第三十八話 ゴーレム再編成
一ヶ月後に外の世界に出る事が決まった。俺とサーシャは出来る限りのスキルアップをしながら、国作りにも奔走した。
外の世界では、他種族間の争いが殆ど無い反面、大国の内政はなかなか乱れているようだ。人間国には荒くれ者の冒険者や盗賊などもいるし、魔王国はいつ内紛が起こってもおかしくない状態らしい。
何があっても対応出来るだけの準備が必要だ。
アドちゃん曰く、俺のHPやMPは外の世界でも上位冒険者に匹敵するようだった。詳細鑑定出来ていない部分に関しても、一般的な冒険者に劣ることはないという。とにかく、『創造』と『全属性魔法』を使用出来る上に、魔力回復手段を複数持っているのがチートなのだそうだ。
唯一の弱点は基本魔法である火、水、風属性のスキルレベルの低さ。聖属性魔法や精霊魔法も鍛えて、土魔法に偏っているスキルレベルを満遍なく向上していく。
覚醒したサーシャも俺には及ばすとも、HPとMPに不安はない。スキルや身体能力に不安はあるが、それらも一般冒険者レベルではあるようだ。サーシャの場合は個体としてのレベルもまだまだ上昇の余地がある。
サーシャは特に精霊魔法に心血を注いだ。スキルレベル2になった事で、一度に召喚出来る精霊が20に増えた。それに加えて、精霊たちやアドちゃんに魔力を供給する事でも、精霊魔法の経験が詰める事が判明した。
ちなみに、相性の悪い魔力を必要もないのに受け取っていたアドちゃんは、サーシャの見えないところで吐きそうになっていた。
愛するハイエルフの為に命を削る……感動した!
グウィンは俺たちが食べる為の干し肉製造に精を出した。外の世界に出れば沢山食べ物がある……とは言い出せない真剣さだ。グウィンなりに、やれる事をやりたいのだろう。
俺はゴーレムハウスを5階建てに増設する事にした。理由はもちろん、ゴーレムの大幅増員だ。創造するのは、今までのゴーレム達より一回り小さなゴーレムを240体。
小さいと言っても日本人男性の平均くらいの体格をしている。能力も既存のゴーレムたちに引けを取らない。
リーダーゴーレムのゴレンヌ、グウィン直属のゴレミを除いた12体のゴーレムに、各々20体の配下を持たせる事が目的だ。
そして、彼らにはそれぞれ持ち場を与える。王都建設部隊が6部隊。それぞれの区画に一隊ずつを配置した。
ゴーレムたちにに魔力を与えるのはグウィンが行った。ハイエルフ覚醒前はサーシャが担ってなっていたが、精霊魔法に集中してもらっている。
そしてグウィンはやる気に満ちていた。
「英太、新たなゴーレム達の核を増やしてはくれぬか?」
土魔法と創造のスキルレベル上昇によって、既に当初ゴーレムたちに与えられた魔力の数十倍を付与できる状態になっている。つまり、一度の魔力供給で半年は稼働可能なのだ。
そんなに要る? ……とは言えなかった。やる気に満ち溢れた……キラキラグウィンを目の当たりにしたら、とても言えたものではない。
核を2つに増やしたゴーレムたちは、充電容量だけではない進化を遂げた。パワー、知性、言語能力……その全てが爆上がりしたのだ。
「英太様、おはようございます」
「このゴレバルト、命に変えてもグウィン様をお守り致します」
「サーシャ様、本日も眩いばかりのご美貌をお持ちでいらっしゃり、その気品と優雅さに思わず見惚れてしまいます。貴女様の輝きは、まるで夜空に煌めく星々のごとく、見る者の心を魅了してやみません。本日もその麗しきお姿を拝見できること、誠に光栄に存じます」
ってな感じで……言語力は俺より上なんじゃないか? っていうゴーレムまでいたりする。つまり、元々いたゴーレムたちは、後輩に抜かれた先輩たちみたいになってしまった。
そこで、久しぶりにブラック労働ドラゴンが発動する。
「英太よ、元々いたゴーレムたちも核を増やしてはくれぬか?」
来た……でも想定内ではある。なんなら増やしてやらないと可哀想まである。
「核はそれぞれ3つがいいのじゃ」
後輩たちより増やしてやる。そうですよね。わかります。
「ゴレンヌとゴレミは5つなど、どうじゃ?」
ほー。ちょっと想定超えて来たね。やるね、ブラックドラゴン。
「でな、それぞれ少しばかり変形させて欲しいのじゃ。スタンダードなゴーレムの姿にしてやりたい」
「スタンダード?」
いや、割とスタンダードなゴーレムだと思うけど……そういや、グウィンは最初から変わった形のゴーレムって言ってたっけ?
