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第二十二話 ハイエルフの末裔

「内緒のガールズトークなんですけど」


 そう言いながら、サーシャは、グウィンとの会話の一部を話してくれた。グウィンが雄でも雌でもない事は、今は置いておこう。


 グウィンはサーシャにも、自分を殺してのレベルアップを提案していたらしい。それがサーシャにとってどれだけの精神的負担になるかをわかっていないのがグウィンらしい。


 当然ながらサーシャはその提案を拒絶した。理由を説明すると、グウィンは納得したように頷いて、こう言ったという。


「妾は本当は生き返りたくなどないのじゃ」


 リポップが無くてもグウィンは長命らしい。ハイエルフ以上に生きるという、伝説の存在なのだという。グウィンもそれ事態は受け入れていた。しかし、「殺されても生き返るのは寂しい」と言ったそうだ。


「生命の連鎖と理を外れた存在は、恐怖の対象でしかないであろう?」


 グウィンはそう言っていたそうだ。


「全然、秘密のガールズトークじゃなくない?」


「そうですか? 私たちは女の子ですよ」


「まあいいや。それで?」


「私はグウィンさんの呪いを解いてあげたいと思いました」


「呪い? 『リポップ』はスキルだよ」


「本人が望まないスキルは呪いです。可能性が少なくても、私なら、もしかしたらグウィンさんの呪いを解けるかもしれない……それを言ったらグウィンさんは解いて欲しいって」


「『R.I.P』はスキルレベルが上がると、解呪能力も発動するんだよね」


「知ってるんですか?」


「ごめん、鑑定させて貰ったから」


「そうですか。本当にそうなんですかね?」


「え、そうなんじゃないの?」


「『R.I.P』は、祖母に教えて貰ったんです。高齢になって眠れなくなったから、『安眠魔法』を覚えて欲しいって。私は生活魔法しか使えなかったんですが、安眠魔法も生活魔法の一部だから大丈夫だよ……って」


「まあ、確かに安眠魔法は、普通に考えたら生活魔法だよね」


「それが本当はハイエルフにとって、一子相伝の特別な魔法だったなんて」


 魔法じゃなくて、ユニークスキルみたいだけど。話が逸れそうだから、後で教えてあげよう。


「おかしいなって思う事はあったんです。名前がハイエルフしか使わない言語だったので……一子相伝の魔法だと知ったのは、祖母が亡くなってからでした。英太さんは、ハイエルフの事はどこまでご存知ですか?」


「知識はあるけど、間違ってる事が多くて。俺の認識だと、ハイエルフはエルフの上位種で、家系だけじゃなくて、種族として沢山存在する……って聞いてた」


「そうですか。ハイエルフはブランシャール家からしか出ません。産まれた時はハイエルフではなくて、成長していく中で母親から能力を引き継いで、ハイエルフに進化するんです」


「そうか……ご両親は?」


「ハイエルフになるのは女性だけで、男性は全ての生命力を子種に託して死んでしまうんです。私の母は私を産んだ時に亡くなってしまって」


「そうか……辛かったね」


「いえ、私には祖母がいましたから。それに、他のエルフたちとは何もかもが違って、両親がいるエルフを羨ましいと思う事すらありませんでした」


「そうか。おばあちゃんは優しかったんだね」


「とっても優しくて、厳しかったです。私がハイエルフに進化しない事を、最後まで気にかけていました」


 サーシャの種族名は「ハイエルフの末裔」だ。子孫という意味だが、それは、ハイエルフの子孫だけど、ハイエルフではない。という意味なのだろうか?


「私、エルフの国では呪われているって言われてたんです」


「ハイエルフに進化しないから?」


 可哀想だけど、得てしてそう言うものか。王族が王の証を持たないとなると……イメージする王国だと、王族の陰口は死を意味するけど、エルフ王国は違うのだろうか?


「私は小さい頃、エルフ王国に迷い込んだ魔物の子供を助けた事があるんです。不可侵条約を結んでいるので、他種族が領内に現れる事などあり得ないのですが、その時の私は30歳と幼くて」


 俺からするとバリバリに脂の乗ってる年頃だが、エルフ的には5歳程度か?


