいてくる。
「そんな・・・まさか」
と言い終わる前にジェイソンはこくりと頷き素手で天井を叩き割り器用にも瓦礫からルナ達を守ってくれた。
「えぇ・・・」
それなら最初から上から落ちてくればよかったんじゃないかとジェイソンを見るが素早く2人を抱き抱え上へ上と登っていくので言う暇なんてなかった。
「あはは!なんやこれホラーというかギャグ漫画やんけ!ジェイソンチート過ぎるやろ!」
相変わらずちがやは楽しそうにジェイソンの肩をバシバシ叩きつつ爆笑してるがルナはジェイソンのスピードとパワーを間近で感じ悲鳴を上げながら必死に捕まっていることしかできなかった。
そうして数分後、ジェイソンの超パワーのおかげで2人は難なく監禁場所から脱出した。
「なんなのよもう・・・」