第二十三話 上級スキル『全能鑑定』
交配と交流を勘違いしていたハイエルフの末裔は、耳を真っ赤にして頭を冷やしていた。
普通は夜風にあたるものだが、既に夜風にあたっている。サーシャは何故か螺旋階段を降りて行った。そして……戻って来ない!!
え、何してんだ? と、階段を降りる。サーシャはグウィンと横ですやすやと眠っていた。
「こんな事ある?」
そう思いながらも、精神的に限界が来たのかな? と納得する。相当な事を話してくれた。サーシャがハイエルフの末裔である事を隠したがらなければ、グウィンを殺そうとしているなんて勘違いしなくて済んだのだが、隠したい気持ちも理解出来る。
自分の命を捨ててもいいと思ってまで、大切にしていたエルフ王国の国民たちから、「呪われし王女」と言われていたのだ。
念の為にグウィンのステータスを確認する事にした。
「《鑑定》」
ステータス
名前:グウィン・鏑木
年齢 : 2025
種族:暗黒竜
レベル:XXX
HP:99900/99900
MP:99800/99800
ユニークスキル
•リポップ
スキル
煉獄の炎
氷結の息
厄災の舞
聖なる雫
状態:安眠
初めて見る「状態」という項目。スキルレベルがアップしたから追加されたのかな? 安眠という事で、一安心だ。
そんな事よりも、グウィンの名前だ。
「グウィン・鏑木?」
何故名字を手に入れている。何故俺の名字なのだ? 記憶を失ったグウィンは、サーシャから得た知識をスポンジのように吸収している。どうせ「妾も名字が欲しいのじゃ! 英太と同じがいいのじゃ!」とか言い出したんだろう。
全く、可愛い娘だ……
俺も眠くなってきた。三人で川の字で寝るなんて……家族みたいだな。
……そういえば、何でグウィンの鑑定が出来たんだろう? 能力差は大きい筈なのに……ああ、明日考えよう。
☆★☆★☆★
翌朝、俺が目覚めると、2人ともまだ寝ていた。まさか!? と思ったが、呼吸はしているし、鑑定スキルの結果、グウィンの状態は「安眠」だった。
二人を寝かせたまま寝室を出る。せっかくだからもう少し寝かせてやりたかった。
作業を開始していたゴーレムたちに、静音作業をお願いすると、面白い程静かに作業し始めた。こんな機能まで進化していたなんて、凄いなゴーレムたち!
鑑定スキルがレベル4になった事で、色々試してみる事にした。イメージ出来る生命以外のものは創る事が出来る……はず。
「ステータスオープン」
ステータス
名前:鏑木英太
年齢 : 15
職業:デベロッパー
称号:ドラゴンスレイヤー
レベル:99
HP:6800/6800
MP:7200/7200
ユニークスキル
•クリエイト Lv.3
スキルスロット
1.全属性魔法 Lv.3
2.言語理解
3.万能鑑定 Lv.4
4.アイテムボックス Lv.3
5.
6.
ステータスウインドウそのものに照準を合わせる。一つ一つのスキル、能力、その詳細を『鑑定』出来るようになりたいのだ。
不可能だった。何も変化が起こらない。俺は照準を「万能鑑定」に合わせて、同様のイメージをした。
「《鑑定》」
ウインドウがもう一つ浮かび上がる。鑑定スキルの説明がなされている。変わらない文言の中に追加されていた項目があった。上位スキル「全能鑑定」への進化だった。
消費魔力が高くなり、今までのスキルレベル上昇で得た恩恵のうち、魔力消費効率を失ってしまう。その代わりに得られる能力がこの3つ。
「詳細鑑定」
鑑定結果で表示される情報が大幅に増える。鑑定者が発した情報は優先的に表示される。
「隠蔽看破」
全ての隠蔽を看破するオートスキル。隠蔽前と隠蔽後の状態を同時に視認できる。
「相性診断」
人、物、事象、全ての事の相性を診断する事が出来る。スキルレベル上昇により、精度が上昇。
詳細鑑定と隠蔽看破は非常に役立ちそうだ。相性診断は、現状占いみたいなものか? 事象との相性ってなんなんだ?
