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ゲームみたいな異世界に転移した俺、最強のチートスキル《創造》でブラックドラゴン娘と一緒に荒野を復活させていたんだが、何故だか邪神扱いされていた件  作者: しばいぬ
第三章 亡国のフレイマ

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第七十八話 奴隷救出作戦

 カマロ一家のアジトは想像していたよりもずっと巨大で、アラミナの半分程度の大きさがあった。


「では、作戦を決行する。救える命に集中しろ、救えなかった事を嘆くのは、全てが終わったあとだ」


 タルトの声が静かに響き渡り、全員が神妙な顔で頷いた。俺たちは二手に分かれる。


 サーシャは軽やかな足取りで木の上に登っていく。枝の間で身を潜めながらドライアドを召喚し始めた。木の下ではルーフが鋭い眼光で周囲を警戒している。


 アジトの周囲には300を超えるウルフが静かに息を潜めていた。しかし、その姿は隠蔽魔法で透明になっており、完全に景色と一体化している。


 俺、タルト、ゴレミの三人は、アジトの内部へと忍び込むことに成功した。懸念していた侵入を阻む魔法はかかっていない。門番に二つの合言葉さえ答えればよかった。


 ちなみに、合言葉を手に入れたのは、俺の『交渉』スキルではなく、ギルマスの『拷問』の成果だ。


 ゴレミが奴隷の気配を探知する。ゴレミの探知能力は『悪意』を見抜く事に特化してるが、逆を言えば、悪意を発していない人間を見抜く事も出来るのだ。


「空間が悪意で満ちています。奴隷と野盗を判別するのは困難です。しかし不自然に何の気配も感じない空間があります」


「間違いないな。規模は?」


「空間の規模はギルドの1/3程度です。収容人数は探知出来ません……そことは別に、弱った生命体の気配を感じます……同じ部屋に野盗も一緒にいると思われます」


「エイタ、二手に別れるか? たぶん後者は、ゴレミには見せられない状況にある」


 タルトの声には重いものが混じっていた。


「わかった。俺とゴレミは気配の無い場所へ向かう」


「ゴレミ、その生命体の気配はどこにあるんだ?」


「この道を真っ直ぐ、突き当たりを右に曲った四番目の部屋です」


「わかった」

 

 タルトがマジックバックから大剣を引き抜き、足音を立てずに駆け抜けていった。


「俺たちも急ごう」


 ゴレミの案内を頼りに進むと、不自然な空気が漂う場所にたどり着いた。俺のオートスキル『隠蔽看破』が働いて、目の前に堅牢な部屋が浮かび上がってくる。


「隠蔽魔法がかけられている。部屋の中までは確認出来ない……」


「罠が張られている可能性が高いと存じます」


「そうだな……でも、ここで足踏みしてはいられない」


「強度に特化したゴーレムをクリエイトしてください。罠にかかって貰いましょう」


 ゴレミからすればゴーレムは同族だ。それを犠牲にするという提案に、少し胸が締め付けられた。しかし、作戦としては上出来だ。俺はマジックバックから『死の大地』の土を取り出した。


