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ゲームみたいな異世界に転移した俺、最強のチートスキル《創造》でブラックドラゴン娘と一緒に荒野を復活させていたんだが、何故だか邪神扱いされていた件  作者: しばいぬ
第三章 亡国のフレイマ

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第七十九話 手を伸ばした範囲

 『奴隷救出部隊』は、ギルドの応接室に集合した。ミッションが終わり次第、ギルマスたちとここで合流する事が決まっていたのだ。


 まだギルマスの姿はない。『アラミナ収束班』のアイラ、リンガー、ラブランの姿も無かった。


 俺はタルトに連れられて、犠牲者が安置されている即席の遺体安置所へと向かった。


「疲れているところ申し訳ないが、『漆黒』のリーダーである以上、エイタには見ておく必要がある」


 タルトの言葉は胸に刺さった。見ておくのは、この惨劇が齎したもの。


 リンガーとラブランが手分けして、街の人と盗賊たちの遺体を仕分けていた。リンガーは全ての遺体に浄化魔法と簡易的な治癒魔法をかけている。


 俺はその場で手を合わせた。思考ではなく、反応でそうしたのだ。


「変わった仕草だな。死者を弔う為のものか?」


 タルトはそう言いながら、胸に手を充てて目を閉ざした。この世界の弔いなのだろう。


 祈りを終えたタルトは更に奥へと進む。


「遺体の見分なんてやっている余裕はない。流石にリーダーのカマロや、教会関係者となったら別だがな」


 俺が聞く前にタルトが言った。そしてタルトはマジックバックから、カマロ一家のボス、カマロの身体と首を取り出した。


「リンガー、カマロだ。そのままにしておいてくれ」


 リンガーはカマロの死体にあからさまな嫌悪を向け、作業へと戻って行った。


「リンガーを奴隷商に売ったのは、盗賊団なんだ。カマロ一家ではないが、カマロ一家に流れた奴も大勢いる」


 タルトの言葉は最低限だったが、リンガーの受けた行為が想像出来て胸が痛んだ。


「エイタ、こっちだ」


 タルトが奥の扉を開けると、そこには布をかけられた丸い何かがあった。それは、四肢を切断された獣人の遺体だった。この状況には関係あるが、この人物の関係者ではない……俺は布を捲るのを躊躇った。


「……お前は見るべきだ。そうでないと、俺の大切なサーシャを任せられない」


 タルトはそう言って、布を捲った。手足の無い獣人の少女が三人……猫……だらうか……耳と尻尾がある以外は、人間となんら変わらない女の子だった。


「これが人間国の現状だ……」


 タルトはそう言って、布を戻した。そして獣人たちに祈りを捧げる。俺も一緒に手を合わせた。


 俺たちは安置所の外に出て、崩壊したアラミナを眺めながら話をした。


「幸いな事に、ここまで腐っているのは、教会の上層部とゴルディアの上級貴族たちだけだ」


 教会が腐っているだけで充分だと思うが……権力者と宗教か……強大な敵だな。


「今のところだけどな……ゴルディアの大物奴隷商人『トミー』が、この下品な『お遊び』を流行らそうと必死だ。魔物で始まり、人間の奴隷でも行われるようになり、ついには他種族にまで手を出し始めた」


「魔物も、他の種族も、人間も、一緒に仲良く暮らせる日が来るといいな」


 俺はグゥインの事を考えていた。でもグゥインだけではない。言語を操り、コミュニケーションを取れる魔物なら、嫌悪する存在では無い。


「そうだな。そう言って貰えて嬉しいよ」


「ゴルディアの奴隷商人を止めればいいのか?」


「ゴルディアの腐敗そのものをどうにかするのは、俺たちだけでは無理筋だよ。奴隷商を潰したとしても数十……いや、百以上の貴族からの需要は残る」


 確かにそうだ。需要が残るなら、供給する者が新たに現れるのは当然だろう。


「……それこそ、勇者と魔王がそうしたように、国ごと消滅させるしかない」


「物騒なこと言うなよ」


「俺たち『紅蓮の牙』が、ルウィネス王国周辺の貴族様からの後ろ盾を得て、A級冒険者になったのは聞いてるか?」


「なんとなくは聞いてるよ。A級冒険者になる為に泥水すすりまくったんだろ?」


「そうだが、少し違うな……楽しかったんだよ。冒険する事が……ルウィネスの貴族様たちは、比較的穏やかでな……税の取り立ても少ないし、礼儀作法さえ守れば、傍若無人な仕打ちなんて受けないんだ」


「そうなのか」


「ルウィネスの貴族様から報酬として奴隷を賜り、その奴隷たちを入れる孤児院を作り、成長した奴らに孤児院を任せるのが……楽しかった。教会の横槍が入った事もあったが、元々ビジネスじゃないしな……すぐに無くなったよ」


