第五十七話 竜殺しの漆黒
俺たちは転移魔法で王都跡地に向かった。狙われる可能性がある以上、街よりも隠蔽魔法をかけた小屋の方が安全だからだ。
今日のダンジョン攻略でレベルが上がったのはサーシャのみだった。俺はカンストだから仕方ないが、ゴレミのレベルも上がらなかった。
名前:サーシャ・ブランシャール
年齢 : 330
種族:ハイエルフ
称号:暗黒竜の友達
レベル:24 (次のレベルまでまで80EXP)
HP:3000/3000
MP:4800/4800
基本能力
筋力:D-
敏捷: C
知力: C−
精神: B
耐久: E+
幸運: C
ユニークスキル
• R.I.P Lv.3
スキル
•生活魔法 Lv.3
•隠蔽魔法Lv.7
•精霊魔法Lv.4
基礎値の能力アップより、隠蔽魔法の成長が目についた。外の世界に来てから隠蔽させまくっていた。それがこの結果だろう。嬉しいような、申し訳ないような気分になった。
「英太さん、ゴレミちゃん、私も戦闘で役に立てるようになりたいです」
サーシャは言った。エルフが奴隷になっている可能性がある。それがサーシャの心に火を灯したのだろう。
「助かります。ですが、大丈夫なのですか?」
「私が直接手にかけなくても、英太さんやゴレミちゃんが魔物を倒しているんです。それは私が殺しているのと一緒です。ダンジョンの魔物たちは私たちを殺しに来ています。二人に守られて、二人を危険に晒すわけにはいきません」
「わかった。少しずつ慣れていこうな」
「はい」
「意見させて頂いても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「サーシャさまだけではなく、我々三人ともが戦闘の役割りを見つめ直すべきかと存じます」
「そうだな……今は……前衛のゴレミ、バッファーの俺……サーシャはタンク役になっていたか?」
「タンク?」
「英太さま、理解出来る言葉でお願いします」
それ、グウィンにもよく言われたよ。
「ドラゴンと戦った時の布陣で言うと……なんだが、前衛はゴレミだったな。ガンガン前に出て攻撃する。バッファーは、補助魔法を使って仲間のサポートをする役目で、俺が担っていた。サーシャはタンク役だったな。敵の攻撃を引きつけて、味方が攻撃に集中しやすいようにする」
「なるほど、既に型になっていた訳ですか。ですが、これがベストな戦法なのかは検討が必要ですね。防御は最悪の場合でも再生出来る私が担うべきかもしれませんし、英太さまは魔法も剣も使えます。しかし、失礼を承知で申し上げますが、剣技に関しては剣の威力に技術が伴っておりません。後衛として攻撃魔法を中心に動くのがベストかと」
「確かにな。ステータス的にもHPよりMPが上回ってるからな。魔法タイプなんだろうな」
「サーシャさまはレベルアップが必須です。現状だとあの戦い方が精一杯です。ドライアドに守ってもらいつつ、クロスボウで攻撃、もしくは精霊魔法による回復ですね。しかし、クロスボウでの攻撃は慎重に。経験の浅い狩人が乱戦の中で、敵味方を判別して敵だけに当てるのは至難の業です」
「はい」
「まずはレベルとスキルレベルを上げましょう……という提案をさせていただきます。如何でしょうか?」
何を言うか……完璧だよ。ゴレミ。
翌日、さっそく俺たちはダンジョンに向かった。転移魔法で一っ飛びなのはラクだったが、案の定目立ってしまった。
俺たちは順調にダンジョンを攻略していく。10階毎のボスを倒せば、その回への転移が可能になる。
ダンジョン挑戦二日目となった俺たちは、難なく20、30、40階層を連続でクリアした。
サーシャは魔物に対して矢を放つ事に成功した。しかし当たってはいない。本能的に避けようとしている者と、本能的に避けようとしている魔物の組み合わせなのだ。当たらなくても仕方ないだろう。
もっと低い階層で練習するか、瀕死の魔物のトドメを刺させるか……わざわざ殺させるのは違うか……
もっと色々な戦闘パターンを試したかったが、ボス戦は俺の独壇場となった。圧勝に次ぐ圧勝。本当に余裕だったが、疑問が残る。10階層毎に登場するボスは、すべからく竜族だったのだ。
流石に理由がありそうだ。ブラックドラゴンの装備なのか、加護なのか、グウィン関係の何かが竜を呼び寄せているのかもしれない。
俺たちはそのまま第五十階層のボス『キングドラゴニュート』を倒して、今日の挑戦を終える事にした。
報告の為にギルドへと向かう。ダンジョンに向かう以上の警戒をしていたが、特に何も起こらなかった。ヒソヒソと何かを話しているのが聞こえたが、ゴレミ曰く、危害を与えようとするものではなかったそうだ。
ひとつ気になったのは、俺たちが『漆黒』と呼ばれていた事だ。そう、いつの間にか二つ名が付いていたのだ。正確に言うと『漆黒』ではない。『竜殺しの漆黒』それが俺たちについた二つ名だった。
自分でも思う。それしかないよ。だって全身真っ黒の装備なんだもの。ちなみに竜を殺したのは俺だけね。
ギルマスは驚いてみせて、褒め称えた。五十階層への到達は俺たちが初めてで、『漆黒』には、階層毎の最速到達ボーナスが与えられるらしい。
それはギルドの掲示板にもデカデカと張り出される。達成ボーナスは金貨10枚とD級ポーション5本。お金はもう沢山あるが、こんなものいくらあってもいい。ポーションはこれ、俺が売った奴だよね?
