第七話 ドラゴンソード改
グゥインに創造を強要され続け、ついには気絶したまま朝を迎えていた。
隣で寄り添うように眠るグウィンの姿は可愛らしいのだが、やってる事はマジでブラック企業ドラゴン。本当しんどい。
魔力を使い切るたびに尻尾肉を食べ、ゴーレムを次々と生み出した。その数13体。13回以上の魔力枯渇を味わったのだから、それはもう……思い出したくもない。
その中でも12体の作業用ゴーレムとは別に、1体だけリーダーゴーレムを作成した。他のゴーレムとの違いは、メインボディと手足のパーツを別で創造して繋げた事だ。それによってグウィンの魔力を多く注入する事が出来た。他のゴーレムの倍のパワーと知性を持つリーダーゴーレムが誕生したのだ。リーダーゴーレムには付属パーツとして、グウィンの魔力を維持する為の外付けバッテリーも用意した。
予備バッテリーが無くても、ゴーレムたちは3日は動き続けるらしい。まあ、実用性よりは今後のための実験の要素が強い。
リーダーゴーレムはカタコトだが会話が出来る。他のゴーレムたちは言葉を理解する事は出来ても、喋る事は出来ない。その辺はこれからこれから。
国王陛下は無駄に高い位置へと登って、ゴーレムたちに演説をしている。
「さて、ゴーレム諸君! 其方らにやって欲しいのは王国の基礎を作る事じゃ! 我らが王国『デベロ・ドラゴ』、死の大地と呼ばれるこの島で城を建築するのは至難の技じゃ! 其方らにやってもらいたいのは土地を平らにする事! それと出来うる限り栄養の残った土を城の周囲に移す事じゃ!」
これはグウィンと事前に話し合った事だ。本来の形で城を建築するとすれば、土の栄養も、資材も全く足りない。石材はなんとかなったとしても、木材が無い。正確には、枯れ果てた木の欠片を見かける事はある。しかし中身はスカスカで、触れただけで崩れてしまうようなものだった。
時間と魔力の事を考えなければ、オール土魔法で城を作る事は出来る。でもそれは理想の王国とはかけ離れる。俺が作りたいのは……グウィンに体感して欲しいのは、ハリボテの王国ではないのだ。それを選ぶのは、完全にそれしか方法が無いと決まってからだ。
「其方らはこの周囲一体に死の大陸の「生」を掻き集めるのじゃ! その取り組みはいずれ身を結び、死の大地に生命を生み出すに違いない!」
コブフォーォォオー!!
突然グウィンが炎を吹いた。興奮しているのか、パフォーマンスなのか、竜王の佇まいを見せつけて演説を終える。
ゴーレムたちはフリーズ状態だった。唯一会話が出来るリーダーゴーレムに聞く。
「みんな、わかった?」
「ナントナク、ワカリマシタ」
わかってないな。前世を思い出す。どんな仕事でも、わかったフリして見当違いな事をされるのが1番困るんだ。
「この周辺の土を固める。栄養がありそうなものはこの辺に持ってくる。以上」
よりシンプルな支持を出す。これに限る。
「ワカリマシタ」
リーダーゴーレムが動き出すと、ゴーレムたちは散り散りに歩き始めた。
「むぬぬぬ、妾がせっかく直々に伝えておるというのに!!」
「産まれたての子供に難しい事を言ってもダメだよ」
「ふん! 英太の魔力さえ足りていれば問題無かったのじゃ」
「それは言いっこなしだよ」
「うむ、すまん。嫌な事を言ってしまったな」
すぐに謝れるのがグウィンの良いところだと思う。1000歳なのにどこか子供で、本当に素直だ。
「ところでさ、ここ『死の大地』って呼ばれてたの?」
「……うむ、そう呼んでおった者もいたというだけじゃ」
その人はここに来たのだろうか? 居たのだろうか? どちらにしても1000年以上前にここからは居なくなったんだろう。
「わかった。よし、じゃあ俺とグウィンは『死の大地』をもう一度くまなく探索しよう。生き物はいなくても、泉が湧き出てたりする場所があるかもしれないし、植物の種が見つかるかもしれない」
「あいわかった!」
グウィンは俺を背後から抱き抱えた。怖い怖い空の旅が始まる。
「その前に飯を食おう。あ、そうじゃ、魔力が勿体無いのう……ついでじゃ、何か『創造』するか」
小芝居かましてきやがった。骨の髄まで使う気でいやがる。
「わかったよ。そんで、何を作るの?」
