第五十話 異世界を学ぼう!
「果実と野菜と木の実の料理が良いです!」
「俺はオススメの物をいくつかシェアして」
「私は食事しませんので結構です」
ギルマスの手配で応接室に食事が並んだ。
それを食べながら、知らない事をたくさん質問していく。しかし、知らない事を知らないので、質問のしようもなく……ギルマスは勝手に話し始めた。
内容はゴレミが記憶して要約してくれた。すまんな。
まずは冒険者ギルドのランク制度だ。
冒険者ギルドには、実力や実績に応じたランク制度が存在する。ランクは以下の通り、F級からS級までの8段階に分かれている。
F級:最下級の冒険者。基本的に戦闘は想定されておらず、荷物運びや掃除、畑仕事の手伝いなどの雑用が中心。誰でも登録できる。
E級:新人冒険者向け。簡単な討伐依頼が解禁され、スライムなどの弱い魔物が対象。薬草の採取や小動物の駆除なども多い。
D級:一人前の冒険者と認められる最低ライン。ゴブリンや狼程度の魔物を相手にできるようになり、簡単な護衛や討伐依頼をこなす。
C級:平均的な冒険者のランク。オークやリザードマンなど、単体では危険な魔物とも戦える。パーティを組むことが推奨される。
B級:熟練の冒険者が多く、ダンジョン探索やドラゴンの幼体討伐などの高難度依頼もこなす。依頼の報酬も高額になってくる。
A級:都市でも名の知れた冒険者が多く、国家からの依頼を受けることもある。パーティのリーダーを務める者が多い。
S級:選ばれし最強の冒険者。国家級の案件を任されることもあり、単独で軍隊に匹敵するほどの実力を持つ。伝説と称される者もいる。
F級からC級までは依頼をこなせば自然に昇格できるが、B級以上に上がるには試験や推薦が必要。特にA級やS級は厳しい審査があり、実力だけでなく信用や実績も重視される……という事だった。
「なるほど、とするとやっぱりポッと出でAランクはあまり良くないかな」
サーシャとゴレミが聞こえないフリをしている。種族の誇りと王への忠臣、見事過ぎます!
「まあ、その辺は俺が試験を通したって言えば問題ないな。だがその能力値でAランクはありえない。鑑定出来る奴なんてそうそう居ないが、それっぽい能力に隠蔽し直しておけ」
ご丁寧な不正の推奨、ありがとうございます。
俺たちは早速ステータスの調整をした。
名前:エイタ・カブラギ
年齢:15
職業:魔道商人
称号:Dランク冒険者
レベル:20
HP:1500/1500
MP:1200/1200
基本能力
筋力:D
敏捷:D
知力:B
精神:C
耐久:D
幸運:C
スキルスロット
取引 Lv.4
計算 Lv.4
鑑定 Lv.4
アイテムボックス Lv.3
魔道具作成 Lv.2
名前:サーシャ・コバヤシ
年齢:20
職業:魔導侍女
称号:Aランク冒険者
レベル:38
HP:4000/4000
MP:3000/3000
基本能力
筋力:E
敏捷:C+
知力:A
精神:A
耐久:D
幸運:C
スキルスロット
高等礼儀作法 Lv.3
料理 Lv.3
掃除 Lv.3
回復魔法 Lv.4
攻撃魔法 Lv.3
結界術 Lv.2
名前:レミ
年齢:25
職業:武闘士
称号:Aランク冒険者
レベル:42
HP:6000/6000
MP:1200/1200
基本能力
筋力:A
敏捷:A
知力:C
精神:B+
耐久:B
幸運:C
スキルスロット
体術 Lv.6
受け身 Lv.4
簡易治療 Lv.3
威圧 Lv.3
戦闘直感 Lv.2
俺がDランク冒険者。二人はAランク下位の冒険者で、俺の護衛として雇われている設定に変更だ。
サーシャと同じ名字でなくなったのは、少し寂しいね!
