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ゲームみたいな異世界に転移した俺、最強のチートスキル《創造》でブラックドラゴン娘と一緒に荒野を復活させていたんだが、何故だか邪神扱いされていた件  作者: しばいぬ
第三章 亡国のフレイマ

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第六十五話 異世界クッキング

 ダンジョン攻略は驚くほど容易に進んだ。狩りでゴレミのレベルが上がった事もある。しかしそれ以上に強力なのは、新メンバーの存在だ。


「我に適うと思っておるのか! 三下がぁっ!!」


 新メンバーのルーフが敵を一掃する。一応サーシャの従魔ですし、ダンジョンにも潜れるみたいだ。


 地上と違って雷撃の威力が弱まるらしく、主な攻撃手段が爪での斬撃に変わった。これがまたエグいエグい。鋭い爪が空を切り裂くように振るわれ、敵を粉砕する。死んだ魔物がダンジョンに吸収されるのがせめてもの救いだった。


 俺たちは昼前に目的の70階層に到達した。ボスは相変わらず俺の黒竜片手剣ブラックドラゴンバスターでの斬撃一閃で終わりだ。 ゴレミが手も足も出なかったグリーンドラゴンは、俺の一撃で塵になって消えた。


「ったく……チートだね」


「英太さま、その言葉の意味は一体……」ゴレミが首をかしげて俺を見上げる。


「この場合は、不正かと思える程の能力……ですかね?」


「確かに、それはチートですね。ルーフさまも、英太さまも」


 俺たちはダンジョンを降りて、ギルドへ報告に向かう。ギルマスから最速攻略のボーナスとして、金貨とポーションを貰い、昨日と同様に別れて行動する。


 ゴレミは更なるレベル上げと食材確保へ。サーシャとルーフはウルフたちと共に薬草、果実、キノコなど、死の大地で育てられそうなものを採取しに向かう。


 俺はと言えば、宿屋に向かってクッキングタイムだ。疲れた体に鞭を打つように宿へと向かった。


 アイテムボックスの中身を《創造クリエイト》で調理する事が出来る。しかし、それには知識が必要だ。


 調理工程を知らない料理は作り出す事が出来ない。しかも残念な事にこの世界にはレシピ本というものが存在しない。そこで俺は、弱みを握った宿屋のシェフから、レシピを教えて貰う事にしたのだ。


 問題点もある。この宿屋の料理は味がいまいちなのだ。


 だが、シェフは客の部屋で濃厚なキッスをしていた以外はあんまり悪くない。この世界そのものの料理が美味しくないのだ。前世の日本には遠く及ばない……その辺も含めて試行錯誤したい。


 厨房に足を踏み入れると、シェフのエルヴィンさんが腕を組んで俺を睨んでいた。


「いいか、英太。料理ってのは舐めてかかると痛い目を見るぞ。適当にやればできるなんて思ってるなら、大間違いだ」


 客の部屋でチュッチュしていた癖に、最初から強烈な圧だ。隣にいる若女将のリーナさんが苦笑いしているのが見えた。


「英太さんは弟子じゃなくてお客様なんだから、怖がらせないでよ」


「料理は適当にやるもんじゃねぇんだ。お遊び気分なら帰ってくれ」


 エルヴィンさんは頑固に言い張り、俺を睨みつけたまま動かない。


「別に舐めてるわけじゃないけど」


 こいつめ、チュッチュの事忘れたのかな? 脅すのも嫌だけど、面倒だから……《交渉》と心で唱えてから、「お願いします」と頭を下げた。少しだけ力を込めて、誠意を見せるように。


