第四十一話 精鋭部隊・ドラゴレム
ツバサによるゴレミの破壊……これには流石のグウィンも、完全にキレた。
ツバサは第二区画で作業中だったゴーレムたちにも襲いかかった。魔力の乱れを感知したグウィンは、すぐさま現地に向かい、ツバサを拘束した。
「わ、わらわはゴレミと遊んでやっただけなのじゃ! 強きものとの闘いこそがブラックドラゴンの本懐である! ゴレミが強そうだったのがいけないのじゃ!」
ツバサは両翼をバタつかせて対抗していた。
「それはゴレミの許可を得ての事であるか?」
「得たのじゃ! わらわは卑怯ものではない!」
「ほぅ……では、ゴレミが完全に大破しておる理由はなんじゃ? 核だけ残して丁寧に破壊したものじゃのう」
「敗者は何をされても文句は言えぬのじゃ! わらわはゴレミを破壊して遊んだだけなのじゃ!」
「そうか……誕生して早々檻に入れたり、妾は親として失格じゃったな……ほれ、今度は妾が遊び相手になってやろう……破壊されても文句を言うなよ」
グウィンはツバサを蹴り上げた。空高く舞い上がったツバサを飛び越えて、今度は地面へと蹴り下ろす。
第二区画の地面は抉れて、砂埃が舞っている。やがて姿を現したツバサは、翼を折り、ピクピクと痙攣していた。
「ツバサよ、お主はまだ竜の形を残しておるな……それはどうしてじゃ?」
「て……加減……してた……」
「何故だかわかるか? それは貴様が愛する我が子だからじゃ……」
「う……む……」
「だがなツバサよ、妾は貴様と同じくらいにゴレミを愛しておる。この島に住む全ての者を、この島に根付いた全ての命を愛しておるのじゃ……その者たちの命を危ぶむ存在となるならば、妾は躊躇なく貴様を殺す」
「わかったのじゃ」
「闘いたくなったら、妾が相手をしてやる……他の者と闘う事は正式な勝負として、妾の前でのみ許可する」
そう言って、グウィンはツバサを舐め回す。回復したツバサは大人しく言うことを聞いた。
……というのが、俺がグウィンとゴーレムたちから聞いた、今回の話の顛末だった。
俺が合流したのはその直後。ツバサを抱えたグウィンが家に戻っている場面に遭遇したのだ。
粉々になったゴレミを前に、グウィンとツバサが頭を下げた。
「すまん、わらわはやり過ぎてしまった」
「心が入っておらぬ! 其方の心は皆で産み出した心じゃ! 責任を持って其方自身で豊かにするのじや! 心を込めた謝罪をするのじゃ!」
ツバサは身体を地面に着けて、頭を下げた。
「ごめんなさい! 叱ってください! 私はドジでのろまなハイエルフです! あまんじて罰を受けますからぁ!」
ツバサは何処かで見た事のある謝罪を見せた。
俺はツバサを近くに呼んで、話をする。
「ツバサ、その謝罪ってサーシャの真似だよな」
「うむ、わらわは『謝罪』についてよくわからぬでな。真似しか出来ぬ。サーシャの謝罪には心がこもっておった。わらわの腹を破った妖精の代わりに、あそこまで心を込めるとはの」
「なんだよ。謝罪の事わかってるじゃないか」
「む、そうなのか?」
「今は謝罪の気持ちってあるのか?」
「まだわからぬ。しかし、わらわはグウィン様を怒らせたくはない」
「それは怖いからか?」
「そうじゃな。じゃが、愛していると言ってくれたのが嬉しかったのもあるのじゃ……グウィン様は其方らの事も愛しているそうじゃ……だから、わらわは正式な闘い以外で其方らを傷付ける事はせぬ」
「わかった。信じるよ……グウィン、俺はツバサを許す……で、ゴレミを治してやればいいんだよな?」
「うむ、かたじけないな。治すついでに、ゴレミの核を増やしてやる事は可能であるか?」
「ああ、そうだな。やってみるよ」
「それとな……」
グウィンはドラゴンソード改で、自らの尻尾を切り落とした。
「しびびびれるののじゃ……ここの鱗で、ゴレミを強化してやって欲しいのじゃ」
「鱗ならアイテムボックスにあるのに、わざわざ尻尾を切り落とさなくても」
「妾からの贖罪じゃ……それでな、ゴレミの大きさを少し変えてはくれぬか?」
グウィンは鱗を剥ぎながら話を続ける。
「ああ、大きくするのか?」
「逆じゃ……新しく作ったゴーレムたちのように、小回りを効かせたい。ゴレミには特別な役割を与えるからのぅ。小さく、強固にしたいのじゃ」
特別な役割りって……ツバサの教育かな? だとすると、確かに強くするべきだ。
「わかった……ツバサ!」
「なんであるか?」
俺は檻と足枷を指差した。
「もう、それ要らないよな?」
「なんじゃと? わらわはいらぬが……」
ツバサはグウィンの顔色を伺っている。
「檻がなくても、暴れないって約束出来るか?」
「す! するのじゃ! 約束するのじゃ! わらわは正式な闘い以外では暴れぬ!」
正式な闘いってのが非常に気になるけど……暴れないならいいか……
「《創造》《ゴーレム生成》」
バラバラになったゴレミの身体が浮かび上がる。砕けた石片が宙を舞い、檻と拘束具が形を変えていく。新鮮なグウィンの鱗が核となり、それらを繋ぎ合わせるように融合していった。光が渦を巻き、圧倒的な魔力の奔流が辺りを震わせる。核は五つ。単純に考えても五倍の強さ……いや、能力上昇は足し算ではなく掛け算に近い。
やがて光が収束し、新生ゴレミが姿を現す。全身は漆黒と金属の混ざり合った異形の装甲に覆われている。
「す、凄いのじゃ! たぶん、わらわより強いのじゃ……」
ツバサが翼をバタつかせながら驚きの声を上げる。いつも偉そうなツバサが、素直に感嘆するほどの出来映えらしい。
「英太よォ、妾の頼みと違うではないか?」
グウィンはため息混じりで言った。
「え?」
「本来のゴーレムの形状に、と頼んだではないか!」
あ、やべっ……そうだった……グウィンの言う本来って、ブラックドラゴンフォルムの事だよな?
