第九十五話 魔王国へ
デベロ・ドラゴで過ごす二日目の夜も宴となった。《上級状態異常回復魔法》があるから、二日酔いなど気にしなくていい……が、リーナさん曰く、酒の在庫はあまりないらしい。だから、今回のこれはみんなにとっても特別な宴だ。
リーナさんが映写機魔道具を手にしている。映像を記録出来る魔道具だ。映写機と呼ばれているが、撮影も出来る。その形は映画撮影で使うような大型のカメラで、撮影したものを鑑賞する事が出来た。
サイズも解像度も保存容量も、スマホの足元にも及ばない、笑っちゃうくらいに低スペックのカメラだ。
そのお値段……なんと5億円! そりゃカメラが中世ヨーロッパにあったらそうなるよね!
貴族様御用達の映写機に感動している人たちの前で、大したリアクションしなかったのが運の尽き。
「英太、もっと凄い映写機が作れそうだな!」ギルマスにバレた。
「それは綺麗に映せる魔道具と見た」リーナさんに当てられる。
「とっても綺麗なサーシャちゃんを残しておきたいなぁ!」マリィさんが弱みを突いてくる。
「私も映して欲しい!」マリヤちゃんには敵わない。
「英太よ! 王命じゃ! 創るのじゃ! 置き土産じゃ! 妾は欲しいのじゃあ!!」
欲しがりの王様は、一度こうなったら聞かない。王命ってさ、一応は俺も王様なんだけどね。
「わかりましたよ」
グゥインだけでなく、移民のみんなも創造の魅力を知ってしまった。期待のこもったキラキラした視線が刺さりまくっている。
くそっ……こうなったら、最高水準のものを作ってやる……映写機魔道具をベースにしたまま、サイクロプスの魔石を埋め込む。目のイメージを強く持ちながら、撮影と再生専用のスマホをイメージする……スマホだ……スマホだ……俺は創造レベル6だっ!!
そうして出来上がったカード形の映写機。
前世の2025年段階で売られていた、最新スマートフォンのカメラ機能のみを搭載した魔道具が完成した。詳しい回路はわからないが、使用方法をイメージするだけで創り上げる事が出来た。全てを丸投げさせてくれたAランクの魔石に感謝。
そして、完成した瞬間に感覚で理解した。創造のスキルレベルがまた上がったのだ。ダンジョンと魔道具の創造……もしかしたら、スキルレベルのアップ条件が『作った量』から『作った物の種類』に変わったのかもしれない。
「使い方を教えるのじゃ!」
「私も撮りたい!」
2025歳児と5歳児がカメラを奪い合う。
「仲良くしないとダメだよ」
俺はみんなにカメラの使い方を教えた。和気藹々とした撮影会。最初は照れていた被写体のサーシャも、徐々にこなれたポージングを始めていた。
カメラ文化を手にした初日のデベロ・ドラゴでは、写真だと思っていたら動画撮影だったよー! というベタなやり取りに1日でたどり着いた。
お子様たちが飽きるのを待ってから、大人たちが値踏みを始める。
「凄すぎて言葉にならないな」
「マジックバックと同じで、生産量を減らして貴族専用にした方が儲けは大きいけど……これは、世界の人々を幸せにする道具だよ」リーナさんが言う。
「でもなぁ……作れるのが英太だけの物を流通させるのは、英太の安全面を考えてもお勧め出来ないよな」ギルマスは首を捻った。
「そのうち、向き合わなければならないでしょうけど、今はまだ……純粋にこの国を幸せにする事だけを考えたいですね」マリィさんが言った。
特別な力を持ち、大聖女という肩書を持ちながら、教会の闇に心を痛めた人だ。人間の欲に対して、思うところは多いだろう。
国の発展にはお金が必要だ。俺がいればその必要はないかもしれない。俺に依存しない国にしていく為には……大人組は、誠実に頭を捻ってくれていた。
国王よ……5歳児と競い合うのはほどほどにして、大人組とも語り合ってくれよ。
国を想う楽しい夜が更けていく。
