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第百九十三話 女王の座

 よりによって、サーシャの姿に変化するとは……魔王デスタルト様は何を考えているのだろうか?


「英太、こいつらに安眠魔法をかけてやってくれ」


 サーシャ(デスタルト)は言った。その言葉にエルフたちは興奮の度合いを増していく。


 精神干渉に失敗したので、とりあえず眠らせておけってか……まぁでも、それが一番だよな。


 しかし……


「R.I.Pはスキルだから、全属性魔法持ちでも使えないよ」


「わかってるよ。生活魔法の安眠魔法だ」


 ……確かに、本来安眠魔法は生活魔法のひとつなんだよな。俺たちにとって、R.I.Pがデフォルトになっていたから忘れていた。


 ……使った事は無いけれど、使えるよな?


 エターナルコードだと、安眠魔法は……


 俺は檻の中のエルフたちに《安眠魔法スージングスリープ》をかけていく。けしてレベルの高くない俺の生活魔法だが、エルフたちは次々と眠りに落ちていく。


「英太、エルフたちをマジックバックに収納できるか?」


「生命体は無理だよ。わかってる癖に」


「お前なら万が一って思ってな」


 ……待てよ。アンカルディアが俺とカートを閉じ込めた『心象風景』の中になら……あれは結界術の応用だったか? 理論的には俺にも作れるだろうが、あのレベルの結界魔法を使いこなすには、全属性魔法の消費魔力デバフが強大過ぎる。


「まさか、出来るのか? 流石は邪神様だな」


「いや、今の俺には無理だよ。アンカルディアと合流すれば……って思ってな」


「あのくそババア……案外あいつが本当の邪神かもな」


「……少なくとも、俺とグゥインよりは似合ってるぞ」


「聞き捨てならないねぇ」


 俺たちは背後から拘束された。何も存在しない。何の属性も付与されていない、ただの魔力でがんじがらめにされる。


「このキュートな私が邪神だったら、この世の全ては魑魅魍魎だよ?」


 ふわふわと浮遊するロリ魔女は、老獪な笑みを浮かべていた。


「アンカルディアさん、やめてください!」


 声を発しているのは、エルフの美少年だ。しかし俺にはわかった。それは隠蔽魔法で姿を変えられたサーシャ・ブランシャールである。


「はいさ」


 アンカルディアが魔力を解き、俺たちの身体は地面に投げ捨てられる。


「アンカルディア……サーシャ、無事で良かった」


「英太さんっ!」


 エルフの美少年は真っ直ぐ俺に抱きついた。おいおいサーシャ、これじゃまるでBLじゃないか……


 そう思うのも束の間、サーシャは俺の頬を叩いた。


「なんで来たんですか! ここは私たちだけで良いのに!」


 涙を溜めるサーシャを前に、言葉が出なかった。割って入ったのは、アンカルディアだった。


「来ちまったもんはしょうがないさね。サーシャ……この馬鹿共にも教えてやらなきゃならないよ」


 アンカルディアは、物分かりの良いロリ魔女の風体で語った。しかし俺たちは騙されない。お前が俺たちをここに誘導したのだと。


「サーシャ、エルフたちが寝たばかりだ。声を荒げるのはやめておけ」


 そう言ったのは、サーシャの姿をしたデスタルトだ。


「馬鹿者、既に私が《音声遮断魔法ノイキャン》を張っているよ。あんたたちこそ、何の対策もしないでべらべらと私の悪口ばかり……」


 ……まさか、聞かれてたのか?


「やっぱり言ってたね……ただのブラフだよ。あんたたちの声を盗聴してるほど、私たちにも余裕は無かったからね」


「……してないですよ」


「言っておくけど、私なら数時間前までの音声は空気の流れを魔力に変える事で、すぐに再生可能だよ」


「そんなことより、話を本筋に」


 タルトは強引に話を変えようとしたが、それがアンカルディアのカンに触ったようだ。隠蔽魔法は解かれ、元の姿に戻された上で、全身の筋肉を断裂されてしまったようだ。その上でタルトの口元に、個別の《音声遮断魔法ノイキャン》を張り、叫び声を消し去った。