「……まずは宿で出してる料理を覚えろ」


 エルヴィンさんが渋々といった様子で、厨房の隅にある黒板を指さす。そこには宿のメニューが殴り書きされていた。



*朝食*

黒パンとチーズの盛り合わせ

スープ粥

干し肉のオムレツ

ハーブティー or 薄い果実酒


*昼食*

焼き肉入りの固焼きパン

煮込み豆と野菜のスープ

野菜と塩漬け肉の炒め物

素焼きの魚とハーブのソース


*夕食*

ミートパイ

厚切りステーキと塩焼き野菜

シチュー風煮込み

フルーツとナッツの焼き菓子

ハーブワイン or 麦酒


「うーん……」


 一見種類は多いけど、味付けは単調だな。


「この宿ってアラミナでは一番人気ですよね? お客さんはここの料理に満足してるんですか?」俺は素直に疑問を口にした。


「そりゃそうさ。腹に溜まるし、素材の味を活かしてるからな」 エルヴィンさんは胸を張って自信満々に答えた。


 エルヴィンさんは自信満々だが、ここの料理はイマイチだ。ここの料理というか、一般市民が食べる料理……がだ。


 金さえ惜しまなければそれなりの物が食べられるのは、ギルマスが教えてくれている。


「……じゃあ、実際に作ってみて覚えるか」


「はい!」


 まずは朝食メニューから、ということで黒パンを作ることになった。この世界の一般的なパンだという。 エルヴィンさんが道具を準備しながら俺に指示を出す。


「パン作りの基本は、小麦粉、塩、水、それと酵母だ」エルヴィンさんは、材料を並べながら淡々と説明した。


 俺は初めてパン生地をこねる。かなり力がいるし、粘り気のある生地が手にまとわりついてくる。


「もっと力を入れて! あと、発酵はしっかりな」

エルヴィンさんが横から厳しく指導する。


「は、はい!」


 俺は汗を拭いながら、言われた通りに発酵させ、焼き上げる。 オーブンから漂う香ばしい匂いに少し期待が膨らんだ。


 完成した黒パンは、見た目はそれなり。表面はこんがり焼けて悪くない見た目だ。でも、食べてみると……


「硬ッ!?」


 一口かじった瞬間、思わず声を上げた。 歯が折れそうなほどガチガチに焼き上がったパンを、俺は手に持ったまま固まる。衝撃で言葉が出てこなかった。


「いつもこんな感じなんですか?」


「そうだ。この方が保存も効く」


 エルヴィンさんは何でもないことのように答えた。


「噛み応えがあっていいだろう?」


 いや、これは噛み応えってレベルじゃないよ。パンって、もっとフワフワとかモチモチとか、色々な食感があるはず。けど、この世界では「パン=固いもの」らしい。


「じゃあ次はスープだな。豆を煮て、野菜を入れるだけだ」


 エルヴィンさんが鍋を準備し始めた。鍋に水を張り、豆を入れ、火にかける。俺は鍋の前に立ち、じっと様子を見守った。


「豆って、どれくらい煮るんですか?」 俺は鍋をかき混ぜながら質問した。


「半日くらいだな」 エルヴィンさんが平然と答える。


「半日!?」 俺は思わず鍋から目を離して彼を見た。 時間かかりすぎじゃない!?


「そのへんの豆は固いからな。水だけでじっくり煮れば食えるようになる」


 そんなに時間をかけられない。ランチの残り物のスープを飲んでみたが……


「……なんか、味がない」


 ただのお湯で煮た豆と野菜の味しかしない。塩すら入ってない!?


「素材の味を活かしてるだろ?」


 これは活かしてるんじゃなくて、何もしてないだけだよ。


「お菓子もやってみるか?」 エルヴィンさんが次の提案をしてきた。


 作るのがタルトだったのはただの偶然だ。タルト生地を作り、果物を乗せて焼く。甘いものなら美味しくなるかも……と思ったが、焼き上がったタルトは案の定……


「……ボソボソしてる」


 生地が硬くてポロポロ崩れるし、甘みがほとんどない。


「砂糖は貴重だからな」


「なるほど……」


 基本的にお菓子も甘さ控えめというわけか。砂糖が貴重ってのは、異世界あるあるだな。


「お前も何か作ってみろよ。ヒノモト料理を知りたい」


 ヒノモト料理か……知らないんだよな。ギルマスから貰った納豆っぽい奴は受け入れられなそうだし……ファンタジーあるあるだと、喜ばれるのはカレーなんだけど、カレーは市販のルーでしか作った事がないし、なんとなく小麦粉とスパイス使うって知識しかない。俺が作ったことがある料理は……


「卵かけご飯ってどうです?」


「卵を……ご飯にかける?」


 リーナさんが目を瞬かせて、驚いた表情で俺を見た。


「美味しいですよ」 俺は自信を持って頷いた。


 この世界の米も炊き方は変わらないはず。慎重に米を炊き、器に盛り、卵を割り入れる。醤油の代わりに、ヒノモトの調味料、醤油っぽいリュウユを少し垂らした。湯気が立ち上るご飯に、卵がとろりと溶けていく。


「……できた」俺は完成した卵かけご飯を二人に見せた。


「はぁっ!? 本当に生でかけるのかよ!」


 エルヴィンさんが驚愕の声を上げた。


「まあ、食べてみてくださいよ」


 リーナさんとエルヴィンさんが、おそるおそるスプーンですくって口に運ぶ。そして、二人とも目を見開いた。


「なにこれ……! シンプルなのに、すごく美味しい!」


「卵のコクが米に絡んで、するすると食べられるな……こんな料理があるなんて」


「でも、なんでこの世界には卵かけご飯がないんですか?」 俺は素朴な疑問を口にした。


「……卵を生で食べるなんて、普通は考えられないからな」


「え?」


「生の卵は危険なんだ。食中毒になるかもしれないだろ? 普通、卵は焼くか茹でるかするもんだ」


 ……なるほど。前世の知識でも、日本以外では卵を生で食べる文化はほとんどなかった気がする。俺は少し考え込んでしまった。 俺はこっそりと二人に「《上級以上回復魔法ハイキュアヒール》」をかけた。自分のミスは自分で取り返す。魔法の気配を感じさせないよう、さりげなく手を振った。


「さっきの卵は新鮮でした。俺は目利きが出来るので。普段は慎重にならなきゃですね」


「……確かに。お客様に出すのはマズいでしょうね」 リーナさんが少し不安そうに頷いた。


「しかし、美味かったな……」


 エルヴィンさんはまだ余韻に浸っているように呟いた。


「英太、正直舐めてたよ。お前、料理の才能があるんじゃないか?」


「いや、たまたま知ってただけですよ。ヒノモトの知恵です」


 この世界の料理には、まだまだ発展の余地があるな……やっぱり、食文化も『デベロ・ドラゴ』のウリに出来そうだ。もっと美味い料理……前世でもうちょい料理勉強しておけば良かったなー。


 でも、色々試せばもっと美味しくできるかもしれない。そう思うと、なんだかワクワクしてきた。胸が高鳴るのを感じた。


 そんな中、料理の注文が入った。


「すみません。その卵かけご飯をください」


 聞き覚えのある声に、俺は振り返った。


「ああ、すみません。これは試作でして、ディナーは17時からなので……」


 リーナさんが申し訳なさそうに応じる。彼女の視線の先にいたのは、タルト・ナービスだった。


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