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ゲームみたいな異世界に転移した俺、最強のチートスキル《創造》でブラックドラゴン娘と一緒に荒野を復活させていたんだが、何故だか邪神扱いされていた件  作者: しばいぬ
第二章 美しく萌ゆる森

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第二十八話 ドラゴン、人形を抱く

「何かクリエイトして欲しいものはない?」


 邪神問題からどこか元気のないグウィンを元気づけたい。俺はその一心で、おもてなしモードに突入していた。


「妾を喜ばすのが英太の役目であろう。聞くでない、自分で考えるのじゃ」


 ブラック上司のような発言は、平常運転のグウィンだと認識する。


「そんな役目を担った覚えなんて無いんだけど」


 グウィンは大きく息を吸い込んだ。炎が来るかと警戒したが、飛んで来たのはわざとらしいため息だった。


「出会った頃の英太は、妾にときめきをくれたものじゃったのに……最近はとんと無くなってしまったのぅ……妾の心臓を一突きしたあの日が懐かしい」


 倦怠期の彼女みたいな言い回しで、物理的な一突きの事を懐かしむな。


「このような物を贈れば、妾が満足すると思っておるのじゃろう?」


 グウィンが掲げていたのは、クリエイトで創り上げたデフォルメドラゴン人形だ。クレーンゲームの景品をイメージしていたのだが、かなりしっかりとした人形に仕上がった。土魔法の成長で、まるでコットンかのような、ふわふわ土を錬成出来るようになったのだ。


「本来の妾の姿を模したものであろうが、妾の高尚さを表現しきれておらぬな」


「そりゃ、デフォルメしてるからな」


 グウィンが人形を持っていたら、ゴスロリ・サイコパスキャラのようで、絵面的に面白いかと思っただけだ。


「このような物では、妾の心は動かせぬぞ」


「あ、そう……」


 知っている。俺はグウィンが人形を肌身離さず抱えている事を知っているぞ。言わないけど。


「でも、グウィンちゃん、毎日一緒に寝てるよね? 名前も付けてたじゃない。ツバサちゃんだったかな?」


 言うな! サーシャ! そこは見てないふりをしろ! 


「サ、サーシャよ!何を言っておる! 妾は寝ておらぬ!」


「ツバサちゃんを抱くと眠りやすいって言ってませんでしたっけ?」


「抱いてなどおらぬ! 妾は寝ない! こんなもの必要ないのじゃ!!」


 グウィンはぬいぐるみを放り投げて飛び立ってしまった。サーシャがぬいぐるみを拾い上げて抱きしめる。


「反抗期ですかね?」


「2025歳の?」


 サーシャには悪気がない。というか、あんまり悪くもない。グウィン的に言われたく無い事だっただけだ。


 サーシャは、ほぼ毎日グウィンに安眠魔法をかけている。だから、グウィンが寝ている時に、ぬいぐるみを手放していない事は当然知っている。


「でもダメですね。人形は大切にしないといせません……魂が宿ると祖母が言っていました」


☆★☆★☆★


その日の夜、グウィンが俺の部屋に忍び込んで来た。目的はもちろん、人形を取り戻す為だ。


「英太、起きておるか?」


 寝ていて欲しい、と伝わって来る小さな声だった。俺は狸寝入りをした。


「すまぬな、ツバサ……妾はツバサの事が大好きなのに……英太もすまぬな……」


 そう言って、ツバサを連れ去ってしまった。


 俺は知っている。グウィンには俺たちに内緒の巣がある事を……以前ゴレミがしばらく行方不明になっていたのだ。その理由がグウィンの隠れ家を作る事だった。きっとグウィンは隠れ家で一人、邪神の事を考えているのだろう。


☆★☆★☆★


 翌日、俺はサーシャと共にグウィンの巣に向かった。グウィンの巣は島の零時の場所にある。俺たちが隠蔽魔法で姿を消して巣に近づくと、赤ちゃん言葉が聞こえて来た。


「ツバサちゃん、妾のことをどう思いまちゅか? 妾は自分のことがほとほと嫌になっておりまちゅ……仲良くしたいでちゅのに、いざ目の前にいると、ばぶー、どうしても逆のことをしてしまうのでちゅ……やっぱり妾が仲良くしようだなんて、いけないのでちゅかね……ばぶばぶ……」