「《創造クリエイトゴーレム生成》」


 呪文を唱えると、土が形を成してゴーレムが立ち上がった。


「英太さま、入り口は何処にありますか?」


 俺はドアの位置を指差す。ゴーレムが小さく頷き、その方向へ進んでいった。


 バチッ、という鋭い音が空気を裂いた。触れるものに電撃が流れる仕掛けらしい。ゴーレムがドアに力を込めると、電撃がその体を削っていく。


「結界が解けました。中に生命体の反応があります」


「盗賊のものは?」


「感じません。高度な隠蔽がなされていなければ、ですが」


「わかった。行こう」


 ゴレミが入口で足を止めた。


「どうした?」


「英太さま、動けなくはなりましたが、核は残りました。優秀なゴーレムです。後ほど新しい身体を与えてください」


「わかった」


 ゴーレムの残骸をアイテムボックスに収めながら、室内へと足を踏み入れる。そこに広がったのは強烈な臭いだった。垢と埃にまみれた人間の匂い……


 暗がりの中、目を凝らす。目の前にいたのは手足を拘束された、人間の奴隷だった……獣人やエルフなど、他種族は見当たらない。


 怒り、吐き気、安堵感、絶望……様々なものが込み上げてくる。


「英太さま」


「ああ……《浄化魔法クリーン》《全体回復魔法ヒール》」


 呪文を唱えると、奴隷たちの汚れがみるみる消えて、表情に生気が戻っていく。


 どうやら、奴隷たちには隷属魔法がかかっていないようだ。使い手が限定されているのだ。奴隷は魔法で管理するシステムではないのだろう。


「俺はギルドからの使いだ。君たちを『カマロ一家』から解放する為にやってきた。これからギルドに転移する。着いてきてくれるか?」


 全員が小さく頷いてくれた。


「窮屈だが、身元が確認出来るまで檻に入って貰う。少しの間、我慢してくれ」


 創造クリエイトで檻を作り、奴隷たちをその中に入れる。手を繋いでもらってから、転移魔法を唱えた。


転移魔法テレポーテーション


 檻がギルド隣接の解体場に着地する。


 解体道具を見た誰かが悲鳴を上げた。そりゃ勘違いするよな。申し訳ないが、広くて安全な場所がここしかなかったんだ。


 ギルドの中は避難してきた人たちでごった返していた。喧騒の中、宿屋のリーナさんの姿がちらっと見えた。話をしたいが、今ではない。


 ギルマスを探したが見当たらない。教会に行ったのか……? 受付のニーナさんに事情を説明して、再びアジトへと転移した。


 さっき奴隷がいた部屋は、今や盗賊たちで埋め尽くされていた。全員、意識を失ってる。


「ゴレミ、これは?」


「英太さまが転移なさった後、すぐに盗賊たちが押し寄せました。殺さずに鎮圧するのは一苦労でした」


 そこに、タルトが血の匂いをまとって現れた。大剣には赤い跡が残ってる。


「タルト……どうだった?」


「全員殺した……ボスのカマロも居た……首はマジックバックに入ってる」


「そうか……奴隷は?」


「獣人の娘が三人……俺が殺した……」


「……なんで」


「殺してくれと嘆願されたんだ。四肢を切断され、舌を切られていた。死なないように傷は回復されて、おもちゃになっていた……遺体はギルドに運んである」


「だからって……」


「英太さま、タルトから悪意は感じません」ゴレミが制止する。


「だからって……そんな……」


「俺には欠損を修復する程の回復魔法は使えない。いや、大魔導師のアンカルディアでも難しいだろう」


「俺には回復手段があった……ちょうど三つ……欠損部位さえも修復する『ユグドラの果実』があった」


「もしもその果実で三人を救った後、サーシャが同じ目にあったらどうする?」


 言葉が出なかった。きっと俺は後悔するだろう。あの時奴隷を救っていなければ……と。


「同じような状況は必ず訪れる……貴族がこれを楽しみにしているんだ……全てを救えないし、今できる救済はこれしかなかった」


 その通りだ……ユグドラの果実は貴重なもので俺たちにとっては切り札になるもの……ここで使い切ってしまう訳にはいかない……それでも、割り切るのは簡単じゃない。


「英太、俺はアジトをくまなく探索したい。協力して欲しい」


「わかった……なあ、タルト……ひとつ頼んでいいか?」


「なんだ?」


「サーシャには、この事は言わないで欲しいんだ」


 サーシャは『死の大地』で、貴重なユグドラの果実をおやつ感覚で食べていた。食料がグゥインの肉しか無かった頃……身体にも心にも負担のかかる友達の肉を無理して食べていた頃……こんな状況を想像もしてなかった頃だ。この状況を知る事で、サーシャに負担をかけたくはない。


「承知した」


 俺たちはアジトの隅々まで探索を進めた。やがて、ボロボロの布を身にまとった奴隷たちが目に入った。何人かは助け出せたが、そうでない者もいた。


 幸か不幸か、四肢を切断された奴隷は見当たらなかった。


「基本的に売り物だからな。ボス以外には遊ぶ権利が無かったんだろう」


 タルトの声が静かに響いた。


 俺たちは救出した奴隷たちを連れてギルドへと向かった。何度浄化魔法をかけても、血と埃の匂いがこびりついて取れない気がした。


 ゴレミの提案で、アジトまではドラゴン形態に変化したゴレミに乗って戻る事になった。風が頬を撫でて少しだけ気分が軽くなった。


 アジトの外……視界に飛び込んできたのは見慣れた顔ぶれだった。タルトは空の上からアジト全体を覆うように強固な結界を張った。魔法の光は薄暗い空に淡く映えた。


「作戦成功ですね!」


 離陸した俺たちを迎えるサーシャの無邪気な笑顔が目の前に広がった。その明るさが、胸をぎゅっと締め付ける。


「救える者は救った。でも全員じゃない」


 タルトの言葉に、サーシャの笑顔は削り取られた。サーシャの反応が不謹慎といえばそれまでだ。しかし投げかける言葉がそれで正解だとは思えない。


 俺たちはアラミナへと転移した。途端に遠くで爆音が鳴り響いた。


「スタンピードだ」


 ルーフが呟いた。スタンピードを起こす結界の隙間が、カマロ一家のアジト内に出現したのだという。


「鎮圧したんじゃないのか?」


「うむ、した……しかし、出てこなかった高ランクの魔物がどうなっていたのかは把握していない」


「ルーフ、どうする?」


「無駄だ。あの結界の内側には転移出来ないだろう。魔物を退治するだけならば向かっても構わないが、今から向かっても野盗連中は助からない」


「どうして結界がアジトに?」


「Bランク以上のモンスターだけが出現しているのだろう。どうやら我々は手のひらの上で踊らされていたようだ」


 スタンピードで現れなかった高ランクモンスターが、ここに来て現れた……結界に阻まれて、放出されたんだ……


 結界を操る人物は、俺の周りには一人しかいない。


「エイタ、俺を許せないか?」


 視線を向ける前に、タルトはそう言った。俺の知っている物語の主人公なら、罪を犯した者の命も大切にして、憤慨するだろう。


 俺には許す許せないの葛藤は生まれなかった。


 盗賊が死ぬことにより、黒幕を探す為の手掛かりが減ってしまうな、という懸念と、スタンピードの結界すら操作するタルトの結界魔法の恐ろしさの事だけを考えていたから。

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