「久しぶりに筋力強化してあげるよ。回復はしてあげるけど、温厚な私もくそババア呼ばわりはちょっと腹が立ったから、少しだけ苦しんでおきな」


 苦しむタルトを尻目に、アンカルディアは微笑んだ。


「さて、何から話そうかね?」


☆★☆★☆★


「聖統主教会が暗躍している大国は、残すところエルフ王国のみなんだよ。獣人国は違法奴隷の一件から、人間国を完全に遮断しているし、フェアリーたちは姿を眩ませている。ドワーフも地下に篭りっ切りだからね。ルーシが死にかけの魔王国の方が危険度が高かったから優先したんだけど、エルフ王国も大概だったさね」


「サーシャの母親の件ですか?」


「そうさね。奴らはターニャの遺体を触媒にして、強制的にハイエルフを誕生させたんだよ……本来なら、サーシャにその資格があるんだけど、エルフ王国では、死の滝に飛び込んで死んだ事になっているからね……そこに目をつけたんだろう」


「私のせいなんです」


「いや、そうしていなければ英太がここにいる事はないし、フレイマや魔王国で起こった事が悪い方向に向かった可能性もあるさね。それは私にもわからないよ」


「その女王とは、接触したんですか?」


「いいや、まずは充分な下調べをしなきゃと思ってね……色々調べ回っていたら、女王から招待されたさね……明日の朝だよ……タイミングが良いのか悪いのか、アンタらまで来ちまったよ」


 絶対にベストタイミングだろうな。


「俺たちも一緒に……」


「いや、サーシャを連れて行くよ」


「でも、それが危険だから変身させてたんじゃ?」


「英太さん。エルフ王国の為なら、私が危険かどうかなんて関係ありません」


「いや、でも!」


「勝手に盛り上がりなさんな。盛り上がるなら熱烈なキスでも見せておくれよ」


 いや、だったら隠蔽魔法解けよ……いや、BL趣味なのか?


「安心しな、サーシャは連れて行かないよ」


「は? 今さっき連れて行くって……」


「ポンコツも偶には役に立たさね」


 アンカルディアはそう言って、タルトに回復魔法をかけた。音も立てずに魔力が浸透していく。そして、再び筋肉を断裂された。


「はい、もう一回! ちゃんと筋肉が成長しているよ」


 筋トレの強化版みたいなことか?


「……ちょっと可哀想じゃないですか?」


「元は弟子だからね。勝手に逃げ出した事も許してないよ……まぁ、死体ゴーレムの件で、ほんの少しだけ許したけどね」


「ほんの少し」


 タルト、命懸けで取り込まれてましたけど。


「タルトが変身したサーシャを連れて行くよ。タルトならちょっとやそっと危険な目に遭っても平気だしね」


「ダメです! タルトは魔王なんですから!」


 サーシャはアンカルディアにも食ってかかる。


「悪いようにはしないよ……私はね、勇者たちの中では一際ダーリャを気に入っていたんだよ。だからその孫サーシャも気にかけているし……娘のターニャを利用したのも許しがたいんだよ」


「……アンカルディアさん」


「アンカルディア、貴女はタルトの母親代わりでもあったんですよね?」


「可愛い子は谷底に落とさないとね」


「……で、女王と会って何を話すんですか?」


「ここからが本題さね。サーシャをエルフ王国の女王にするか、しないかの二択を迫るよ……その答え如何で進む道が決まる」


「教えてください」


「サーシャの口から言いな」


 アンカルディアに促されたサーシャが、俺を真っ直ぐ見据えた。


「私がエルフ王国の女王になった場合、英太さんとの婚約は破棄させて貰います……なれなかった場合は、デベロ・ドラゴに移住させて貰えないかと思っています」


 ……それは、残酷だな。


 サーシャには絶対にハイエルフの女王になって貰いたいが、婚約破棄か……


「サーシャ、大事な事が欠けているよ」


「私が女王になった場合、教会と繋がりを持つエルフたちを全て粛正します……女王になれなかった場合は……」


 サーシャは無表情のまま、涙を溢れさせた。R.I.Pの自己防衛効果なのだろう。


「サーシャ」


 俺にはサーシャの名を呼んで、手を取る事しか出来なかった。


 サーシャは頷いて、話を続けた。


「全てのエルフを天に返して、エルフ王国を消滅させます」


 『殲滅の厄災』


 ダーリャ・ブランシャールに刻まれた二つ名が、俺の脳内にこだましていた。


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