「そんで、次は貨幣の価値だな」
この世界では、一般的に銅貨・銀貨・金貨・白金貨の4種類の貨幣が流通しているそうだ。
銅貨(1G):最も流通している貨幣。
大銅貨(10G):10G単位の支払いに使われる。
銀貨(100G):ある程度まとまった取引で使用。
大銀貨(1000G):貴族や商人がよく使う貨幣。
金貨(10,000G):貴族や富裕層の取引で使われる。
白金貨(100,000G):王族や大貴族が使う貨幣。
国同士の取引や城の建設資金など、大規模な経済活動に使われる。
一般的な物価の目安はこんな感じ。
パン1個:3G
安い酒1杯:5G
普通の宿(1泊・食事なし):50G~100G
安めの剣:200G~500G
馬1頭:2000G
高級宿(1泊・食事付き):500G~2000G
上級冒険者の報酬:1依頼につき5000G~数万G
イメージとしては、1ゴールド10円くらいの価値。
でも、この世界は基本的に物価が安いみたいだ。酒場の酒が50円、馬が一頭20,000円、立派な家の家賃が50,000円。前世最終盤の物価と比べると泣けてくるぜ。米が……米がよぉ……
「ポーションのランクと相場だ」
ポーションはFランクからSランクまでの7段階に分かれており、回復量や効果の持続時間によって価値が決まる。
Fランク(劣化品):回復量は微量。傷口を消毒する程度で、戦闘ではほぼ役に立たない。価格は5G~20G。
Eランク(初心者向け):小さな傷を回復。浅い切り傷や打撲程度なら数分で治る。価格は50G~100G。
Dランク(一般品):普通の負傷(切り傷・骨折など)を数十分で治療できる。低ランク冒険者の必需品。価格は200G~500G。
Cランク(高級品):重傷(内臓損傷や深い刺し傷)を短時間で回復。戦闘中の回復にも使える。価格は1000G~3000G。
Bランク(最高級品):一般流通する中で最も効果が高い。瀕死の状態でも短時間で回復する。失血や内臓破裂にも効果的。価格は10,000G~30,000G。
Aランク(希少品):一瞬で全回復。状態異常や毒も解除可能。王族や高位冒険者しか手に入れられない。価格は数十万G以上。
Sランク(伝説級):欠損部位が復元可能なレベルの超希少品。もはや「神の奇跡」とも呼ばれる。伝説レベルの品。価格は数百万G以上、もしくは非売品。
「基本的にF~Cランクはギルドや商店で手に入るが、Bランク以上は高額で流通も少ない。Aランク以上は特別なルートがなければ入手出来ないってのがこの国……人間国全体の常識だな」
「で、俺が持ち込んだのがBランクのポーションですか……」
「今の情勢だと売値が50,000でも捌けるな。しかし、次々と産まれる魔物を討伐してくれる冒険者様に殿様商売は出来ねえ」
「つまりは……適正価格で販売するという事ですか?」
「いや、そうすると闇取引で高値で売られちまうんだわ」
異世界転売ヤーって事か……時代は繰り返すっていうけど、世界が変わっても似たような問題は起きるもんだな……
「じゃあどうするんですか?」
「方法はあるんだが、それには条件がある。あのポーションを作ったのがニイチャンで、もっと大量に作れるって場合だ」
「なるほど、値崩れを起こすんですね」ゴレミが言った。
「そうだ。正確には適正価格まで戻すって事だがな」
ゴレミよ、お前はついこの間まで片言だったのに……サーシャも少しは会話に興味持ちなさい。木の実の食べ方可愛いな、おい。
「まあ、その辺は少しばかり細工させて貰うがな」
「細工?」
「ああ、この街の治安が悪いのは見てわかっただろ?」
「ええ、やっぱり悪いですよね?」
「それは魔物討伐目的の冒険者だけのせいじゃねえんだよ。物資不足につけ込んだ商人。弱った冒険者を追い剥ぎする野盗。ギルドを通さずに町民から依頼を受けてとんじまうクソ冒険者……最悪の状態さ」
「勇敢な冒険者が適正価格で手にする前に、ちょいとだけ高値でそいつらに売り捌こうと思ってな」
「商売人ですね。わかりました。作らせて貰います」
「助かるよ。一本につき金貨2枚で買い取らせて貰う……でな、本当に欲しいのはもっとランクの低いポーションなんだ」
「なるほど……確かにそうですね。よほど無茶しない限りはDランクポーションで事足りそうですね」
「全部適正価格の一割引きで買い取らせて貰う。頼むわ」
やっぱり一割引きなんかい! とは思ったが、ゴレミのギルドカードも、一連の説明もありがたいことだし、何よりも口止め料としては破格だろう。
「具体的にはどれくらい必要ですか?」
「あればあるだけだよ。予算としては……白金貨10枚は即金で出せる。分割で良ければその倍は……」
「わかりました。じゃあ都度納品にしましょう。まずは白金貨8枚ぶん」
俺はアイテムボックスから桶を取り出した。
「《創造》《ポーション生成》」
そして桶の中をDランクポーションで満たした。
「鑑定してください。250本ぶんあります。瓶詰めの手間分ちょっと量は多めにしました。CランクとBランクも数を指定していただければ」
「……ったく、ニイチャンは神の使いかよ」
「ははは、神なんているんですかね?」
そう言いながら、心の中では「邪神かもしれませんけどね……」と呟いた。
結局ポーションは白金貨10枚ぶん全て納品し切った。
Dランクポーションが250本ぶん。
Cランクポーションが50本。
Bランクポーションが10本。
CとBは落としても割れない土瓶に瓶詰めしての提供だ。元々クリエイターで商売人気質が無いものだから、多分なオマケをしてしまったかもしれない。
気を良くしたギルマスは、そのまま自宅に招待してくれた。正直なところ断りたくもあったが、ギルマスの家に南国の果実があると聞いたサーシャが食べたいと言って聞かなかったのだ。
それに、宿の手配もしてくれるそうだ。小屋も作ってあるし、もう金もたんまりある。どちらも自分たちで賄えると言えば賄えるが、お言葉だから甘えておこう。外の世界に来てから、初めて親しくしてくれた人だ。




