第五話 ゴーレムをクリエイト
夜空を眺めながら、二人だけでの『デベロ・ドラゴ』建国決定。
『死の大地』に時計は時計もカレンダーも無かったが、もう零時を回っていたと仮定して翌日を記念日とする事にした。曜日も日付もわからなかったので、前世のものに合わせておいた。
2025年7月21日。
それがデベロ・ドラゴの建国記念日だ。
☆★☆★☆★
昨日のブラック労働が再び訪れる事を懸念して、今日は優しめの創造をさせて貰う事にした。
ダイニングテーブルと椅子。そしてベッドと枕に掛け布団だ。土魔法で枕と掛け布団を作れたのは発見だった。土を繊維状に加工して、中にわた状に加工した土を詰める。ふかふか具合は前世の物には到底及ばないが、あるとないでは大違いの代物だった。
本日の創造は終了と思ったところに、尻尾干し肉が登場する。昨日の切った肉は灰色の空で干されて、濃縮された保存食になっていた。
「建国記念日じゃぞ、妾はもっとこう……凄いのが欲しいのじゃ!」
ブラックドラゴン企業は簡単に定時上がりを許さない。俺はとっておきを作る事にした。
露天風呂だ!
「《創造》」
土をくり抜いて風呂釜を作る。水が染みないように加工をして、そこに水を入れる。
「《水魔法》」
一度で2リットルまでしか溜まらないから、何度も何度も重ねがけをする。そして仕上げにグウィンの登場だ。
「グウィン、この水を少し温めてくれ。肉を焼いた時くらいの火力で頼む」
魔法で温めてもいいが、魔力の消耗量を考えると効率が悪過ぎる。風呂釜の耐久力は万全にした。ここはグウィンの炎で温めて……
ゴオオオオー! という炎と共に水は一気に蒸発した。壊れなかった風呂釜、よく耐えた!
「すまぬ。加減を間違えた」
グウィンは悪くない。
どうやら、とろ火に見えた焼き肉の火力は相当に強いものだったらしい。小さな炎の中に一国を滅ぼすほどの火力を詰め込んでいるそうだ。ドラゴンの肉を焼くにはそれくらい火力が必要だという。周囲に熱を漏らさなかったのは、グウィンの実力の賜物らしい。
「《水魔法》」
俺はすかさず尻尾肉ジャーキーを口に放った。ウォーターの重ねがけで風呂釜を満たす。グウィンは最小火力に挑戦してくれた。
苦労して出来上がった露天風呂は最高だった。グウィンは行水は行っていたが、風呂は初めてだという。1000歳以上も歳上とは言え、外見年齢は小学校高学年だ。風呂は男女別々に入るものだと伝えた。
「妾は雄でも雌でもないが、それでもダメか?」
グウィンはそう言い放った。その容姿から、完全に女の子だと思っていた。そう言えばグウィンは姫扱いされるのを拒んでいた。
「英太は妾と一緒にお風呂に入ってくれぬのか?」
甘えた顔でこちらを見上げるグウィン。多少の葛藤はあったが、一緒に風呂に入る事にした。入ってみればまあまあ気にならない。そうだ、気にならないんだ。他人の目も無ければ自分の趣向もそちらには向いていない。
「露天風呂、楽しもうぜ親友!」
「じゃの!」
風呂で泳ぐグウィンの尻には、尻尾が生えていた。マナー違反ではあるが、二人だけの世界だし、細かい事は言わないでおく。ああ、これもまた食糧となるのか、本当に申し訳ない。
「しっかし、国を作るのは果てしないなー」
「そうか? このペースだと100年もかからずに国の形を築けそうじゃぞ」
「いやいや、俺はそんなに長く生きられないよ」
お湯がバシャンと飛んでくる。
「駄目じゃ! 妾の友達には妾より先に死ぬ事を禁ずる」
「いや、1000年さんに禁じられてもさ」
「駄目なのじゃ!」
確かに人間なら100年は生きられない。しかし、この世界の平均寿命も知らないし、魔法によって健康をどうこうする技術もあるかもしれない。それこそ「創造」でどれだけ事が出来るのかもわかっていない。でも、ここは労働環境改善の為に言葉を選ぶ。
「じゃあ、身体を労らないとなー」
「そうじゃ、無理は禁物じゃ! 出来る作業は他のものに任せればよい」
「って、そう言えばグウィンは何もしてないよな」
グウィンはドヤ顔で尻を突き上げる。尻尾が揺れている。
「食事と魔力供給の恩恵を忘れるでない」
「はーい」
「妾に頼るのではなく、新たな労働力を作るのじゃ」
「新たな労働力?」
人を雇うって事な訳ないよな? 労働力? 機械化するって事?
「それは……ゴーレムじゃ!」
「ゴーレム!」
そうか、その手があった。ゴーレムが土を掘ったり運んだりの作業をしてくれれば、作業効率は大幅に上がる。スキル一覧にもゴーレム生成があった気がする。土魔法で作れるか? 試してみる価値はある。
「でもさ、ゴーレムって動かすのに動力というか、魔石みたいなものが必要だったりしないのか?」
「うむ、魔石を動力にするのが一般的じゃな。しかし、それは戦闘用の高度な動きをするゴーレムに用いるものじゃ、魔石があれば、高い耐久性と知能を持つゴーレムが作れる。しかし、作業用のゴーレムであれば、定期的に魔力を流すだけでも十分に使えるぞ」
「その魔力が足りないんですけど」
『創造』を使えども使えどもレベルも魔力も増えはしなかった。レベルアップの条件は戦闘なのだろうか?
「魔力は妾が流す。英太は強固な器を作ってくれればよい。下手な魔物の魔石を使うより強力な建築モンスターが誕生するであろう」
強力な建築モンスターを生み出していいのだろうか? しかし、労働力が増えるのは本当に助かる。
「作りたくなって来たであろう?」
確かにそうだ。しかしここで策にはまってはいけない。ブラック労働環境から脱出する為のゴーレムだ。今日の仕事はもう終わったんだ!
「《創造》《ゴーレム生成》」
良いように使われる自分がほとほと嫌になる。しかし、作ってみたかったんだ。やってみたかったんだ。
「おお、人型か? これは風変わりなゴーレムじゃな!」
グウィンは驚いていたが、俺としては平凡な見た目にしたつもりだ。そもそもゴーレムは人型が基本のはずだが、この世界では違うのだろうか?
俺が作ったのは人気RPGやファンタジーで見かけるゴーレムの平均的なもの。見た目より耐久性を重視した。現環境でこれ以上のものは作れない。
「では妾がこの土の塊に魔力を授けようではないか!」
グウィンがゴーレムの後頭部を触る。グウィンの手から禍々しいオーラが溢れ出す。これがブラックドラゴンの魔力。これを原動力にするのか……
その時、「ばーん!!」とゴーレムが弾け飛んだ。
俺たちは無言で残骸を見詰める。
そりゃ持たないだろ。あんな魔力さ、俺の魔力で作ったゴーレムに入り切るわけないよ。え、俺の全魔力で作ったゴーレム終わり?
「すまぬ、力加減を間違えた」
「いいよ。今日はもう寝よう」
魔力の枯渇が睡魔を呼び寄せた。明日もきっと忙しくなりそうだ。