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第二百話 勇者

 新王デスタルトは姿を変えて冒険者をしていた。


 魔王国では公然の事実である。しかし、現在の人間国でそれを知る者は一人も居ない。


 ペペナの質問に、魔王デスタルトは「そうだ」と答えた。


「やはり、そうなのですね……私はお目にかかる事は出来ませんでしたが、貴方様の冒険譚に胸踊らせておりました」


「ペペナ、君はルウィネスの王族なのか?」


「はい。ルウィネス王国の第一王子、ペペナ・ルウィネスで御座います」


「そうか……頼みがある」


「何で御座いましょうか?」


「俺たちはお忍びで人間国に来ている立場だ。堅苦しいのは無しにしよう。先程までのように普通に話してくれ」


「ですが……」


「ここにいる俺たちだけの秘密だ」


「はい。わかりました」


「見たところ、ペペナとナディアは立場が違うように見受けられるが?」


「流石は英雄タルト・ナービスですね。ナディアはルウィネスの王室に使えるメイドの子供です」


 ペペナは事実を述べたのだろう。しかし、俺たちはその先の真実に辿り着いている。


「ナディアの父親が誰なのかは、知っているのか?」


 ペペナは一瞬だけ顔を強張らせてから、穏やかに話し始めた。


「知らない……という事になっておりますが、王宮内で知らぬ者は居ないと思います」


「グルメアの血縁者……それも王に近い存在だな?」


「まさにその通りです」


「ナディアにスキルが発源したのも、皆が知っているのか?」


「いいえ、それは僕だけです」


「なぁ、俺も質問していいか?」


 俺は二人だけで盛り上がるタルトとペペナの会話に割り込んだ。そういうものなのか……と、思いながらも、気になっていた事があったのだ。


「なんでしょうか?」


「ナディアのスキルの事なんだが、君たちはその名前も知っているのか?」


「スキルの鑑定は15歳になった時の成人の儀で行われます。僕たちはまだその年齢ではありません。ですが予想は付いています」


「俺は鑑定魔法が使える。申し訳ないが、勝手にスキルを確認させて貰った。彼女のスキルは人間国の勇者にのみ発現するものだと思うが、君たちもそう思っているのか?」


「はい。《暴食グラトニー》で間違い無いと思います」


 当のナディアはサーシャに抱かれてすやすやと眠っている。そんなナディアを見るペペナの表情は、誇らしげにも、寂しげにも見えた。


「正直なところ、ナディアはあまり良い立場にはありませんでした。私生児……とすら認められないまま、触れてはいけない禁忌のような扱いを受けていたのです。しかし、スキルの発現でナディアの立場は一変すると思います。僕たちは離れ離れになってしまうかもしれませんが、それは仕方ありません」


「七大国には七人の勇者が存在するんだよな? ユニークスキルに目覚めたナディアは、グルメアの勇者になる資格が生まれたって事になるのか?」


「英太、そのくらいにしろ」


 そこでタルトが割り込んで来た。そりゃそうだ。踏み込み過ぎだろう。


「ペペナ、少し魔王と二人で話させて貰えるか?」


 俺はそう言って、音声遮断魔法ノイキャンを唱えた。


 俺が問う前に、タルトから答えが返って来た。


「ルウィネスは怠惰の国だ」


「怠惰の国の勇者に発生するユニークスキルは《怠惰スロウス》なんじゃないか? 勇者が怠けていればいる程に、良い結果に繋がるスキル」


「知ってたのか?」


「いや、疑問に思っていたんだよ。カートの《怠惰》なんてチートスキルがユニークじゃないのは、おかしいなって」


「その辺の事は俺も知らない。いずれはカートか父上に確認せねばと思っていたのだが」


「まさか、まーくんは人間国の王族にも手を出していたのか?」


「それは言うな……一番筋が通るのがそれだ」


「って事は……ルウィネスの王族には、《怠惰スロウス》は発現しない可能性があるのか……」


 同じユニークスキルが同時期に二つ存在する事はあり得ない。それがこの世界の常識だ。


「いや、それはどうかな?」


「違うのか?」


「アンカルディアが鑑定しても、カートの《怠惰》はユニークスキルじゃなかった。《怠惰たいだ》と《怠惰スロウス》は別物という可能性もある」


 カートの怠惰はジェネリック版ということなのかもしれないな。


「その辺の事も探らないといけないな。もしも人間国と争う事になった場合、単純な戦闘力以外の要素……勇者のユニークスキルの強力さは警戒しないといけない」


「争いは避けたいんじゃなかったのか?」


「大前提としてはそうだ……しかし、勇者か……グルメアにも勇者はいる筈だが……」


「ユニークスキルが発現していないのに、体裁を保つ為だけに勇者を名乗ったんだろ?」


 俺の言葉に、タルトが凍りつくのがわかった。タルト自身もその可能性が最も高いという事に気付いていた筈だ。それなのに、選択肢から省いていた。


 カートには人間国の勇者の資格がある。


 俺は敢えてそれを口にしなかった。


「人間国七人の勇者の一人は暴食グラトニー持ちのナディアちゃんだろう。このタイミングで出会えた勇者様と王子様を利用しない手は無いぞ」


「どうする気だ? まさか攫ったり脅したりする訳じゃ無いだろうな?」


「その可能性も含めて検討しなければならないな。今のところ有力なのは『ナディアちゃんをこちら側に引き込む』ってプランだな」


「グルメアの勇者を名乗る者にとって、彼女の存在は邪魔になる……か」


「お前は本当に勘がいいな」


「何がだよ?」


「普通なら、保護よりも利用の可能性を考えるだろ?」


「タルトの思考パターンが単純過ぎるんだよ」


「言ってくれるな」


「魔王デスタルト様の意向は承知した。デベロ・ドラゴの王として、鏑木英太の意見を伝える」


「おい……まさか……」


 さすがデスタルトだ。俺の思考パターンを理解してくれているようだ。


「ナディアちゃんを利用しよう。勇者を人質に取るんだ」


 そう言うと同時に《音声遮断魔法ノイキャン》を解いた。そして、不安そうに俺たちを見詰めるペペナに向かって、俺たちの見解を説明する。


「ペペナ、聞いてくれ。ナディアちゃんにユニークスキルが発言した事が王族に知られると、ナディアちゃんの身に危険が及ぶ可能性が高い」


「暴食の勇者が二人になってしまうからですか?」


「そうだ。だから俺たちで保護しようと思う……もちろんナディアちゃんの了承を得られたらだが」


「ナディアは魔王国に連れて行かれるのですか?」


「いや、ナディアちゃんが向かうのは……」


「おにゃか……減ったわ……」


 寝ぼけたナディアちゃんが、サーシャの耳に齧り付いた。


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