第九話 土魔法の成長
『死の大地』に初めて地図が誕生した。俺とグウィンは何度も島を探索した。とは言っても、素人目には見分けもつかないような質の良い土(当社比)を発見するだけのものでしかなかった。
しかしその中にも法則は発見される。質の良い土は、六芒星の形をした島の各先端部分に多く見受けられたという事。その中でも、圧倒的に8時の位置の土が栄養を持っていた事だ。
ゴーレムたちは定期的に8時の位置の島端に遠征を繰り返す。島の中では質は良い方でも、野菜を育てるのも難しい土だ。そもそも種も無いのだが、それでも可能性を信じて万全を期すしかない。
ゴーレムたちは文句も言わずに働いている。リーダーゴーレムがそれぞれに指示を出している。
「キミタチ、ツチヲカタメテ、キミタチ、ツチヲホッテ」
王城を予定している土地の地盤を固めつつ、堀になる部分の土を削っていた。『創造』の材料に回すように土が山積みにしてある。うん、魔力使い放題だね。
「ふむ、頑張っておるようじゃな」
グウィンはゴーレムたちの働きを満足げに眺めていた。
「英太、配下たちは頑張っておるぞ」
「ああ、頑張ってくれたぶん、ご褒美もやらないとな」
「おお! さすが妾の心の友じゃ!」
え、ゼロから『心の友』って言葉にたどり着いたの? 『英太の物は妾の物、妾の物は妾の物』とか言い出すんじゃないよな?
「早く作るのじゃー友達よー!」
「わかりましたよ」
無駄に巨大な我が家の隣に、ゴーレムハウスを建設するのだ。その為に使う土がこんもり用意されていた。
「《創造》」
詠唱と同時に土壁が盛り上がっていく。家という名の倉庫ではあるが、ゴーレム13体を収納する必要がある。魔力限界まで大きな壁を作らなきゃならない。……ん?
「どうしたのじゃ?」
「いや、なんかいつもと違うんだ」
大きな壁が出来上がった。何かがおかしい。土がぬめぬめっと上がっていったような。
もう一度手をかざす。
「《創造》」
土壁が出来上がる。土が以前より滑らかに、軽やかに動いている。何よりも魔力の消耗が少ない。。
その可能性を感じて、ステータスを開く。
ステータス
名前:鏑木英太
年齢 : 15
職業:デベロッパー
レベル:1
HP:100/100
MP:10/50
ユニークスキル
•創造
スキルスロット
1.全属性魔法
2.言語理解
全属性魔法を開く。殆どがレベル1のままだった。しかし予想通り。
《土Level2》
土魔法のレベルが上がっていた。自由度が上がっている。まるでずっと足にまとわりついていた重りが外れたような、そんな自由さだ。
「英太よ、どうしたのじゃ?」
「スキルレベルが上がったみたいだ」
「なんと! 土魔法か?」
「ああ、そうだよ」
「むう、英太は本当に不思議な奴じゃ。クリエイトで作っていたと思っておったが、土魔法との合わせ技だったようじゃな」
スキルレベルが上がって土の動く感覚が変わった。正確な数値はわからないが、間違いなく消費魔力も減っている。あれだけ作ってようやく1つレベルが上がったと捉えるか、こんなに早くレベルが上がったと捉えるか。
ともかく自由度は増した。
「やったぞ英太! 未来は明るいのじゃ!」
背後からグウィンに抱き抱えられる。現世でなら気絶不可避の猛スピードで空高く舞い上がった。
「嬉しーのじゃー嬉しーのじゃー!」
灰色の大地を旋回する。目下には、着実に作業をするゴーレムたちの姿があった。
堀が掘られ、区画が整えられている。俺たちの家の隣にはゴーレムハウスも建築される。街を形造るものが少しずつ増えていく。急ぐ必要はない。少しずつ大地に「街の形」を刻んでいこう。
「妾たちの『デベロ・ドラゴ』は、国に近付いておるな」
