第七十一話 聖なる竜
今日はダンジョンの90階層と100階層を一気に挑戦する。この事は『紅蓮の牙』はおろか、俺以外の『漆黒』メンバーも知らない。
いや、1人だけ……ルーフには言ってある。だからこそ、ルーフはダンジョン攻略への参加を辞退した。
ルーフの見立てでは、このダンジョンは挑戦者に見合ったボスが登場するような仕掛けが施されているのだという。だからブラックドラゴンからの称号満載の俺たち『漆黒』が挑戦すると、ドラゴンばかりがボスになった。
それが、前回は「ドラゴンに似ている蛇」でお馴染みヒドラが登場した。ヒドラの神話級の魔物で、格としてはフェンリルに並ぶ。ヒドラがボスとして登場したのは、ルーフがダンジョンに滞在した事が関係している……のではないか? というのがルーフの考えだった。
ヒドラ戦では、俺たち『漆黒』は全く良いところが無かった。その悔しさを晴らそうと、意気込んで挑んだのだが、90階層のボスには拍子抜けした。
現れたのはグレートドラゴン。紛う事なきAランクモンスターだが、黒竜片手剣の前ではトカゲ同然だった。
やはりルーフの読み通り、ヒドラを呼び寄せたのは、ルーフの存在が影響していたのかもしれない。ルーフという圧倒的な強者がいたからこそ、あんな規格外のモンスターが現れたのだ。
「エイタ、凄いな……その剣は一体どうなってるんだ?」
「ははは……企業秘密ですよ」
「絶対ドラゴンの加護だよね?」
「さあ、このまま100階層も攻略しよう!」
その言葉で『紅蓮の牙』の表情が一変した。
「このまま? 準備もなしに?」
「いや、この階は無傷も同然だったし……」
「でも、100階層って言ったら、普通は段違いの魔物が出るんだよ」
「まあ、それはそうだが……ヒドラ戦を経験した俺たちならば問題ないだろう」
タルトと他の『紅蓮の牙』たちの意見が分かれていた。
「そりゃ……そうだけどさ……」
「ルーフはどうするんだ? 100階層も抜きで攻略するのか?」
「この階の状況を見たらそうなるな。このダンジョンは強者の力に合わせた魔物を召喚する……その可能性がある」
「わかったよ。まあ『漆黒』と一緒なら安心出来る」
「って事だ。俺たちは問題ない」
タルトはそう言い切った。日常生活では五分……というよりもメンバーの方が強いまであるが、こと冒険に関してはタルトが完全たるリーダーの姿に変わる。
そして、俺たちは相変わらずのゴレミ無双で、すいすいと100階層に到着した。俺は『漆黒の牙』全員にバフを重ねがけする。
万全の体制で、ボスの待つ部屋の扉を開ける。
そこに居たのは、純白のドラゴンだった。
「ホワイトドラゴンか……白聖竜か……」リンガーが呟いた。
「ホワイトドラゴンならヒドラよりやっかい…… 白聖竜なら、比べ物にならない……即全滅レベル……このまま退却がベストの選択肢だ」
タルトの意見は至極真っ当だった。事実、『紅蓮の牙は』気配を悟られぬように退却の準備に移っている。
「《全能鑑定》」
どちらにしても格上な相手だ。相手からの開示がなければステータスを覗き見る事は出来ない。しかし、俺はある可能性に賭けた。対ドラゴンの特攻効果だ。それは黒竜片手剣に付与されたもの……と、思っていたが……そうでは無い可能性がある。
対ドラゴンに対して、『ドラゴンスレイヤー』という称号を持つ者自体にもかかっていたのなら……
ホワイトドラゴン
名前:ホワイトドラゴン
年齢:???
