第九十三話 歓迎の宴
俺が居ない1ヶ月の間にツバサが死んだ?
子育ても何もあったもんじゃない奴らと、凶暴なホムンクルス……あり得ない話じゃない。
俺はグゥインとアドちゃんを引き連れて、家の屋上に転移した。
「正確には仮死状態じゃ。ツバサは成長が著しくてのぅ……しかも人化も出来ぬときた……魔素を吸い減らしていくのが手に取るようにわかった……それを重く捉えたツバサは、自ら眠りについたのじゃ……」
「……自分から?」
「死んだように眠ってるんだよ。そのおかげで、魔素の減少は収まったよ」
「それは、どのくらい前の話なんだ?」
「英太たちが外の世界に向かってから、10日くらいかの?」
「狙って仮死状態になったのかな?」
「だよ。せっかくサーシャが頑張ってくれてるのに、ツバサは馬鹿だよ」
「本当の死ではない、というのは救いじゃ……その反面、ふっと死が確定した時に深く悲しんでやれん気もしてのぉ……ともかく、妾たちは受け入れた。いつかあの阿呆を叱ってやれる日まで、待つ事にしたのじゃ」
「ツバサは今何処に?」
「ユグドラシルの大樹の側で寝かせておる。明日にでも案内しようぞ。さあ、今日は楽しむのじゃ! ツバサもそれを望んでおるじゃろう!」
そうだよな。みんなが割り切っているのに、俺が暗い顔してちゃダメだよな。
ちょうど料理が出揃ったようだ。フライング気味に果実を貪るハイエルフの姿が見えた。
☆★☆★☆★
「では、改めてデベロ・ドラゴの国王であるお二人からご挨拶を賜ります」
ただの宴会であり、デベロ・ドラゴに初めての移住者を受け入れる式典の意味合いもある。司会をするのは、元リーダーゴーレムで、現在は騎士団長を務めるゴレ……ドラゴレンヌだ。
「わたくしは、ゴーレムたちを束ねるゴレンヌと申します。皆様以後お見知りおきを」
「あれ?」
俺の疑問符に、ゴレミがすかさず反応する。
「デベロ・ドラゴでも『ドラ』を付けるか付けないか問題で一悶着があったそうです。アドちゃんさまの策が功を奏し、『ドラ』撤廃に至りました」
「だよ」
アドちゃんは得意げだ。
「えー! 妾がグゥインである! 堅苦しい挨拶はいらぬ! 皆が楽しめる国家を創りたい! 共に楽しもうではないか!」
「えー、英太です。僕はまたすぐに結界の外に出てしまいます。国と街の発展には、みなさんの協力が不可欠です。色々協力してください。よろしくお願いします」
手短な挨拶の後、サーシャの「かんぱーい!」という元気いっぱいの声が鳴り響いた。
表情を見るだけで、みんなが心から楽しんでいるのがわかり、安堵する。
ラブラン、リンガー、アイラたちも目覚めてくれたら良かったが……未だ爆睡中だ。
夜は更けてゆき、みんなで五区画に向かった。ユグドラシルの大樹とツバサの様子を見る為だ。
「この世のものとは思えないね」
リーナさんは首が折れそうな程に上を見上げている。
「サーシャちゃん、木登りしよ!」
マリヤちゃんの提案は、マリィさんによって却下された。神聖な木に登るなんてとんでもないとのこと。登る気満々だったハイエルフは、何処か恥ずかしそうにしている。
「英太よ、こっちじゃ」
グゥインが進む先には大きな黒の塊があった。
「……デカっ……これ、ツバサなのか?」
そこに居たのは、全長3メートル程のブラックドラゴン。俺たちが外の世界に旅立つ前は30センチ程だったのに……いったいどういう事なんだ?
「そうじゃ。あれよあれよと成長しおっての……」
「グゥインもそうだったのか?」
「わからぬ。妾は生まれた頃の記憶を失っておるからの」
……そうだった。失念。
「ちょっと鑑定してみるな《詳細鑑定》」
名前:ツバサ・鏑木カブラギ
年齢 : 0
種族:黒竜
レベル:XXX
HP:35,500/35,500
MP:35,500/35,500
基本能力
筋力:S+
敏捷:S
知力:G
精神:G
耐久:S
幸運:E
ユニークスキル
✹⛢ᚩⲭ⨀
スキル
煉獄の炎
氷結の息
厄災の舞
聖なる雫
状態:仮死状態。自ら行った休眠状態。本人が取り決めた条件を満たすまで目覚める事はない。
……確かに仮死状態だ。それよりも、能力の成長具合が半端じゃない。仮死状態になってなかったら、グゥイン並になってたんじゃないのか?
そんなツバサが、生まれたての時のような粗暴なやつに戻ったとしたら……国なんて一瞬で壊滅してしまう。
「どうじゃった?」
「仮死状態で間違いない。本人の決めた条件を満たすまで……」
「どうした?」
「ユニークスキル……文字化けして……いや、古代言語か? 読めないんだけど……何かしらのユニークスキルを手に入れてる? 手に入れようとしている?」
「うむ、リポップかもしれんな」
「リポップ……まさか……」
「此奴と妾は似ておる……そうであっても不思議ではない。もしそうだとしたら、可哀想じゃの……」
自分と同じスキルを持つのは可哀想か……お前の方こそ可哀想だよ。
あり得ない話ではない。グゥインとツバサのスキルは、ユニークスキルを持たない事以外は全く同じだった。
「まあ、考えても仕方ないのじゃ……安心せい。第五区画はアドちゃんによる仕掛けがせれておる。目覚め次第、ドライアドの根で拘束する」
「拘束……」
「なんじゃ? その心配をしておったのではないのか? ツバサが暴走すれば、国民に危険が及ぼう……その時は、妾がこの手でツバサを葬り去る」
「リポップがあったら意味ないだろ」
「1週間の猶予がある。その間に国民を避難させ、次に結界が開いた時に脱出させればよい」
「じゃあ、お前は……」
「妾はツバサの親じゃ。責任を取る立場にある」
グゥインの奴……そこまで考えていたのか……
「起こってもない事で悩むのはやめよう。暴走するって決まった訳でもないし、そんな事は鑑定されてない」
「うむ、シュレディンガーのドラゴンじゃろ? そのつもりじゃ。だからバンバン移民を集めるがよい」
「よく覚えてたな」
「忘れてたまるか。妾は、英太と出会ってからの事は全て覚えておきたいのじゃ」
可愛い事を言ってくれるな……
「なぁ、俺たちが外に出てからの事を聞かせてくれないか? 必要な事だけじゃなくて、無駄な話も、たくさん聞きたい」
「ふむ、反省したようで何よりじゃ。そうじゃのぅ……では、余す事なく聞かせてやろうかの」
俺たちは、お互いが過ごした1ヶ月の出来事を余す事なく語り合った。