「ご心配ありません。グウィンさま」
ゴレミはそういうと、身体をグニャりと曲げ、あっという間にドラゴン形態へと変化した。
「おおおお!! 凄いのじゃー!」
「のじゃ! のじゃあ!」
グウィンとツバサが感嘆の声を上げる。きゃっかん、ほぼ同じなんだよな。
「英太さまのお陰です」
いや……俺はそんな調整した覚えは無いんだけどな……
呆然とする俺に、ゴレミがウインクをしていた。ヤバい……めちゃくちゃ気が利く……凄い進化だな。
「ゴレミよ、空は飛べるか?」
「はい。ですが、まだ不安が残りますので、出来れば練習したいです」
「よし、では……飛行訓練じゃ! ゴレミ、ツバサ、島を見回るぞ!」
「承知しました」
「あいわかったぁ!」
ゴレミとツバサが飛んで行く。グウィンも翼を広げたが、立ち止まった。
「ありがとうな、英太」
「いいよ。ツバサ、ちょっと変わったか?」
「そうだとよいのだがな……やれやれじゃ」
「焦らずにな」
「うむ、では英太よ! 他のゴーレムたちも約束通りに進化させておくのじゃ! 妾はゴレミの訓練に向かうでの」
そう言い残して、ブラックドラゴンは去っていった。……しゃあねぇ……頑張るか!
☆★☆★☆★
俺はその後、ゴーレムたちの拠点を回った。
王都建設部隊では、リーダーゴーレムのゴレンヌと、初期メンバーゴーレム六人を強化した。ゴレンヌはゴレミと同じく核を五つ。六体には核を三つ与える。
現在のところは、彼等は建設部隊である。しかし、いずれは王国を守るガーディアンになって欲しい。騎士団長にあたるゴレンヌのデザインは、歴戦の女剣士といった風貌に変えておいた。もちろん、みんなドラゴン形態にもなれる。
俺はゴレンヌに背負われて、第六区画へと向かった。そのまま時計回りで部隊長のゴーレムを強化していく。最後の一人を第五区画にしたのは、理由があった。
そこには精霊たちにキスをされるサーシャの姿があった。
「サーシャ、精霊魔法はスキルアップしたか?」
一見すると、精霊たちと戯れているようにしか見えないが、精霊と魔力を流し合ってのトレーニングだという。
「はい。レベル3になりました! そろそろ精霊ちゃんたちの言葉もわかりそうです!」
精霊からグウィンへの謝罪は済んでいない。サーシャは未だにローエルフという二つ名を背負っていた。
「サーシャ、ゴーレムの改良に立ち会ってくれないか?」
「はい! 立ち会います!」
二つ返事のサーシャと共に、第五区画のゴーレムたちを強化する。第五区画の部隊長には、他のゴーレムたちにプラスして、特別な材料を使用する事にした。
「精霊創樹ですか?」
「そう。伐採した神聖な樹木……ここで使ってあげないとね」
「《創造》《ゴーレム生成》」
精霊創樹の組み込まれた部隊長ゴーレムは、少しだけエルフの要素を取り入れた。長い耳と美しい顔に加えて弓矢を携帯している。
「凄い! カッコいい!」
サーシャは歓喜する。でも、本当の姿はドラゴン形態なんだよなぁ……というのは内緒にしておいた。
かくして、ゴーレムたちは大きな進化を遂げた。
「良く進化した! この国王グウィンの名において、其方ら十三体を『精鋭部隊・ドラゴレム』と命名するっ!!」
ほぼ全てを俺に丸投げした王様は、高らかにそう宣言した。めちゃくちゃ頑張った俺を誉めるのを忘れてしまっていたけど、子育てでは気をつけてね。




