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ゲームみたいな異世界に転移した俺、最強のチートスキル《創造》でブラックドラゴン娘と一緒に荒野を復活させていたんだが、何故だか邪神扱いされていた件  作者: しばいぬ
第三章 亡国のフレイマ

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第六十九話 力不足

 結界が解け、俺たちと合流したルーフは、ヒドラの死体がダンジョンに吸収される様を見ながら、高笑いをした。


「くわっはっはっはっ……なんだ、毒蛇であったか! 我の存在に恐れを抱き、結界を張ったのだろう!」


「知ってるのか?」


「うむ、以前倒した事がある。何故ダンジョンに現れたのかは聞けなかったな」


 聞く余裕なんて無かったよ。アイテムドロップも無かったし、俺以外のレベルが上がったとはいえ、非常にコスパの悪い戦いだった。


 俺たちは80階層の魔法陣からダンジョンを脱出し、ギルマスに成果を報告する。


「ヒドラか! 流石に規格外だな!」


 何度目の規格外だろうか……全く心配する素ぶりもない。ギルマスは俺たちの力に安心し切っているようだ。


 それも理解出来なくはない。誰一人欠けていないひ、回復魔法と浄化魔法のお陰で俺たちの身体には傷ひとつない。一番怪我を負ったタルトですら、マジックバックから新品の鎧を取り出して着替えたら、ダンジョンに入る前と全く変わらない姿になった。


 80階層の最速突破ボーナスである金貨とポーションは『漆黒』が受け取る事になった。俺たちの『共闘』は一般の冒険者には公表していない。だから攻略ペースを考えれば、先を行っていた『漆黒』がクリアしたと見られるのが自然だ。


 ……というタルトのゴリ押しだ。


「その金で祝杯をあげようじゃないか!」


 タルトは声を張った。相変わらずの主人公感だ。


 まぁ、そういう事なら問題ない。俺たちは初の共闘を讃える為、宿屋で宴を開くことになった。


 宿屋にしたのには理由がある。いくら『紅蓮の牙』が一緒でも、ギルドの酒場で飲む気にはなれない。チンピラ冒険者改め野盗集団とも関わりたくはないが、ギルド特有の汗と油の匂いが鼻につくのも、どうにも馴染めなかった。


 乾杯をして、エルヴィンさんの作ったツマミが運ばれて来る。


 『紅蓮の牙』の連中が楽しげに騒ぐ中、俺たち『漆黒』の面々は一様に冴えない顔をしていた。


 俺のドラゴン特攻が通用しなかった理由はわかっている。見た目はドラゴンのようではあるが、ヒドラは正確には海蛇だ。だから……って言うのはちょっと違う。特攻がなくとも、黒竜片手剣ブラックドラゴンバスターには伝説級武器の力は備わっているのだ。


 技術が足りずに黒竜片手剣ブラックドラゴンバスターを使いこなせなかった俺、守られる一方で何もできなかったサーシャ、ヒドラに対してもデバフがかかって動けなくなったゴレミ、そして結界に阻まれたルーフ。


 それぞれが自分の無力さを噛み締めて……いや、ルーフだけは平然とした顔で酒を舐めていた。


「宴は楽しくやるものだ! サーシャ、落ち込むでない! 女将よ! 特上のフルーツをここに!」


 伝説級の魔獣が宴会部長のように場を取り仕切る。


「そうだよ、サーシャ! 何も落ち込む必要はない!」タルトがサーシャの肩を叩く。


「はい。でも……私は役立たずで……」


「それを言うと、ルーフの事も責めて聞こえるよ」


 タルトは優しく微笑んだ。


「そんな事は……ごめんね、ルーフちゃん」


「構わない。我はサーシャの全てを受け入れる」


「サーシャ、タルトには気をつけてね。至る所に子供がいるから」リンガーはサーシャからタルトの腕を引き剥がす。


「おい、人聞きが悪いぞ」


「冗談だよ。ちょっと嫉妬しちゃったの。サーシャったら本当に可愛いんだもん」


「その上性格もいい」


 アイラもリンガーも絶賛だ。そしてサーシャは相変わらず、褒めを100%受け入れて喜んでいた。


「タルトはね、七大国の全てで孤児院を経営してたの」


「そういう意味の子供か」


 腑に落ちた。


 しかし、経営していた……か、フレイマが消滅したという事はその孤児院も……


「適当に口説いた女に子供が出来たって話は……今のところ聞いてない」


「いないよ。俺は家庭とか、そういった事には憧れはないからな」


「適当な女に手を出したって話は否定しないね」アイラは見逃さなかった。


「サーシャの前ではその話はやめろ」


「サーシャ、この話はやめる……だから気をつけてね」


「はい! 気をつけます!」


「さあ、話も良いが食事を楽しもうではないか! 料理を注文をするのだ! 我は腹が減っている!」ルーフが声を張り上げた。


「そうだな! 女将、卵かけご飯を人数分頼む!」


 タルトのせいで、冒険者がダンジョン攻略を卵かけご飯で祝う習慣が定着しそうだ。


 珍味扱いのシンプルな料理に、リーナさんが銀貨5枚をふっかけてきた。前世ならSNSで炎上ものの価格設定だが、前回のタルトは4人前で金貨5枚を支払った。それを考えれば安くしてくれているのか?


