第四十二話 妖精たちは謝らない
満月の夜を明日へと控え、俺とサーシャのスキル訓練はひと段落となった。
「うむ、よいぞ! では英太よ、わらわにステータスを報告するがよい!」
そう言ったのは、グウィンではなくツバサだった。とても偉そうで、とてもブラックドラゴンらしいと言える。
「これ! こ奴らはお主に魔力を分け与えたのじゃぞ、言わば両親も同然じゃ。そのような言葉を使うでない!」
「はい、グウィン様。ごめんなさい、英太とサーシャ」
「いいですよ」
「反省出来て偉いぞツバサ」
暴言即反省! グウィンにそっくりだぞ、ツバサ!
「ふむ、では改めて、国王である妾にステータスを報告するのじゃ!!」
グウィンったらめちゃくちゃ偉そうじゃん。マジ教えたくない。
「ほれ、早くせい!」
「はーい」
ステータス
名前:鏑木英太
年齢 : 15
職業:デベロッパー
称号:ドラゴンスレイヤー
ドラゴンプレゼンター
レベル:99
HP:6,800/6,800
MP:7,200/7,200
ユニークスキル
•創造 Lv.4
スキルスロット
1.全属性魔法 Lv.4
2.言語理解 Lv.2
3.全能鑑定 Lv.2
4.アイテムボックス Lv.4
5.
6.
これが現在の能力だ。スキルレベル自体が上がり難くなっている為、とてもわかりにくいが、とんでもない数の《創造》をこなしている。スキルスロットを開けたままにしているのは、保険でしかない。
外の世界に出たら必要そうなもの「探索」「隠密」などにするか、使用回数は少なくても欲しくなる可能性がある「蘇生魔法」にするかなど迷いどころだ。
前者は単体でスキルスロットを埋めるのがもったいなく感じるし、後者は神の領域であり、全属性魔法で扱い切れるかどうかも不明だ。使えたとしても消費魔力が足らない事も考えられる。
各魔法のスキルレベルはこんな感じになった。
火属性魔法 Lv.4
水属性魔法 Lv.4
風属性魔法 Lv.4
土属性魔法 Lv.6
聖属性魔法 Lv.3
無属性魔法 Lv.4
生活魔法 Lv.2
精霊魔法 Lv.4
各属性を満遍なく上げようと試みたが、それを凌駕する創造による土魔法の使用回数……差は埋まらなかったが、全体的に上昇したのでヨシとする。回復魔法を使う状況が少なかった事もあり、聖属性の伸びは悪かった。
称号は何の役に立っているのかわからない。
そして、サーシャだ。
名前:サーシャ・ブランシャール
年齢 : 330
種族:ハイエルフ
称号:ローエルフ
レベル:21 (次のレベルまで640EXP)
HP:2800/2800
MP:4300/4300
基本能力
筋力: E
敏捷: C−
知力: C−
精神: B
耐久: E
幸運: C+
ユニークスキル
• R.I.P Lv.2
スキル
•生活魔法 Lv.3
•隠蔽魔法Lv.4
•精霊魔法Lv.3
サーシャも思ったよりスキルを伸ばす事が出来なかった。レベル自体も高くないので、外の世界に出てからの伸び代に期待だ。
ローエルフという称号が消えないままなのは、可哀想過ぎる。
「それでは、一度第五区画に戻りますね。準備が終わったら英太さんたちのお家に向かいます!」
サーシャは意気揚々と去って行った。
「妾たちは先に戻っておるぞ。最期の晩餐として肉を振る舞わねばならぬからな!!」
グウィンとツバサも去って行った。ゴレミは俺の移動用に残ってくれるらしい。
準備万端! と言いたいところだが……サーシャにずっと伝えられずにいる事がある。実は俺……精霊魔法のスキルレベルがサーシャと並んでしまっていたのだ。
サーシャと比べて、精霊魔法を使った回数は少ない。正直なところ、二回しか使っていない。しかし、その一回が大きかった。ツバサを誕生させるためにアドちゃんに魔力を送り込んだ……あの時だけでスキルレベルは爆上がりしていた。
そして、今日……俺の精霊魔法はスキルレベル4となり、サーシャを抜き去った。
精霊たちの言語が理解出来る。どうやら、ずっと上がらずにいた『言語理解』のスキルと『精霊魔法』が同時に作用して、スキルの経験値を貯めていたようだった。
どうする……? サーシャに伝えるか? とにかく精霊たちからグウィンに謝罪をさせねば、サーシャはローエルフの称号を賜ったままになってしまう。称号に何の効果があるかは不明だが、可哀想で仕方ない。
「ゴレミ、ちょっと外してくれないか?」
「承知しました。それと、私はドラゴレミで御座います。グウィンさまが悲しまれる為、そうお呼びください。では」