それから、俺たちは前回売った残りの魔物を渡しに、解体場に向かった。俺は解体を見学させて貰いながら、解体場の若手作業員・ベイルから、素材として使われる魔物の名前を聞いた。
解体の見学をする事によって、創造で魔物を解体出来るようになる可能性があった。手順やコツなど色々と勉強になったが、それとは別に新たな発見もあった。
それは、魔獣を『飼う』という選択肢だった。
「飼う? 魔獣って飼われてるんですか?」サーシャが聞いた。
「貴族が拷問して楽しむ事もあると聞いた事があります」ゴレミが補足した。
「ああ、それとは違う。全くの別物だよ。牛や羊を飼うのと一緒さ。とは言っても警備体制の整った王都での話だけどね」
「王都……って」
「フレイマはご覧の通りさ。気を遣わせちゃったな。フレイマでも、他の人間国でも普通に行われてた事だよ」
その選択肢は、あるにはあった。この世界に魔獣がいるならば、『死の大地』に魔獣がいてもなんら不思議ではない。しかし、意思疎通の出来ない魔獣を精霊とドラゴンしかいない場所に連れていくのは……というところもある。食料はグウィンの肉だろう……食料……?
「英太さま? どうなさいました?」
「ゴレミとサーシャでさ、もっと魔獣を狩って来て貰えないかな? 資金と食料は出来るだけ増やしておきたい」
「それは可能ですが、英太さまはどうなさるのですか?」
「俺はこの街でちょっと用事を済ませてくる」
「大丈夫ですか? お一人だと何があるか……」
「だから、一旦小屋に戻ろう」
ベイルさんに別れを告げて、こっそりと転送魔法を使った。
小屋に戻った俺は、ゴレミとサーシャに目的を伝える。
ひとつはゴレミのレベルアップ。ダンジョンの中では経験値が三分割されてしまう。残念な事にカンストしている俺に対しても分割されるらしい。
徐々に強い魔物が出てくるようになったが、かすり傷で倒せるようなレベルでしかない。50階まで登って、ゴレミのレベルは44と2つしか上がっていない。反面、サーシャのレベルは39と18も上がっている。それにはレベル上昇による上がりにくさ以外にも、個体としての必要経験値の差がある気がしていた。
モンスターを仲間にするRPGでも、強力な種族はレベルが上がりにくかった。もしかしたら、カンストになるレベルも違うかもしれない。
二つ目はサーシャだ。無理矢理魔物を殺させはしない。でも、ゴレミのサポートは出来る。精霊魔法で回復したり、ドライアドの根で妨害したり。殺傷に慣れさせずとも、戦闘には慣れさせたい。
三つ目だ。俺たちで魔獣を飼ってみる。それが成功したら、本格的に魔獣を捕獲していく。上手くいったとしても、本格的に捕獲するのは満月が近づいてからだが、飼い始めは今日からでいい。サーシャの感覚で、凶暴そうでない魔物がいたら捕獲してもらう事にした。
最後の四つ目……俺が担当するのは死の大地に欠けているものの補給と補充だ。