「魔物の子供はエルフの矢に刺されていたんです。それも数本。どうやら獣と勘違いされたようで、魔物の侵入という騒ぎにはなっていませんでした。魔物は今にも息を引き取りそうでした。私は居ても立っても居られなくなって、力尽くで矢を抜きました。傷口から黒い血が流れていて……私は、死なないで! 死なないで! と祈りました。そしたら魔物に光が宿って、傷が塞がっていったんです」


「回復魔法が発動したのかな」


「そうなんですかね? 私は今でも回復魔法を使えません。あれがなんだったのかは今でもわからないんです」


「それで?」


「私は気絶してしまいました。気がつくと魔物の姿は亡くなっていて、周りには大人のエルフが沢山いました。魔物の血がついた矢と、魔物の臭いが染み付いた私を見たエルフが、「やっぱりこの子は呪われている」と、言っていたのを覚えています。私は知っていましたから、母を殺して産まれた「呪いの王女」と呼ばれていた事を」


「そうか……」


「その日の祖母は、いつもより厳しくて優しかった。魔物を助けた事は、怒られたけど、褒められもしました。でも、エルフのみんなが魔物を嫌がる気持ちもわかりました。今の私ならあの子を助けてあげるのかな? そう考えると、なんだか悲しくなります」


「サーシャは絶対に助けるよ。ブラックドラゴンの呪いを解こうとしてる癖に何言ってんだよ」


「そっか……そうですよね……でも、悪い魔物もいるって祖母に教えられましたから、慎重に見極めます」


「まあ、あいつは悪いブラックドラゴンじゃなさそうだもんな」


「見極めました!」


 サーシャは戯けた顔でそう言った。そして、表情を引き締め直す。


「……それで、本当なら1000歳を超えたハイエルフは、娘に能力を譲って隠居するのですが、祖母には譲る筈の娘がいなくて、私には上手く譲る事が出来ず……祖母は2500歳を目前にして、ハイエルフのまま天寿を全うしました」


「……って事は、今はエルフの国はどうなってるの? 王どころか、王族がいなくなったって事だよね?」


「国自体は平和そのものなので、宰相たちに任せれば領内の運営は問題ありません。だから、私は死の滝に飛び込んだんです」


「飛び込んだ?」


「一族の者しか読めない隠匿魔法のかかった書物に書いてあって。私はハイエルフではいけど、ハイエルフの末裔に当たるから、それを読む事が出来たんです」


「何が書いてあったんだ?」


「330歳までにハイエルフに覚醒出来なければ、ハイエルフになる事は出来ない。ハイエルフの一族が消滅すれば、新たにハイエルフに覚醒する一族が生まれる」


「……それは……本当なのか?」


「そう書いてありました。それに、そこに書いてあったことの殆どは、祖母が私に口を酸っぱくして教えてくれていたものでもありました。ハイエルフに覚醒する為に嗜むこと、覚えること、やってはいけないこと、全て私が教育されていた事でした……その中に『R.I.P』の習得もあって……私が唯一守れなかったのは、魔物と交配してしまった事だけでした」


「魔物と……交配?」


「はい。子供の頃に」


「交配? したの?」


「ええ、助けましたから」


 俺は交配と交流を取り違えているであろうサーシャに、交配の意味を教えた。


「……忘れてください」


 耳を真っ赤にしたサーシャは、少しだけ頭を冷やしたいと言って、俺から離れていった。


 つまり、サーシャはエルフの国を救う為に、ハイエルフを誕生させる為に滝に飛び込んだと言う事だろう。


 ハイエルフに覚醒する為の条件を全て整えていたのに、覚醒出来なかった。サーシャが生きていては、ハイエルフが誕生する事は無いと言われている。


 現状でエルフ王国には何の問題もない。それでも王国の為に『死の滝』に身を投げた。


 そして行き着いたのが……『死の大地』という事か。


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