と言ってゴレミは飛んで行った。そうだ……グウィンの奴、精鋭部隊とゴレミの名前を変えたんだった。とはいっても、「ドラゴレンヌ」「ドラゴレミ」「ドラゴレゾー」など、ドラを付け足しただけで、呼びにくくなっただけだった。
……で、みんな省略して元の名前で呼ぶ。ブラドラ拗ねる。という流れだった。気をつけよう。
さてさて……やらねばならぬ事がある。
「《妖精召喚》」
俺は密かに妖精たちを集めて、グウィンへの謝罪を提案した。妖精たちは素直に、純粋に、疑問を口にした。
「どうして謝らなきゃならないの?」
「ツバサちゃんは生命を得たじゃない」
「感謝されるべきなのに、どうして?」
「いや、だからさ……それはね……胸を破いちゃったしさ」
「破かないと核は入らなかったよ」
「核を入れたら治ったでしょ?」
「でもさ、怒ったのはそれがわかる前だから」
「わかったんだからいいじゃない」
「そうだよ」
妖精たちには他意がない。恩を売るとか、建て前として謝るとか、そう言ったことが理解出来ないようだった。
「でも、そうしないとサーシャがハイエルフに……」
「大切な友達をローエルフって呼ぶなんて、ダメな事だよ」
「ダメ。嫌われてもおかしくないよ」
「それはごもっともです。でもグウィンも引っ込みつかないだろうし……」
「つけなきゃダメだよ。それは友達じゃない」
「あ……みんな、サーシャが呼んでるよ!」
「サーシャのところに行こう!」
「行こう行こう!」
「またね、英太!」
どうやらサーシャも妖精たちを召喚したようだった。妖精たちは仲良く手を繋ぎ、第五区画へと飛び去って行った。チャレンジ失敗か……
☆★☆★☆★
その日の夕食は、皆を招いての最期の晩餐となった。とは言っても、食事はドラゴンステーキのみで、食べるのは俺とサーシャだけ。アドちゃんと精霊たちは、精霊力を貰うというていで、サーシャのほっぺにチューをしまくっていた。
俺は知っている。アドちゃんはただチューしているだけだ。アドちゃんがサーシャの魔力を吸っていたら、絶対に吐き気を催している筈なのだ。
まあ、そこは穏便に済ませてやろう。気持ちはわかるよ。
そんな俺の気遣いに気がついたのか、アドちゃんは俺に手土産を持ってきた。
「ユグドラの果実なんだよ」
「これって、ツバサの核を作った時の奴だよな?」
「そうなんだよ。本来は食べるものなんだよ。身体の部位を失うような大怪我でもね、すっかり治るんだよ」
「確か……鑑定で見た気がする」
「年に20も実らない貴重な実なんだよ。今年はこの3つで終わりだよ」
「へー。根付いて間もないから少ないのか?」
「ううん、サーシャが食べちゃったんだよ。薬だからダメだよって言ってるのにだよ。サーシャの前に放置しちゃダメなんだよ」
「……わかったよ」
俺はすかさずアイテムボックスに『ユグドラの果実』をしまい込んだ。
「でね、怪我をした時に使ってくれてもいいんだけど、これを切り札にするといいんだよ」
「切り札?」
「だよ。この果実があるということは、ここにユグドラシルがあるって事の証拠にもなるからね」
「なるほど……わかった。ありがとう」
「あとね、サーシャを怒らないであげて欲しいんだよ」
「怒らないけどさ、独り占めはズルくないか?」
「違うんだよ。本当はね、サーシャはグウィンの肉を食べるのは今でもきついんだよ。グウィンの肉を食べた後は精霊力が波打ってるんだよ。だけど、心配させないように明るく振る舞ってるんだよ。僕はずっとサーシャを見ていたからわかるんだよ」
「そうか。わかった……怒らない。けど、この三つだけは絶対に食べさせないよ」
「それでいいんだよ」
「なあ……サーシャ、ずっと無理してたのか?」
「うん。子供の頃からずっとずっとだよ。ハイエルフになれなくても、お母さんを殺したって言われても、ずっと無理して明るく振る舞ってたんだよ。ここに来てからは本当に楽しそうなんだよ」
そんな事言われたら、支えてあげなきゃなって思ってしまう。アドちゃんは、わかってやっている。
「サーシャには楽しそうなのが似合うな」
「だよ。英太、僕の代わりにサーシャを支えさせて欲しいんだよ」
ドライアドにハイエルフの事を頼まれるなんて光栄だ。精一杯支えさせて頂きますとも。
「ねえ、英太……」
「なんだ?」
「英太には、もっともっと強くなって欲しいんだよ」
アドちゃんの言葉には、不思議な重みがあった。強くならなければ、サーシャは支えられないか……じゃあ、強くならなきゃな。