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第四話 デベロ・ドラゴ

 尻尾肉の魔力回復効果のお陰で、食べては創造クリエイト、食べては創造クリエイトの繰り返しとなった。


 肉を喰らう事によって魔力消費による疲労が一気に抜けていく。これは前世でいう手を出してはいけないアレに近いのではないか? いや、実際に魔力は回復しているのだから錯覚や幻覚の類ではない。


 どちらかというと、現状はブラック企業勤めに似ていた。そういえばブラックドラゴンだしね。


「家じゃっ! 家を作るのじゃ! 妾は家に住みたいのじゃっ!」


 俺は土魔法を駆使して、グウィンの為の小さな家を作る事になった。


 どうやらグウィンは家というものに住んだ事が無いらしい。確かにドラゴンには家より巣が似合うが、グウィンは人の姿をしているし、家に住んだ事が無いというのは意外だった。


「家というものがどういったものなのか、なんとなくは知っておる! 雨風を凌ぐ箱物であろう!」


 知ったかぶりをする子供そのもののグウィンが可愛くて、必要以上に家の素晴らしさを説いてしまった。この世界の住宅事情がどうだったのかはわからないが、2025年の家はとても便利だ。


 エアコン、シャワー、床暖房、大抵のものは魔力不足で作れなかった。現状作れるのは土で作れるものオンリーだ。


 お試しで作った土壁を基礎として、周囲に壁をつなげていく。実家の4LDKをイメージする。建築の知識はほぼ無いが、クラフトゲームで学んだ知識と、とにかく基礎を大地と繋げるイメージ。そして水捌けを意識する。と言っても、この島は滅多なことで雨は降らないみたいだ。


「英太よ、もっと天井は高くせよ!」


 知ったかドラゴンは、天井の開放感にうるさい。


「はいはい……あ、また魔力が切れた……」


 すかさずグウィンが肉を持ってくる。カフェイン爆弾のエナジードリンクを飲みまくってた昨日までとほぼ変わらない。だが、固形というのはちょっとだけ辛い。


「階段も欲しいぞ!  螺旋階段というカッコいいやつじゃ! ぐるぐるまわって屋上に出るのじゃ!」


「回る必要あんのかよ?」


「螺旋階段の先で光る星空! カッコいいのじゃ!」


 魔力は尻尾肉のおかげで回復し続け、俺は夜通し働いた。そしてついに、土の家が完成する。


 完成した土の家は、外観こそシンプルだが、内装は変わり種の超巨大3階建て5LDKとなった。


 無駄な吹き抜け。


 飛べるのに拘った螺旋階段。


 建築家が見たら悲鳴をあげそうな耐震性能だったが、そこは土魔法で無理やり強化してある。


 ゲームクリエイターの視点からすると、歪でへんてこな土の家だったが、俺たちにとっては愛すべき「拠点」となった。


 屋上で寝転び、無限に広がる星空を見上げる。周囲は静寂に包まれ、遠くで風が岩を撫でる音だけが聞こえる。


 昨日までも同じような景色を眺めていたはずなのに、心持ちは全く違う。食と住が安定するだけで、気持ちは晴れやかになった。


「ふふふーなのじゃー」


 隣でニコニコと笑っているグウィンが、愛おしく感じる。


「英太は最高の従者なのじゃ」


 撤回。少しイラつく。


「なぁ、グウィン」


「なんじゃ、英太よ」


「俺はグウィンの従者じゃない。友達だと思ってるよ」


「妾は高尚なるブラックドラゴンじゃぞ」


「グウィンの存在がどれだけ立派で高貴でも、俺は同等の友達でいたいと思っている」


「そうか。ならばそうしようぞ」


「ありがとう、友達」


「良きにはからえ、友達よ」


 ちょっと偉そうだけど、突っ込まないでおいた。そういう仕来たりはどうだっていい。俺とグウィンが理解していればいい。


「明日は何を作ろうかの?」


 尻尾は無いのに、グウィンの尻尾がぶるんぶるんして見えた。


「ちょっと、無理せず焦らず行きたいものだね」


 実質半日で20日ぶんの魔力回復を強制された。体力的には問題ないが、精神が磨耗しているのはわかる。もう過労死はしたくない。


「じゃあ、じゃあ、何か作りたいものはあるか?」


「作りたいもの?」


 考える。現状の中で考えるなら、自宅の充実だ。家具も欲しいし、キッチンや風呂も作りたい。外風呂ならすぐにでも作れそうだ。が、言うと本当にすぐ作らせられそうなので黙っておく事にした。


 代わりに、本当に何気なく口にした事は、本心よりも本心だった。


「ここに街を作りたい。この何もない大地に、人が集まって、笑い声があふれる街を」


「街」


 俺の言葉に、グウィンはふっと息を吐く。その瞳に星が映り込んでいる。その仕草は、涙を我慢する人のそれに似ていた。


「グウィンは今まで何年も一人でいたんだろ? でもそこに俺がやって来た。この変化って凄いと思うんだ。きっとだけど、これからは他の人もやって来ると思う。その時の為に街を作ろう。それで、これからは俺だけじゃなくてたくさんの人と過ごすんだ」


「1000年じゃ……いや、それでは聞かぬであろうな。数える事はとうに放棄しておったからの」


 思いがけない数字だった。下手すれば100年……と思っていたが、この子は1000年以上も孤独に過ごしていたのか。


「英太と過ごした二日間は、これまでの1000年とは比べ物にならぬ程楽しかったぞ」


「ありがとう」


 嬉しい事を言ってくれるじゃないか。頑張って働きたくなるぜ。


「ふむ……しかし、街か……うむ、妾はそれでは物足りぬな」


「物足りない?」


「うむ、どうせ作るなら、もっと大きなものじゃ。妾が統べる国を作るのじゃ!」


 グウィンは両手を広げ、大げさに夜空を指し示した。


「なんだか偉そうだな」


「ふふん、それがドラゴンというものじゃ」


 だが、俺はその言葉に妙な説得力を感じた。


「……じゃあ、名前をつけよう。国の名前だ」


「ほう、良い心がけじゃ。どれ、妾が考えてやろう」


 グウィンは顎に手を当て、うんうんと唸る。


「『グウィン王国』ではどうじゃ?」


「独裁政権じゃねぇか」


「むぅ……ならば『英太の村』」


「何故村に格下げになる」


「カッコ悪い名前は嫌じゃ。ここは正念場ぞ」


「ドラゴンは入れたいなー……英太ドラゴン、クリエイトドラゴン……」


「グウィンドラゴン」


「ドラゴンクリエイト……ドラクリ」


 不意に自分のステータス画面が思い浮かんだ。


 職業・デベロッパー。


「デベロッパー……デベロドラゴン」


 沈黙が訪れる。


 そして、ほぼ同時に顔を上げて言った。


「『デベロ・ドラゴ』」


「デベロッパーとドラゴン……か」


「ふむ、ドラゴンという高貴な名も入っておるし、英太の肩書きも悪くない。良き名じゃ」


 満足そうにグウィンが頷く。俺も自然と笑みがこぼれた。


「よし、決まりだ。ここは『デベロ・ドラゴ』だ」


「妾たちの国じゃ!」


 星空の下、俺たちは自分たちの国の名前を決めた。そしてその名前は、未来のどこかで、多くの人々の記憶に残ることになる……なんてことは、まだ誰も知らない。


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