「くふふふふっ……これじゃ!」
グウィンが手にしていたのはドラゴンソード。それと尻尾肉周囲の皮……いや、鱗だ。
「『創造』というスキルが土魔法では無かったのと、ゴーレムを分割して作ったのを見てだな、出来上がった剣と、この鱗を素材にして剣を強化できるのではないかと思ったのじゃ」
「確かに、土しか素材が無いから土で剣を作ったのだ。ドラゴンの鱗を素材にすれば本当の意味でドラゴンソードが作れるかもしれない」
でも、魔力持つかな……
「やってみるよ」
「ま、待て! 他に素材はいらぬか? ドラゴンの骨とか、牙は必要ないか?」
「いや、あったらあったで良いかもしれないけど、骨とか牙も再生するの?」
「試した事はない! しかし何事も初めては付き纏う!」
「却下」
「何故じゃ!」
「もしも歯を抜いて生えてこなかったらどうすんの? 俺は嫌だよ」
「ならば骨! この左腕を叩き切って!」
「切ったことあるの?」
「ある……ような気がする」
「却下」
俺は鱗とドラゴンソードに手を翳して意識を集中する。魔力切れを起こさない程度に出力を上げてスキルを発動させる。
「《創造》」
流石ブラックドラゴンの鱗だ。相当な魔力が持っていかれた。しかし出来上がった物を見ると、魔力の消耗など瑣末なものに感じる。
剣そのものが黒く輝いている。土の上にメッキのように重なっているのか、全てが混ざり合っているのか、それはわからないが、剣が異様な力を発している事だけは理解出来た。
「名付けて、『ドラゴンソード改』だ!」
「おおおお、凄いのじゃ!! 改すごいのじゃあー!」
ドラゴンソード改を振り回すグウィン。無邪気だが危なっかしすぎる。
「危ない! 危ないって!」
「英太、これなら英太でも妾の尻尾を切れるやもしれぬ」
「え?」
尻尾の硬さに押し負け、両腕を骨折した記憶が甦る。
やりたくねーな。
「さあ、ゆくぞ!」
グウィンはそう言って俺を背後から抱きしめた。そのまま上昇し、何も無い大地の中でも特に何も無い場所へと移動した。
「ここなら大丈夫じゃな」
「なに? なにが大丈夫なの?」
グウィンは俺にドラゴンソードを握らせると、ゴーレムにしたように黒い魔力を付与した。とてつもないエネルギーを感じる。これなら尻尾も切れるかも知れない。
やりたく無いけど、やらなくちゃいけない。グウィンと一緒に生き抜くんだ。
「では頼むぞ! 尻は切るな、あくまでも尻尾じゃ」
グウィンはそう言うと空高く舞い上がった。ゆっくりと旋回を始め、次第に速度を上げていく。グウィンの姿が目で追えなくなったその時、恐ろしいほどの魔力を発現させた。
ゴオオオオー!という音と共に、グウィンの姿が全長100メートルはあろうかというブラックドラゴンに変化した。
「マジかよ」
その姿は、この世界に転移したばかりの頃に目の当たりにしたものだ。普段接するグウィンと同じ生命体とは思えない程に禍々しい。しかし……俺、あんなんに体当たりされて生てたの?
ブラックドラゴンは「ここを切るのじゃ」と言わんばかりに尻尾を地面に落とした。禍々しくても中身はグウィンだ。
よし……集中するんだ! 新しいドラゴンソードなら、あの巨大な尻尾も切れるかもしれない。また骨折したら……治してくれ!
「ゔぉぉぉぉおっ!」
魔力を帯びたドラゴンソードを振り上げ、尻尾に向かって振り下ろす。
一瞬の静寂。
なんの手応えもない。空振りかと思うほどスッと刃が通った。ドラゴンソードはグウィンの尻尾を真っ直ぐ切り落としていた。
尻尾が完全に分断したのを確認したグウィンは、またしても高くまいあがった。そのまま旋回を繰り返すと、いつの間にかいつもの姿に戻っていた。
「痛いのじゃああああぁあ!」
「え、ごめん! 大丈夫?」
「大丈夫なのじゃ! 妾の魔力が痛みを増幅させているのじゃぁあ! 痛いけど大丈夫なのじゃあ!」
グウィンは尻に手を翳して、回復魔法をかけている。傷は塞がっていくが、痛みはヒリヒリと残っているらしい。
「継続ダメージかな?」
「ケイゾクなのじゃ。この剣で斬られると痛みが凄いのじゃ」
俺でもグウィンの尻尾を切り落とす事が出来て、グウィンに継続ダメージを与えるとは、ドラゴンソード改の威力はとてつもなかった。