「……ああ、そうだな」
俺たちはその光景を見下ろした。
まだ国と呼ぶにはほど遠い。見渡す限り茶色い、まるで土の王国。ただの荒野に、二つの建造物と働くゴーレムがいるだけだ。
だが、この場所が確実に「何か」に向かって動き始めているのは間違いない。
「英太よ、この調子で行くぞ!」
「ああ!」
「興奮してきたぞな! 妾は今、猛烈に炎を吹きたい気分じゃ!」
「おい! 今はやめろよ! マジで! 本当に!」
ゴフォー、と炎が漏れ出た。
「おい! 熱いって! 髪の毛燃えてないよな!?」
「すまん、嬉しさが抑え切れなんだ!」
犬が嬉しい時にお漏らしする『うれしょん』みたいなものなのかな? 指摘するのは自重しておく。絶対に怒られるからだ。
俺の後頭部は間一髪で炎上を免れたようだった。今後グウィンには、興奮している時は一緒に飛ばないと宣言した。
「それは嫌なのじゃ……抑えられるように頑張るのじゃ……」
あからさまに落ち込むグウィンを元気付ける為に、クリエイトを再開する。干し肉を頬張って魔力を回復する。
「《創造》」
両手を広げて魔力を放つ。2面の壁が同時に出来上がっていく。一度で魔力は底を尽きたが、魔力効率は大きく上がっているようだ。
干し肉を頬張る。
「《創造》」
干し肉を頬張る。
「《創造》」
ノンストップ魔力回復により、あっという間にゴーレムハウスは完成した。
「凄いのじゃ!」
「流石に疲れたけど、土製なら効率よく作れそうだ」
「ゴーレムたちも大喜びじゃな!」
グウィンに召集されたゴーレムたちは、無言で待機している。
「喜ぶのじゃーーーー!!!」
「ウレシイ、オウチ、アリガト」
かろうじてリーダーゴーレムが感謝の言葉を述べる。
「感動が伝わらないのじゃ!」
そりゃ無理でしょ? そこ機能が無いんだから。
「グウィンは、心を持ったゴーレムが欲しいのか?」
「ふふん、それだけでは無いぞ! 妾が欲っするのは全知全能、森羅万象、天上天下唯我独尊のゴーレムじゃ」
「俺じゃ作れなそうだな。却下」
「欲しいのじゃー! 心の友ゴーレム欲しいのじやー!」
「一体だけだぞ」
「英太のそういうチョロいところが大好きじゃ!」
聞こえてない、聞こえてない。
魔力効率が上がったという事は、作れるゴーレムの性能も上がっていると考えられる。イメージする。人の心を理解する、孤独なドラゴンの話し相手になれるゴーレムを!
「《創造》」
土が隆起して、ゴーレムの形が形成されていく。
しかし、すぐに俺は天を仰いで深いため息をついた。魔力の問題なのか、スキルの問題なのか、その両方か……とにかく、今の俺には心を理解するゴーレムは作れない。
「ゴーレムよ! 妾は貴様の主人である! グウィン様と呼べ! 敬うのじゃ! ……? 英太、こやつ人語は喋らんのか?」
「ごめん」
「心の友ゴーレムは作れなんだのか……」
「魔力が全然足りない。人の心を理解するような上位ゴーレムを作るには、今の俺じゃ全然足りないみたいだ」
実際には、ゴーレムの性能は上がっていた。動きの速度は上がっているし、パワーも段違いだ。
イメージは出来ているのに作れない。技術だけではどうにもならない壁があった。魔力という器そのものが小さければ、どれだけ精巧な設計図があっても意味がない。
ステータス画面を眺める。
ステータス
名前:鏑木英太
年齢 : 15
職業:デベロッパー
レベル:1
HP:100/100
MP: 0/50
ユニークスキル
•創造
スキルスロット
1.全属性魔法
2.言語理解
レベル1のままでは、やれる事に限界がある。なんとかして現状を打破しないといけない。
「なぁグウィン、レベルを上げる方法は知ってる?」