俺は迷わず「全能鑑定」への進化を選択した。スキルレベルは1になってしまったが、そのぶん伸び代が増えたと喜ぼう。
ステータスウインドウの表記が「全能鑑定」に変化した。試しにゴレンヌを鑑定してみる。
「《鑑定》」
ステータス
名前:ゴレンヌ
年齢 : 0
種族:作業用ゴーレム
レベル:1
HP:3400/3400
MP:600/600
スキル
・言語
うん。変わらない。消費MPは……12。以前の数値は覚えていないが、3かそこらだった気がする。かなりの上昇だが、スキルレベル上昇で魔力消費効率は改善するだろう。
さて、本命の詳細鑑定だ。俺は再びゴレンヌに向かって手を伸ばす。
「《詳細鑑定》」
その瞬間、ステータス画面が変化した。
ステータス
名前:ゴレンヌ
年齢 : 0
種族:作業用ゴーレム(ゴーレムの族長)
レベル:1(次のレベルまで15EXP)
HP:3400/3400
MP:600/600
基本能力
筋力: C
敏捷: E−
知力: E
精神: C+
耐久: E
幸運: B+
スキル
・言語
詳細:ユニークスキル『創造』によって生み出されたゴーレム。
リーダーとしての経験を積んでおり、レベルアップによって、スキル「指揮者」が獲得可能。
言語能力は会話の試行回数によって、人間レベルまで成長可能。
核を残した再構築により、種族を戦闘用ゴーレムや、内政用ゴーレムに変更する事が可能。
レベルアップによって、言語能力のスキルレベル上昇が可能。
なるほど……これは便利だ。種族内の役割、次のレベルまでに必要な経験値数、基本能力の詳細、成長の余地ととの為に必要な条件の提示。
「素晴らしい!」
唯一の欠点である魔力消費。消費MPは1200と膨大だった。これ……対象の能力によって消費MPが変わるとかないよな?
自分自身やグウィンを調べられないと厳しい。俺は覚悟を決めて自らを鑑定しようと試みた。
……無理だった。無常にも浮かび上がる「MPが足りません」の文字。自分自身は鑑定出来るが、MPが足りないと……当然グウィンも無理だよな……ダメ元で試してみよう。
溜め息混じりの俺の顔をゴレンヌが覗き見る。
「ダイジョウブデスカ? エイタサマ」
「ああ、大丈夫だよ。新しいスキルの消費魔力が大きすぎてね」
「ソウデスカ。スキルレベルヲアゲレバ、コウリツモ、アガリマスヨ」
「そうか、そうだよな! そのうち使えるようになるか!」
「シノタキノミズノ、カンテイモ、タノシミデスネ」
「そうだよな! よし、桶に溜めてた水を鑑定するか」
「デハ、ノッテクダサイ、セイオンウンテンデ、ウンコウシマス」
ゴレンヌは俺を背中に乗せて、スーッと走り出した。
本当に成長してるな。特に言葉。言語のスキルレベルは上がってないけど、前より喋れるようになってないか?
「ゴレンヌ、喋るの上手くなったな」
「アリガトウゴザイマス、サーシャサマガ、タクサンハナシテクレルノデス」
そうか……サーシャの影響で進化したのか……
「ゴレンヌ……みんなで一緒に成長していこうな」
「ハイ、エルフです」
「……ゴレンヌはエルフじゃなくてゴーレムだよ」
サーシャの奴、ゴーレムの前でもハイエルフアピールをしていたのか?
あっという間に桶の前まで運ばれた俺は、『死の滝の水』に詳細鑑定をかけた。
幸か不幸か、魚たちが消滅した理由はグウィンとは関係が無かった。
死の大地の影響で死亡し、分解されて水の中に溶け込んでいるようだった。生命を受け付けないのか、ある一定の大きさや魔力が無いものを拒絶しているのか、どうなんだろうか?
試しに死の大地を鑑定してみたが、もちろんMPが足りなかった。
サーシャが魚に毒があると言っていたのを思い出す。俺は「詳細鑑定」で、『死の滝の水』の成分を鑑定した。
「ま、まじかよ!!」
思わず声を上げてしまった。死の滝の水の成分表には、聞き覚えの無い言葉が並んでいた。そして、最後に簡潔に「使い方」が書いてあった。
最上級の栄養を持つ水。食物の成長を促す。




