第四十六話 イメージチェンジ
小屋に戻った俺たちは、今後の行動について再確認する事にした。
「まず、最終目的は半年後までに『デベロ・ドラゴ』に必要な魔素を満たす事だ。もちろん、それが期限なだけで、それは早ければ早いほどいい」
「はい! わかりました!」サーシャが元気よく返事をする。
「具体的な動きとしてはどうしましょうか?」
「まずはゴレミが見つけてくれた街に向かう。そこで人間国で動く為の身分を獲得しよう。最初の1ヶ月は外の世界について知ることをメインに行動する。移住のハードルはどれくらい高いのか、そのハードルは種族によって違うのか……」
「魔素放出量の効率という点、グウィンさまとの共存を考えれば魔物を移住させるのが宜しいかと」
「人間国から魔王国への移動手段はあるのか、魔物を移住させた場合に、他種族が嫌悪を抱かないか……そもそもの情勢がどうなっているのか……その辺を探りつつ、だな……」
「正規のルートということですね。私に乗れば空路から移動出来ますが、不可侵条約の中で対策が練られていないとは思えないですね」
「そうだな。サーシャは何かあるか?」
「他の種族の事はわかりませんが、エルフは魔物に対してはいい印象を抱いていませんでした」
「それは不思議じゃないよ。そもそも、グウィンが嫌悪の対象になるかもしれない。人間国でも移住者を探している事はしばらく秘密にしておこう。理想は多くの種族が共存出来る国だ。でも、そうならなくても仕方がない。その見極めにひと月を使う。もちろん、移住希望者が出た場合は話し合った上で移住してもらう事にしよう」
「……グウィンちゃんが嫌悪の対象?」
「この世界で言い伝えられている邪神……かもしれないからな」
「……え? グウィンちゃんが……え? ……どうして……」
あれ、言い出したのはサーシャだぞ……まさか、今のいままでその可能性を考えて無かったのか?
「真っ黒な……邪神……封印……私……グウィンちゃんに酷いことを……」
「サーシャさま、グウィンさまは深く傷付きました。そしてその傷を糧に強くなられました。それはサーシャさまのお陰です。配下として感謝しております。今は『その可能性』も踏まえつつ、グウィンさまを救う事だけを考えましょう。ハイエルフのあなた様になら出来ます」
「うん。ありがとう、ドラゴレミちゃん。私、頑張る!」
「では話を戻しましょう。移住希望者が現れる度に、満月の夜は『デベロ・ドラゴ』に戻る、という解釈で宜しいでしょうか?」ゴレミが言った。
「うん。一度に往復出来る時間があるのか……今日の感じを見ると、到着してすぐに引き返せば問題なく移動出来そうだ。その場合の身体の負担、大人数の移動が可能なのかどうかという問題は残っている」
「では、往復で移動するのは私だけという事にしましょうか? 私ならば、万が一の場合でも英太さまがクリエイトしてくだされば復活出来ます」
効率を考えればそうだが、それは無責任だし、ゴレミを物扱いしているようにも思えた。
「それに、往復が不可能だった場合、誰かがこちらの世界に残る状態にしておくべきかと。それは英太さまが適任だと存じます」
「確かにそうだな。全員が戻れなかった場合、一ヶ月のロスになる。それは避けないといけないな」
「では、その方向で考えましょう。もちろん、私も戻れるように最善を尽くします」
「ドラゴレミちゃんったら凄い。私は、私もグウィンちゃんに会いたいとか言うところだった……凄い!」
「いえ、私も本音ではグウィンさまに会いたいだけですから。それと、この旅の間はゴレミで結構です。『ドラ』がつくと目立ってしまいますので」
「はい! 了解しました!」
面倒だから外しただけなのに、それっぽい理由を作った。ゴレミは優秀だな。
「……というか、確かに目立つのは危険だな」
「ええ、英太さまは黒髪以外は一般的な人間国の男性なので問題ありませんが、サーシャさまの美貌と人語を操るゴーレムは目を引きすぎます」
「もう、ゴレミちゃんったら!」
めちゃくちゃ喜ぶなぁ。前世ではルッキズムやセクハラ対策で容姿を褒めるのを控えてたんだけど、今度から俺も褒め称えよう。
「エルフである事は耳を隠蔽すれば誤魔化せます。容姿も地味にする必要まであるのかどうか……私は人前で喋らないという選択か、隠蔽魔法で人間の姿に変えてしまうか……」
「じゃあ変えましょう! 人間の姿になりましょう! 良いですよね、英太さん?」
「サーシャとゴレミに負担が無いならそっちの方がいいな。隠蔽魔法が解けるという可能性は無いのかな?」
「大丈夫です! ハイエルフですから! 常時魔力を消耗しますが、一時間で10ほどの微々たるMP消費です。魔力さえ枯渇しなければ睡眠中でも隠蔽は解けません」
サーシャは胸を張った。
「そうか……でも、俺たちのステータスも隠蔽するし、他にも何か頼む事があるかもしれないぞ」
「頑張ります! 英太さんの魔力ポーションもありますし、使い続けて隠蔽魔法のスキルレベルも上げたいので!」
「わかった。じゃあ明日の朝イチで頼む」
「いえ! 今やりましょう! 寝ればMPは回復しますし、寝ても隠蔽が解けないかの実験にもなります!」
……こいつ、ゴレミの姿を変えたいだけだな?