明日の朝、魔王国へと旅立つ事を決めた。
☆★☆★☆★
午前中の仕事はお休みにして、ツバサと睡眠組を除いた国民全員が第二区画に見送りに来てくれた。
俺はグゥインにもマジックバックを手渡した。ギルマスが管理するものと共通で、中身を取り出せるものだ。
「大事な『デベロ・ドラゴ』の資源だから、緊急時以外は、ギルマスと話し合って使ってくれ」
「あいわかった!」
「話し合おうぜ、国王!」
「そうじゃな、ギルマス!」
「ちゃんと監視しておいてな」
密かにアドちゃんに頼んでおく。
「だよ」
だよ。じゃわからないが、任せておけ! だと信じる事にした。
「ゴレミよ! 参れ!」
突然グゥインがゴレミを呼びつけた。ゴレミは転移魔法でも使ったかのような速度で現れて、跪く。
「英太よ! ゴレミを強化するのじゃ!」
「強化……創造し直すって事か?」
ゴレミにも頼まれていた。補強ではなく、再構築か……
「妾の鱗じゃ。新鮮なものじゃぞ」
グゥインが鱗を手にしている。アイテムボックスにある鱗も劣化しないんだが……こういうのは気持ちだしな。
「わかった……核も5つに戻さないとな《ゴーレム創造》」
瞬い光がゴレミを包んだ。俺のイメージがそうなったのか……創造のスキルレベルが6に上がった効果なのか……変化したゴレミの姿に驚きが隠せない。
「ゴレミ、隠蔽魔法使ってないんだよな?」
「はい。私はどのようになっているのですか?」
「ふふん、ゴレミよ、とても可愛いぞ」
「可愛い!」
マリィちゃんが、ゴレミに動画を見せる。カメラに映ったゴレミの姿は、隠蔽魔法で慣れ親しんだ拳聖レミの姿に変化していた。
ゴレミは言葉を失って、目に涙を溜めた。涙が出るなんて、スキル『人化』の影響だろうか……
「其方が妾の称号により苦しんだ事は聞いておる。ゴレミよ、其方に新たな称号を与えよう……黒竜拳じゃ!」
「有り難き幸せ!」
「さて、英太よ! ゴレミを連れていくのじゃ!」
「元からそのつもりだよ。次はもっと沢山の友達を連れて来てやるよ」
「良い男もね!」リーナさんの野次が飛ぶ。
「……努力します」
次は魔王国だからな。連れて来ると良い男の魔物になるけど……
「さあ、行くぞ」
先陣を切って結界の中に飛び込んだのは、ゴレオだった。何かがあった時に、犠牲になるつもりなのだろう。次にゴレミが飛び込んでいく。
「じゃあな、グゥイン!」
「頑張ってきます!」
「うむ! 気をつけるのだぞ、英太、サーシャ!」
俺、サーシャ、ルーフが続けて結界に飛び込む。
その時……バチバチィッ! と、弾ける音が聞こえた。
なんだ? 嫌な予感がしたが、もう何も見えないし聞こえなくなっていた。
始めて人間国に向かった時と同じような、何とも言えない死の感覚に包まれる。
☆★☆★☆★
視界が開けた時……目の前にあったのは、朦朧としているゴレオとゴレミの姿。
そして、背後にはほぼ同時に転移して来たであろうサーシャの気配がある。
「お主ら……何者じゃ?」
声の方向に注意を向ける。目の前には3メートルはあろうかという巨体の持ち主がいた。
「我が名はデスルーシ……我が城に忍び込むとは、死の覚悟があっての事であろうな」
魔王国の城主……?
いきなり大物にエンカウントしてしまったみたいだな……戦うのか?……いや、穏便に済ませなきゃ……
「もう一度聞く……魔王と闘う覚悟はあるのか?」
魔王デスルーシの手のひらから発される強大な魔力量からは……死の予感がびんびんした。
長かった第三章完結です。ありがとうございました。
本日の夜に幕間の物語。明日の0時と昼に設定資料を投稿します。
4月からは少し時間を巻き戻して、グゥイン視点の物語、第四章『妾は国を創るのじゃ!』を投稿させていただきます。
是非、ブックマークと星の評価をよろしくお願い申し上げます。