種族:聖氷竜
称号:氷雪の守護者
レベル:XXX
HP:99900/99900
MP:99800/99800
ユニークスキル
聖氷の血統(氷系・聖属性の魔法・スキルの威力が上昇し、氷属性・聖属性ダメージを無効化する)
スキル
極寒の息
氷壁の聖域
吹雪の加護
氷鎖の浄縛
ドラゴンスレイヤー・暗黒竜の加護を持つ者に対する能力低下
HP・MPが50%減少
氷・聖属性スキルの威力が半減
氷・聖属性耐性が失われる
スキル「氷鎖の浄縛」が発動できなくなる
「エイタ、鑑定なんか通用するのか?」
「したよ。不幸中の幸い。こいつはホワイトドラゴンだ……能力値は『漆黒の牙』と五分……でも『漆黒』とは相性が良さそうだ。今回は俺たち三人に任せてくれないか?」
「『紅蓮の牙』! 守りを固めろ。『漆黒』を徹底援護だ」タルトは静かに指示を飛ばした。
ラブランが『紅蓮の牙』とサーシャの前に立つ。
「ホワイトドラゴンなら、炎属性も弱点の筈だ。俺も攻撃に参加するぞ」
「タルト……」
「なんだ?」
「必要無さそうだ」
ゴレミがホワイトドラゴンに突進した。ホワイトドラゴンは《極寒の息》を吐く。守りを固める『紅蓮の牙』は寒さに必死で耐えていたが、俺には扇風機程の心地よい風程度にしか感じなかった。サーシャにも息の効果は届いていないようで、周りの大げさな反応に驚いていた。
それはゴレミにとっても同じのようだ。
殴る、殴る、殴る、殴る、蹴る! ホワイトドラゴンの反撃もお構いなしに、ゴレミは連続で攻撃を続けていく。
ゴレミが持つ対ドラゴンのデバフは、指輪の効果で緩和されていた。それに加えて、ホワイトドラゴン自体がブラックドラゴンの加護に対するデバフを持っている。
ホワイトドラゴンは、次第に耐える事しか出来なくなっていく。ゴレミが一方的に殴り続けること2分……ホワイトドラゴンは地面に沈み込んだ。
「倒した……のか?」
俺の疑問に答えをくれたのは、仲間たちの反応だった。
ダンジョン攻略でレベルが上がっていた筈の『漆黒の牙』だが、ホワイトドラゴンが吐き出した経験値は、創造を絶するものだったようで、既にレベルがカンストしている俺を除いた全員が、レベル上昇に酔ってしまったようだ。
俺はすぐ隣に居たタルトに《上級状態異常回復魔法》をかけたが、タルトは回復しなかった。
ホワイトドラゴンの亡骸の前で倒れ込むゴレミにも《上級状態異常回復魔法》をかける。ゴレミの酔いはタルトよりも軽いようで、すぐに平静を取り戻した。
サーシャとラブランたちにも《上級状態異常回復魔法》をかける。みんな即座に回復した。
タルトだけに効果が薄い……タルトは一旦『紅蓮の牙』に任せて、『漆黒』の三人でダンジョンコアを探す事にした。
その瞬間……異変に気付いた……ホーリードラゴンが消えていない……?
確かに死んでいる……死んでいるが……
ダンジョンで死んだ魔物はダンジョンに取り込まれてしまう。だからダンジョン攻略で魔物の素材を獲得する事は出来ない……もしかしたら……俺はホワイトドラゴンの死体をアイテムボックスに収納してみる。
アイテムボックスの中で、解体するイメージを持つ……牙、鱗、肉……切り分けていった……そして、魔石へと辿り着いた。ホワイトドラゴンの魔石……もしかしたら、これがダンジョンコアなのではないか?
俺はアイテムボックスから魔石だけを取り出した。勿体無いが、これを破壊しなければならない可能性がある。
タルトが目覚めてくれれば、その辺の事も聞けるだろうが……ラブランやリンガー、アイラは知らないだろうか?
その瞬間……魔石が光を放ち始めた。
感覚……あくまでも感覚だ……その光の神々しさは、身に覚えがあった。
「グゥインさま……」
ゴレミが呟いた。そう、グゥインの放つそれと酷似していた。似ているが……確実に違う……なんというか……禍々しい光だったのだ。
「全員、防御しろ!!」
次の瞬間、俺は叫んでいた。仲間たちの反応は素早く、『紅蓮の牙』はラブランの盾で、『漆黒』はサーシャの《精霊召喚》によって守りを固めた。
俺たちは無事だった。しかし防御に成功した訳ではない。まだ攻撃が飛んで来ていないのだ。
「ゴレミ!」
「承知しました!」
俺とゴレミは核の破壊を急いだ。黒竜片手剣の斬撃と、黒竜ナックルによる連続の打撃……しかし、光の壁は貫通しなかった。徐々に大きくなる光から、竜の姿が浮かび上がる。
見た目はホワイトドラゴンと変わらない。しかし、存在そのものが変わってしまった事は確かだった。
俺は確信を持って「《万能鑑定》」を唱えた。やはりそうだった。
名前:白聖竜
年齢:???
種族:神聖竜
称号:聖なる守護者
レベル:XXX
HP:999,000/999,000
MP:998,000/998,000
ユニークスキル
神聖の血
スキル
神聖の息吹
祝福の光
聖なる障壁
天雷の裁き
暗黒竜の加護を持つ者に対する能力低下
HP・MPが70%減少
聖属性スキルの威力が半減
聖属性耐性が失われる
「祝福の光」の回復量が激減(D級ポーション相当)
暗黒竜の加護による大幅な能力低下は有り難いが……グゥインと同等の存在と闘うことになってしまった……




