第四十三話 ドラゴン、成長中
宴はわいわいガヤガヤと進んだ。肉以外に何もないのに、水はあってもお茶すらないのに、とても充実していた。
俺たちは屋上に上がって、星空を眺める事にした。灰色の空が生み出す満天の星空……これも明日で見納めになる。
「なあグウィン、本当にいいのか?」
「む、王城のことか?」
そうだ。一ヶ月あれば創造で王城を建設する事も出来ただろう。しかし俺たちは王城建設ではなく、基本魔法の向上と、ゴーレム強化、ツバサの教育に時間を費やした。
「ああ、小さな城なら今からでも作れるぞ」
「よい。王城は特別立派な物に仕上げねばならぬ。外の世界に出れば、立派な城を観る機会も増えるであろう。城は英太が帰還してからでよい」
「そうか」
俺には前世で培ったゲームの知識がある。王城のデザインなど知り尽くしているが……実際に入った事はない。経験した上で、という事なら、それはそうしたくもある。
「家はこのままでいいのか?」
「かまわぬ、妾はこの家を気に入っておる」
その時……空を飛び回っていたツバサが返って来た。ツバサの周囲は光の粒子で覆われている。
「……ん? あれって……」
「妖精ちゃんたち?」
ツバサと妖精たちが屋上に降り立った。妖精たちは、くるくるとツバサの周りを旋回していた。
「もう、何処行ってたんですか? 急にいなくなるからびっくりしたんですよ」
サーシャが妖精たちに詰め寄って行く。するとツバサが妖精たちの通訳をはじめた。
「妖精たちは、グウィン様に謝りたいんだってさ」
「え? グウィンちゃんに?」
妖精たち……心変わりしたのか? というか……
「ツバサ、妖精たちの言葉がわかるのか?」
「うむ、わらわは、ちょっとだけ妖精の言葉がわかるのじゃ。だからグウィン様に伝えるのじゃ」
妖精たちがツバサの耳元で話している。ツバサはそれをちゃんと聞いて、こう言った。
「ツバサ人形を破ってしまって、申し訳ありませんでした。あのような行いはあってはなりません。お許しください……だってさ」
「あいわかった。謝罪は受け入れたぞ」
グウィンはあっさりと謝罪を受け取る。目をぎらつかせたサーシャが俺に近付いて来た。とっても圧が凄い。
「英太さん、かか、かかか、鑑定を!」
容姿こそ美しいが、完全にゾンビの動き方だった。この動きモーションキャプチャで押さえたいなぁ……リアリティが凄い。
「わかった! やるやる!」
「お願いします!」
「《詳細鑑定》……ん?」
「どうなんですか!? 消えてましたか?」
「あ、ああ、綺麗さっぱり。何処にあるか探しちゃったよ」
「やったー!」
サーシャはるんるんで妖精たちに駆け寄って行った。俺はグウィンに近寄って耳打ちをする。
「なあ、グウィン……サーシャの称号って……」
「なんのことじゃ?」
こいつ……案の定忘れてやがった。
「妖精たちが謝るまで、ローエルフにするって言ってたじゃないか」
「ああ、そうじゃったな」
「あれ、消してやってくれないか?」
「なんじゃ、そんな事か……あいわかった」
グウィンがそう言った途端、サーシャのローエルフという称号は消え失せ、新たな称号に書き換わった。
称号:暗黒竜の友達
いや……これはこれでさぁ……他の人に見られた時どうするんだよ……消せって言えねぇよ……どうする? 隠蔽魔法を常時発動させるか?
まあ、いいか……とにかくわだかまりは解けた。良かった……グウィンが妖精の言葉を理解出来なくて……何故なら、現在進行形で妖精たちが好き勝手に喋って盛り上がっていたからだ。
「ねーねー。サーシャはどうして喜んでるの?」
「可愛いねー。サーシャ」
「なんかねー。私たちが謝ってないのにグウィンに許されたみたい」
「どうして?」
「どうしてどうして?」
「えっとねー。ツバサちゃんが嘘ついたんだよ」
「えー!? どうしてどうして?」
「悪い子だね。ツバサちゃんは暗黒竜だよ」
「でもねでもね、ツバサちゃんはいい子になったよ。皆んなの前ではグウィンの事ママって呼ばないように気をつけてるからね」
「二人の時はママって呼んでるの」
「グウィンがそう呼ばせてるんだよ」
妖精たちは声をあげて笑った。サーシャの周りを踊りながら幻想的に取り囲んでいる。サーシャも笑ってるから、一緒に悪口を言ってるみたいになっていた。
「ママー! ママー! キャハハッ」
まあ……とにかく、収まったのでよしとしよう。
「なあ、グウィン……そう言えば、称号って何の意味があるんだ? グウィンしか付けられないのか?」
「意味……は、忘れてしまったが……王たる存在が配下に与えるものじゃからの……妾が出来て当然じゃ」
王たるもの……ドラゴンスレイヤーの称号はグウィンを殺した時についたものだ。少なくとも二種類の入手方法があるのか?
「というか、俺はお前の配下じゃないって言っただろ」
「うむ、妾は配下と思っておらぬが、王であるからな。そのせいではないか?」
「王か……」
「英太も王であろう? 付けてみれば良いではないか?」
「え、俺も王なの? 二人いていいの?」
「当たり前であろう。妾たちの国のルールを世の常識に当てはめる必要はない。二人で創り上げる国じゃ。関わる者が増えて来たとはいえ、根底は変わっておらぬぞ」
「グウィン……」
当然のように王を自称するグウィンを受け入れていたが、そんなふうに考えていたとは……感動してしまった。それを誤魔化す為に、からかってしまった。
「ちょっと成長したな!」
「ふむ、妾は成長中である!」
胸を張るグウィンが愛おしかった。こいつを死なせる訳にはいかない。俺を、俺たちを救ってくれた存在だ。絶対にこの島に移民をもたらしてみせる。
俺は密かにグウィンに「ドラゴン成長中」という称号を与えた。
こっそり鑑定してみたら、本当に称号がついていた。グウィンは親として加速度的に成長していくのだろうか? 創造すると笑えてくる。
その後も楽しい時間は続いた。俺たちは夜更けまで沢山の事を話し続けた。
妖精やアドちゃんたちが第五区画に帰り、ゴーレムたちはハウスに戻った。俺たちは久しぶりに一緒に寝る事にした。
川の字で……いや、もう4人だから違う。俺、グウィン、ツバサ、サーシャの4人並んで眠った。
「わくわくなのじゃー! 皆で寝るのは楽しいのじゃー!」
「これ、ツバサ! はしゃぐでない! はしゃぐと眠れなくなるぞ!」
「大丈夫ですよ。安眠魔法かけますから」
「嫌なのじゃ! わらわはもう少し遊んでから寝るのじゃ! ……むっ、サーシャよ、わらわの枕になるが良い! そのもちもちは心地よいのじゃ!」
「ツバサよ、それは妾のものじゃ!」
「もうかけますよ! 《R.I.P》」
「まつのじ……わらーわわわ……」
「はいおやすみなさい」
「英太さんも寝ますか? あれ、英太さん……」
「ん? あ、起きてるよ……起きてる……」
前世での人生は三十年……家庭を持ったらこんな感じだったのかなぁ……いや、こんな感じなわけないか……俺は幸せを感じながら……微睡の中へ……