「わかった。じゃあ変えようか? ゴレミもいいか?」
「もちろんです」
「何か希望はあるか? 性別は女性でいいよな?」
「はい。髪の毛は短くしていただけるとありがたいです。毛髪に慣れておりませんので、戦闘の邪魔になるかと」
「だそうだ。頼めるか、サーシャ?」
「はい! ではいきますよ……《隠蔽魔法》」
瞬時にゴレミの姿が変化した。ショートカットで筋肉質の黒髪美女がそこにいた。
「おお、凄いな……これはスキル無しでは人間にしか見えないぞ」
俺は鏡もどきを取り出し、ゴレミに向けた。ゴレミは自らの姿を見てうっとりしている。
「素晴らしい肉体を、ありがとうございます」
サーシャに対して跪くゴレミ。
「いえいえ、そんな……とっても可愛いです!」
サーシャだけじゃなくて、ゴレミも可愛くなってしまった。美女二人を引き連れる平凡な男という構図……目立つよな? でもあんなにうっとりしてたゴレミに地味にしようって……言えん! 俺はそういうの無理なタイプだ!
「ちなみに、この女性のモデルとかいるのか?」
「はい。祖母の若い頃の友人で、肖像画が飾ってあったので。人間族でショートカットだし、名前がレミさんで似ていたので」
「ふーん。サーシャのお婆ちゃんの友達か……不可侵になる前の友達かな?」
「ああ、そうですかね? 祖母は2500歳直前で亡くなりましたから、475歳までは不可侵じゃなかった筈です」
……2025年間不可侵なんだ。2025? グウィンの年も同じだよな?
ゴレミに目をやると、ゴレミも顔を曇らせていた。
「サーシャ、西暦……というか、暦は何年かわかるか?」
「はい。不可侵条約締結と同じなので、グリア暦2025年です」
まあ、より一層邪神説が濃厚になっただけに過ぎない。まだグレーの範疇……かな?
俺たちはそのままステータスも隠蔽した。
名前:エイタ・カブラギ
年齢:15
職業:商人
称号:なし
レベル:12
HP:240/240
MP:120/120
基本能力
筋力:E
敏捷:E
知力:D
精神:E+
耐久:E
幸運:C
スキルスロット
取引 Lv.2
計算 Lv.3
アイテムボックス Lv.1
名前:サーシャ・カブラギ
年齢:20
職業:侍女見習い
称号:なし
レベル:6(次のレベルまで180EXP)
HP:120/120
MP:50/50
基本能力
筋力:F
敏捷:E
知力:E+
精神:D
耐久:F
幸運:C
スキルスロット
生活魔法 Lv.1
礼儀作法 Lv.2
掃除 Lv.2
料理 Lv.1
名前:レミ
年齢:25
職業:格闘家
称号:なし
レベル:18(次のレベルまで750EXP)
HP:600/600
MP:150/150
基本能力
筋力:C
敏捷:C+
知力:E
精神:B
耐久:D
幸運:C
スキルスロット
体術 Lv.4
受け身 Lv.3
簡易治療 Lv.2
威圧 Lv.2
ステータスは以上のように隠蔽した。俺はヒノモト出身の商人で、人間国に商いに来ている。サーシャは侍女見習い。ゴレミは護衛の格闘家だ。
サーシャもヒノモト出身という事にしたので、耳を隠すだけではなく、髪と眉毛を真っ黒に変えた。これはこれで……
「サーシャ、黒髪『も』可愛いよ」
「もう、英太さんったら!」
耳真っ赤じゃん! 100%褒め言葉を受け入れてくれる。サーシャ可愛い。