 お人形さんに赤ちゃん言葉で悩みを相談するブラックドラゴン……見られたくないものを見てしまったな。サーシャに合図してその場を去ろうとした時、サーシャが自分の隠蔽魔法を解いてしまった。


「仲良くして良いんです」


「サーシャ、どうしてここがわかったのじゃ?」


「隠蔽魔法でつけてきました。グウィンちゃんの様子が変だから、心配だったんです」


 なんと凛々しい。正々堂々と向き合う姿は、まるで覚醒済みのハイエルフのようだった。


「サーシャ、その……今見た事……英太には内緒にしてくれるか?」


「え、あ、あ、あの、はっ、はい!」


 前言撤回っ! 取り乱し過ぎだろ! 流石にバレるわ! という突っ込み虚しく、グウィンは淡々と話し始めた。


「妾はな、其方らと同様に、ツバサの事も大好きじゃ」


「知ってますよ」


「でも、一緒に寝ておる事を英太に知られたくなくて、ツバサを放り投げてしまった」


「そうですね。私、ちょっと怒ってます」


「すまぬ、それでな……妾は考えたのじゃ……どうしてツバサを放り投げてしまったのか? 妾の中に、凶暴さがあるのじゃ……ブラックドラゴンとしての本能があるのじゃ……それであの様な事をしでかしてしまった……このままだと、いつか妾は其方らの事も傷付けてしまう……」


 サーシャはそっとグウィンを抱きしめた。そして、頭をポンポンと叩いてからジッと顔を見詰める。そして、固く握った拳で、グウィンの脳天を殴り付けた。


「痛ったーい!!」


 と言ったのはサーシャだった。当然のようにグウィンは無傷。サーシャの手首は砕けたようだ。


「何をしておる!」


 グウィンは慌ててサーシャの手を取って、ペロペロと舐めていく。強力な治癒効果が発動し、サーシャの手首はあっという間に回復した。


「大丈夫か? 痛くはないか?」


「痛いです。でも、グウィンちゃんが一人で悩んでいるのはもっと痛いです。胸が痛いです」


 グウィンはサーシャの胸に手を翳した。


「舐めた方が効果は高いのじゃが……」


「そういう意味じゃありません! グウィンちゃんが辛いのは私も辛いんです! 相談して欲しいんです! ブラックドラゴンの本能があったとしても、グウィンちゃんは大丈夫です! 私が殴っても、反撃しないで心配してくれたじゃないですか!」


「それは、痛くも痒くも無かったからの」


 そこはハッキリ言うのは通常運転のグウィンだ。サーシャは気にも止めずに続けた。


「大丈夫です! 私には人を見る目があります! ドラゴンを見る目もあります! グウィンちゃんは大丈夫です!」


「でも妾は魔物なのじゃ……魔物は本来、人間やエルフとは相対する生き物じゃ……」


「……違うよ」


「気休めなど要らぬ」


「本当に違うの!」


「なんじゃと?」


「今は不可侵って言って、全ての種族が国交を断絶しているの。魔族だけじゃなくて、人間も、ドワーフもみんな。だから、他種族間での争いは一切起こらない。相対していないの。いざこざが起こった事もあるけど、それに関わった人には厳しい罰が下される事になっているの」


「そうなのか」


「だから、グウィンちゃんの言ってる『本来』は、もうないんです。大昔はそうだった……ってだけなんです。そんな大昔の事を気にして、友達に素っ気なくされて、私、寂しかったです」


「そうか……すまなんだ」


「はい。英太さんも凄く心配してましたよ」


「そうか、謝らねばならんな」


「謝らなくていいですよ。あの人、かえって気を使いますから。気を遣える俺! 俺! って感じですから」


 あれ、サーシャ……俺がここにいる事忘れてる? 聞いてるよ俺!


「サーシャは皆を理解しておるのぅ」


「はい。ハイエルフですから! さあ、帰ってお風呂に入りましょう! グウィンちゃんが沸かしてくださいね。今日はツバサちゃんも一緒にお風呂しましょう」


「あいわかった」


 グウィンはツバサとサーシャを連れて飛び立ってしまった。巣に取り残された俺は、徒歩で家路につく事になった。身体強化と風魔法があって本当に良かったと思っている。


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