「どんな風にするんだよ」
「これなのじゃ!」
グウィンが指を刺したのは、墓跡……ではなく、グウィンの土像……の、本来の姿バージョン。
「ブラックドラゴンの形にしろってこと?」
「違うのじゃ! 完全にブラックドラゴンではなく、ゴーレムドラゴンになって欲しいのじゃ!」
「ドラゴンゴーレムの配下が人型ゴーレムって、移民の印象悪く無いか?」
「は、配下であって配下でないのじゃ! みな等しく仲間! なのじゃ!」
「わかったよ。ちょっと準備するから2、3日待ってくれ」
「おーーー! 嬉しいのじゃーー! 英太ーー! ありがとうなのじゃーー!」
るんるんで踊るグウィン。やっぱり子供にしか見えないな。
「あれ? ツバサはどうした?」
「ああ、サーシャに頼まれたのじゃ……妖精たちがツバサを気に入ったようでな、昼の間は妖精たちに貸してあげて欲しいとな」
「そうなんだ」
「妾も忙しい身じゃからな。ツバサの相手は夜しかしてやれぬ。だから旅に出しているのじゃ。それに、離れている時が2人の絆を強くするとも言うしな」
「ふーん」
イタズラするのは妖精じゃなくてピクシー。ツバサを壊されて激怒……なんて事にはならないよな……
☆★☆★☆★
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
……なった。
土下座するハイエルフと、笑顔で舞い踊る妖精たち、そして怒りを押し殺しているブラックドラゴンがそこにはいた。
ツバサは心臓から突き破られて、土コットンが剥き出しになっていた。
「サーシャ、妾はサーシャを叱りたくはないぞ」
「叱ってください! 私はドジでのろまなハイエルフです! あまんじて罰を受けますからぁ!」
「あいわかった。では、妖精たちからの謝罪を要求する」
謝罪? 妖精たちは喋れない……いや、何かは喋っているが、俺たちは聞き取れない。
「それが出来るまでは、ハイエルフと名乗るのは禁止じゃ……それまでサーシャはローエルフじゃ」
「ローっっ!? ……承知しましたぁっ……」
すたすたとグウィンが立ち去った。サーシャは土下座の体制のまま微動だにしない。
「サーシャ、大丈夫か?」
「英太さん、あの、ショックで身体が動きません。起こしてはくださりませんか?」
低い姿勢で固まってるなんて、とってもローエルフだね……なんて軽口を叩ける雰囲気じゃないようだ。俺はサーシャの身体を抱き上げた。
「ツバサはさ、俺が治せるんだから、グウィンに返す前に持って来てくれたら良かったのに」
「……盲点です……いや、でもそれは卑怯です……あの子たちったらどうしてイタズラしたのかしら」
「精霊魔法が成長したら、言葉が理解出来るかもな」
「確かにそうかもしれません」
俺は、一応サーシャを鑑定してみる事にした。案の定、サーシャには新たな称号が加えられていた。
「サーシャ、種族はハイエルフのままだ。でも、ローエルフって称号がついてる」
「嫌だぁっっ! そんなの嫌だっ!!」
「ハイエルフに戻れるといいな」
「頑張りまぁす……」
この時は、些細な行き違いとしか思っていなかった。これがグウィンを根本的に変えてしまう事件に繋がるとは思ってもいなかったのだ。