「孤児院に横槍まで入れるのか」


「当然だ。まあ、ほとんどトラブルらしきものは無かったさ……一番のトラブルは、ラブランが『一緒に冒険者になる』って言い出した時だな……あれは困った」


「嬉しく無かったのか?」


「まさか。危険だし……それに足手まといでしかなかったからな」


「確かに……タルトと三人では力量に差があるな」


 ホワイトドラゴンを倒す前……レベル70そこそこのタルトでそうだったのだ。今は次元が違うだろう。


「アイラとリンガーは魔法が使えたからいいが……ラブランは本当に努力したよ。今では……まあ、今でも一人の方が動きやすいのは変わらないな」


 酷いようだが、愛情故なのだとわかる。


「俺たちも足手まといか?」


「『漆黒』か? うーん……サーシャが少し不安だが、ドライアドの防御と回復は強力だしな。ゴレミとエイタは頼りになる。ルーフは俺の10倍は強い」


 やはり、ルーフはチートだな。グゥイン級なのかな?


「力の足りない俺たちでも、奴隷解放の糸口を掴める場所……その可能性があったからアラミナにやって来たんだ。他種族の奴隷が流れているのが分かれば、教会や貴族様でもひとたまりもないからな」


「そうか……それじゃ……」


「お前らに協力は望まないぞ」


「どうして?」


「……お前たちには時間の制限があるんだろ? 本来の目的と、大切な仲間と向き合え」


 満月まであと一週間だ。一週間で出来る事……状況の把握や、手の届く範囲の救出しか出来ないだろう。


「わかった。でもな、俺たちはすぐに戻って来るんだよ」


「どうしてだ?」


「俺たちが欲する魔素は、ちょっと量が多くてな。半年以内に大勢の移民を集めないといけないんだ」


 グゥインは食事も出来るが、アドちゃんやユグドラシルは魔素しか吸えない。


「そうか……大量の魔素か……」


「何かあてがあるのか?」


「いや、あてはない。魔素なら魔物だよな……テイムする事が出来ればな……という程度だ。サーシャがルーフを従魔に出来たのは運が良かったな」


 俺は、ルーフが魔素を栄養にするタイプの生命体だという事を教えた。


 タルトは無責任にも爆笑した。


「おい、こっちは死活問題なんだよ」


「すまん……でも、サーシャらしいな」


 俺たちはもう一度、遺体安置所にそれぞれの方法で祈りを捧げてから、ギルドの応接室へと戻った。


 そこに居たのは、サーシャ、ゴレミ、ルーフの3人だけ。ギルマスはまだ戻っていないようだった。


「ショウグン殿に何かあったとは思えないが……妙だな」タルトが首を捻った。


「受け付け嬢のニーナさまに聞いたところ、野暮用との事でした。きっと教会に向かったのだと思われます」ゴレミが説明する。


「教会……」


 きな臭い。隷属魔法に支配されたギルマスも、死体となったギルマスも用意に想像出来た。


「タルト、俺は教会に向かおうと思う。一緒に来てくれるか?」


「当然だろ!」


「……では!」「はいっ!」


 立ちあがったゴレミとサーシャを制止する。教会では何を目にするかわからない……今回は俺たちだけでいい。


「二人とルーフは待機だ。拘束した野盗が暴れ出すかもしれない」


「はい! わかりました!」


「英太殿、サーシャは我に任せておけ」


 元気よく返事をするサーシャに、全てを理解した様子のルーフが言った。腹を撫でられて悶えているので、けしてカッコ良くはないが、心から頼りになる。


「じゃあ、行ってくる」


 俺とタルトは、宿屋近くの教会へと転移した。周辺には人の気配が無かった。倒壊した建物もあったが、無傷のものも多い。教会の中も同様で、ただ人の気配が無いだけだった。


 それがおかしい。


「タルト、念の為ににギルマスの家に行ってみないか?」


「わかった」


 俺たちはギルマスの自宅に転移する。中にギルマスはいなかった。そして、やはり……


「エイタ、どうかしたのか?」


「マリヤちゃんの姿がない」


「ショウグン殿の娘か……ならば避難しているのでは?」


「だったらギルドにいる筈だろ?」


「それはそうだな。ショウグン殿が指定した避難所は『ギルド』か『教会』だ。ならば娘がいるのは教会だな。正当な進入の理由が出来たな」


 前世基準ではその理由だと間違いなく不法侵入になるが、なったとしても向かう事にはかわりない。


「教会には保護されている筈の人の気配が全く無かった」


 俺たちは再び教会へと転移した。

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