 フェンリル、A級冒険者、ハイエルフといったこの世界の頂点たちが、目を輝かせて卵かけご飯を頬張る姿は……なんだか不思議だ。


「ラブラン、レミちゃんの事がタイプでしょ?」唐突にアイラが言った。


「ばばばっ! 馬鹿言え! 俺は色恋なんてしてる場合じゃねぇ!」


 無骨な盾役のラブランが顔を真っ赤にして否定する。おいおい、分かりやすいな。


 ダンジョンでは、タルトがサーシャを口説いてるように見えた。ここに来てからもコミュニケーションは取っている。


 ……でも今はどこか一線を引いている気がした。話していても、口説いている……という構図になっていないのだ。


「レミさんも卵かけご飯食べなよ。美味しいよ!」ラブランはラブ全開で卵かけご飯を差し出した。


「有り難く存じます。でも結構です」ゴレミは優しく微笑んだ。


 身体の構造上、食事が摂れないゴレミは、体調不良を理由に一人部屋に戻った。隠蔽魔法でゴーレムであることを隠している。打ち解けて来たとはいえ、『紅蓮の牙』に知られるわけにはいかない。


 アイラやリンガーと楽しそうに話すサーシャを宴に残し、俺はゴレミの様子を見に部屋へと向かった。


「我も行こう。少し様子が気になる」ルーフも珍しくサーシャの元を離れてついて来た。


 睡眠の必要がないゴレミは、一人で魔導書に目を落としていた。ドラゴン戦での無力さ……それがヒドラ戦でも発動してしまった。それを埋めるために魔法で援護できればと考える真剣さが、横顔から静かに伝わってくる。


「あまり抱え込むな。ドラゴン相手のデバフは仕方ないよ」


「ですが、英太さまとサーシャさまを護るという使命を果たさねばなりません」


 ゴレミがルーフに視線を向けると、助言が返ってくる。


「うむ、我も魔法は使えぬからな。あくまでも我の電撃はスキルだ。効果は同じでも過程が違う……魔法を覚えるのではなく、魔道具を装備して使いこなせば良いのではないか?」


「確かに……その考えはありませんでした……英太さま、明日にでもショウグンさまに相談させてください」


「そうだな。そうしよう……あ、そう言えば……」


 アイテムボックスから大魔導師アンカルディアの指輪を取り出した瞬間、ルーフの毛が一斉に逆立った。


「……ルーフ!?」


「英太殿っっ!! その指輪はどうしたのだ!!」


 牙と爪が剥き出しになり、鋭い威圧感が溢れ出す。


「いや……露店で掘り出し物を鑑定したらさ……出てきて……」


「クソババアっっ!! クソババアの魔力っっ!!」


「ルーフちゃん!」


 サーシャがルーフの異変を察して駆けつけてきた。サーシャに撫でられると、ルーフの荒々しい息遣いが徐々に落ち着いていく。


「クソババアって……アンカルディアだったのか?」


「アンカルディアって……伝説の大魔導師だよね?」


 サーシャと共に部屋にやって来たアイラが言った。


「その名を語るな! 狂いそうになるっ!!」


「ごめん」アイラは楽しそうに謝った。


「ルーフちゃん、いい子だから落ち着こうね」サーシャはルーフの首をこちょこちょと撫でている。


「って事なんで、ルーフの前では言わないでおいて」


 ルーフとサーシャを部屋に置いて、ゴレミと一緒にタルトたちの元に戻る。


 ひとしきり大魔導師アンカルディアの指輪で盛り上がったが、話題は自然と魔道具の話に移った。


「エイタは魔道具の売買に興味あるみたい」


 アイラが言った。俺はそんな事は言っていないのだが、偽装したステータスの職業が魔道商人だ。普通に考えればそうなるだろう。


「魔道具ならば、ゴルディアが良いだろうな」


 タルトが新たな国の名前を口にする。七大国のひとつだろう。


「ゴルディアは人間国で一番発展しているからな。最先端のものが山ほどある」


「でも、魔道具ってお高いんでしょ?」


「まあな。しかし、『漆黒』程の実力者なら、魔獣の素材だけでも充分稼げるだろう。それに、そのマジックバックだけでも白金貨三枚はくだらないぞ」


 え? マジックバックってそんなに高いの? 確かにそんな設定の異世界ものが山ほどあった気がする。


 ……それを無限に作れるのってヤバくないか?


 うーん……でも、作り過ぎて価値が暴落したら元も子もないし、物流とか他の産業にも影響を与えかねないな。革新は素晴らしいけど、既得権益を吸う人間を敵に回してしまう。


 うん、やっぱりちょっと保留だな。


 しかし、いずれは『デベロ・ドラゴ』の産業と呼べる何かを創造クリエイトしたい。まだ考えつかないが、それを見つける為の旅でもある……と、今決めた。


「明日はダンジョン攻略は休みにするんだろう? 一緒にゴルディアに行ってみるか?」


 そうタルトが口にした。休みの日まで一緒にいたくない気もするが……


「よろしくお願い申し上げます」


 ゴレミは深々と頭を下げていた。

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