第百九十八話 この世界に無い物
スキルレベルアップの核心を掴んだかもしれない。
空間魔法のスキルレベルを上げる為に、あり得ない程の転送魔法と転移魔法を繰り出した。
その結果として得た物は、何ひとつ無かったのだ。
「……で? つまりはどういうことなんだ?」
「スキルのレベルアップは、そのスキルの使用回数が関係している」
「それは一般常識ですよ」
「それで?」
「創造のスキルが停滞していて、急に上がった時があったんだ。その時は特に気にしなかったんだけど、今思うと……って事があった。魔導具で映写機を創った時だ」
「デベロ・ドラゴで作った魔導映写機ですか?」
「そうだ」
「初めて魔導具を作ったからって事か?」
「その通りだ。で、それ以外の要素もあったんじゃないかな……って気付いたのが、魔王国で鉱山を収納した時だ」
「それは創造じゃなくて、アイテムボックスのスキルに関してだよな?」
「あぁ、鉱山を収納して、アイテムボックスのスキルが上がった。それは単純な物量によるもの……それだけじゃ無かったんだと思う」
「……なんだ?」
「使用者が極端に限定されているもの……もっと言うと、まだこの世界に存在しないものを使用した時だ」
「確かに転送魔法の使用者は少ないですけど、そこまでですかね?」
「『父上クラスの自由度を誇る《転送魔法》』を使用したことで、空間魔法が一気に成長したってことか?」
「そうだ。ユニークスキルでない以上、使用者は現れるかもしれない。血縁であるタルトやカートも使えるようになるかもしれないし、アンカルディアは使えるだろうし」
「……理解した。それは研究のし甲斐があるし、あまり広めたくない知識ではあるな……英太、サーシャ、血の契約をしよう」
「何をだ?」
「デベロ・ドラゴ、魔王国、エルフ王国……それぞれの王族と幹部以外に口外しない……するとしたら、俺たち3人の同意が必要……ではどうだ?」
「わかった。サーシャもいいか?」
「はい……でも……」
「どうした?」
「二人は私を王族として認めてくれていますが、今の私はエルフ王国から存在を認められていません……そんな私が血の契約だなんて……」
「それなら気にしなくてもいい。サーシャの未来はハイエルフの女王かデベロ・ドラゴの王妃だろ?」
「それはそうですが……」
サーシャはそう答えてから、慌てふためいた。
「あ! あのっ! それはまだ未定と言いますか……秘密と言いますか……」
「なんでだ?」
タルトは俺に矛先を変える。
俺は観念して、理由を伝える事にした。
「デベロ・ドラゴにはもう一人の王様がいるからな。まずはグゥインに伝えるのが筋だって事になったんだ」
「あぁ……ゴレミ辺りが騒ぎそうだもんな」
正にその通りなんだが、観察眼が無くても理解出来そうな事でもある。
「わかった。じゃあ聞かなかった事にするよ。さあ英太、血の契約を発動してくれ」
「……俺?」
「出来るだろ?」
「それは、多分出来る」
俺はアンカルディアの使っていた《血の契約》をイメージした……その上で、少し手法を変えてみた。
「……なんだこれは?」
タルトが驚くのも仕方ない。俺たちの目の前には魔力で記された誓約書が浮かんでいた。
「血を流す必要も無いと思ってさ。ここに手を翳して、誓いを立ててくれればいい」
「なんて書いてあるんですか?」
「それは、さっき話してた通りだよ」
誓約書を覗き込むサーシャの表情で気がついた。日本語で書いてしまっている。
言語理解スキルのお陰で、この世界の文字も理解していたが、文字に起こす機会が無かったせいだ。
「……あぁ、古代語で書いちゃってたな……すぐに書き直すよ」
「……これが古代語か」
タルトは何か含んだように言った。
「知ってるのか?」
「いや、この文字を何処かで目にした事があると思ってな……古代語だったかな?」
……日本語が存在するのか? 日本に似た島国のヒノモトか……いや、墓穴を掘るだけだからここは黙っておこう。
俺は文字をこの世界の共通言語に修正して、真っ先に誓いを立てる。サーシャ、タルトの順番で誓いを立てた。
「血を流さなくてもいいなんて、活気的だな」
俺はタルトに返事をする事が出来なかった。とてつもない疲労感が襲っていたのだ。
「どうしました?」
サーシャが慌てて俺の手を取る。俺はアイテムボックスから魔力ポーションを取り出して口に含んだ。その瞬間に魔力が満たされていく。
「なんか……物凄い量のMPを消費したみたいだ」
「そうなのか? ガリュムは簡単にやってみせたけどな」
「……心当たりはある。伝説級だったり、この世界に存在しない魔法を創造すると……代償が必要になるんだ」
「代償か……魔力の枯渇か?」
「今回は契約の方法以外は既存のものだったからこの程度で済んだのかもしれないが……」
「簡単に使うべきじゃないな」
「そうです! これからは慎重になりましょう!」
サーシャは半べそで俺に抱きついた。
「おいおい、俺はさっきの会話を忘れているんだが、二人は付き合っているのか?」
タルトがそんな軽口を叩いた瞬間、大きな魔力が出現したのがわかった。
「大きな魔力がふたつ……スタンピードの発生源のあたりだ」
タルトは口元に人差し指を立てながら、俺たちの耳元で囁いた。
「人間か?」
「少なくとも魔族ではない。俺たちの足元にも及ばないが……今の人間国では上澄みだろう……A級冒険者のタルト・ナービスと同格程度だな」
「スタンピードの処理に来たのでしょうか?」
「二人じゃ処理し切れないだろう」
「じゃあ俺たちを追って来たのか?」
「……接触してみるか?」
タルトは言った。荒事になる可能性もあったが、それはそれで辞さない構えのようだ。
「二人とも、俺に捕まってくれ」
「待ってください! 一応、隠蔽魔法で姿を消しましょう」
「俺もサーシャの意見に賛成だ」
タルトは無言で頷いた。
サーシャの隠蔽魔法で透明化した俺たちは、タルトに捕まり、共にフレイマ跡地へと転移をした。