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第百九十一話 従魔の本懐

 妾たちが転移した先、第五区画の拠点近く……満月の夜には結界が緩み、エルフ王国から『死の滝の水』が流れ出るこの場所……


 つい先ほどまで、大量の水が流れておったのじゃろう。周囲は水浸しになっておった。現在は小指程の隙間から、ちょろちょろと水が流れ出ておる。


 その先からは禍々しい魔力が流れておった。


「魔力だよ。精霊力とは違う……エルフ王国に強力な魔物がいるんだよ?」


「もしかして、タルトかな? タルトならエルフ王国に居た事もあるから、転移魔法で移動出来る」


 ラブランが言った。


「だよ。エルフ王国には魔物を受け付けない結界が張られているんだよ」


「でも、タルトそのものが結界魔法のスペシャリストだよ。タルト以上に結界術を操れるのなんて、魔王デスルーシくらいのものじゃない?」


「それも重要だが、先ずはこのチャンスを逃さない事だ。マリヤ、ゴレア……この隙間を広げてくれ。ルーフ……通り抜けられるサイズになったら、その瞬間に……ルーフ……おい、どうしたんだよ!?」


 ギルマスが騒ぐのも無理は無い。目の前にいるルーフは虫の息なのじゃ。


「おい、ルーフ! ……グゥイン、こりゃなんなんだ?」


「彼奴のユニークスキルの効果じゃろう。安心せよ……ルーフの魂は既にエルフ王国に侵入したようじゃ」


「……魂?」


 ギルマス達が呆気に取られる中、結界は音も立てずに閉じて行った。


☆★☆★☆★


 妾はルーフのユニークスキルについて、簡単に説明をした。魂と肉体を分離し、霊体となって行動出来るというものじゃ。


 ギルマスは、ルーフの『肉体』が瀕死の状態となっていることに疑問を抱いているようじゃが、特に質問をしてこなかった。


 ユニークスキルの特性を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反であるし、マリヤやゴレアの前という事もあるのじゃろう。


 妾たちは、第五区画に発生した魔素の原因を探る事にした。


 それは、すぐに見つかった。数十本の瓶が見つかり、その中のひとつの封が開いておった。


「この中に、大量の魔素が詰まっていたみたいだな」


「だよ……この魔素……感じた事が無いくらいの強力なものだよ……」


「この瓶、美しさも丈夫さも桁違いですよ。とてつもない錬成技術ですね」


 マリィが言った。となると……作成者は一人しかおらぬじゃろう。


「きっと英太が創造クリエイトしたものじゃろう……魔王国からの移動が出来なかった故に、魔素だけでも届けようとしたのじゃ」


「確かに、英太が作ったみたいだ。魔素を詰め込んだ瓶で、開封して空気に溶け込ませるか、大地に差し込んで地面に吸収させるらしい。だとすると、第二区画の地面に差し込んだ方がいいかもな」


 ギルマスは鑑定魔法で瓶の詳細を確認したようじゃった。便利な魔法じゃ。


「って事は、英太もエルフ王国にいるのかな?」


「英太さんがいるなら安心ですよね?」


「いや……だったら手紙と一緒に第二区画から送ればいいだろ? きっと別の誰かだ……グゥイン、あの強力な魔素……俺には心当たりがある」


「はいっ! フレイマの魔物たちと似てた! それを濃くした感じ! きっと魔王デスルーシの魔素だよ!」


 ギルマスが言おうとしていた事を、マリヤが代弁した。


「魔王デスルーシがエルフ王国に?」


 アドちゃんの表情が引き締まる。


「魔王デスルーシは不可侵を守り続けていた。フレイマの一件まで、魔王国を出たって話は一度たりとも聞いた事無いけどな」


「うん。僕も聞いていないんだよ。魔王デスルーシがエルフ王国に入るのは、これが初めてだと思うよ」


「アドちゃんよ、これまでのタイムリープでもそうなのか?」


「1回もないよ。13回目の時もエルフ王国にやって来たのは、サーシャ1人だったんだよ」


「状況が違い過ぎるな……魔王との戦いになったとしたら……まぁ、ルーフがいれば大丈夫か?」


「そもそも英太さんたちと魔王が戦いになるとしたら、魔王国で戦っているだろうし……」


「デスルーシはサーシャを傷付けないよ。僕はデスルーシの事が大嫌いだけど、それだけは信用しているよ」


「ここで考えておっても答えは出ぬ。魔素の入った瓶を大地に差し込むのじゃ。第二区画へ向かおうぞ」


 ギルマスの提案で、魔素の入った瓶の回収漏らしが無いかを確認する為に、もう一度周囲を見回る事にした。


 妾はというと……ルーフのことを考えておった。


☆★☆★☆★


「魂の速度を上げる能力とな?」


「そうだ! 我のユニークスキルは、くそババアの実験で植え付けられた『死を近付ける』為のくそっタレスキルなのだ!」


「なんとも……酷い奴じゃのぅ……」


「いや、我も納得の上でのことだ! 対価としてレベル上限を解放して貰った! それのおかげでユニークスキルも進化した!」


「ユニークスキルの進化?」


「ああ! 魂の速度を上げるのではなく、魂の処理速度を上げる事が出来るようになったのだ! それによって、肉体と魂を分離させる事が可能となった!」


「分離した魂のみで結界を抜けるということか?」


「うむ! とは言っても、針を通せるくらいの穴は必要だろうがな!」


「やはり、マリヤたち次第ということか」


「難易度は格段に下がったと言えるだろう。但し、問題もある」


「なんじゃ?」


「まず、魂と肉体の分離により、力も分離してしまうのだ」


「半分ずつになるということか? 其方程の能力ならば、それでも充分であろう」


「グゥインに言われるのは光栄だなっ! しかし、そう単純なものではない! 肉体から完全に魂を抜いてしまうと、我は死んでしまうのだ! 故に2割は魂を残さねばならぬ! という事は……エルフ王国に向かう力はいくつになる!?」


 ぐぬっ……計算か……ぐぬぬっ……


「5に2を足す故に、7じゃろう……引き算して……3じゃ!」


「魂の8割だからな! 全体でいうと4になる! やはりマリヤが言っていた通り、計算は苦手なようだな!」


「マリヤの奴め……余計な事を……」


「魂は肉体から離れれば離れる程に消耗するのだ! よって、我の魂はユニークスキル発動から一定の時間で消滅するっ!」


「肉体に残しておいた魂があるじゃろう? それはどうなるのじゃ?」


「それは、あくまでも肉体が死に至らない為の措置のようなものだ! 分離した魂が消滅するのと同じくして、肉体に残された魂も力を失うだろう!」


「試した事があるのか?」


「いや、全てはくそババアの受け売りだっ! あいつはくそだが、正しい事しか言わないからな!」


「それは、どれくらいの期間なのじゃ?」


「やってみなければわからない! 短くても24時間は待つ! 長ければ1週間程だろうな!」


「ルーフ、それは……激しい戦闘を行っても変わらぬのか?」


「やはりグゥインは騙せぬな! そうだ! 全力で戦えば1時間と持たないっ!」


「やはりな」


「サーシャの為に死ねるなら、それは従魔の本懐であるっ!」


「……妾は其方にも死んで欲しくないぞ」


「安心せよ! 我が全力で戦わねばならぬのは世界でグゥインただ一人であろう! 最小限の力で、サーシャを守り抜いてみせるっ!」


「そうじゃな。そもそも、サーシャがエルフ王国に向かった理由もわからぬし、アドちゃんがタイムリープで見たサーシャが、エルフたちを殲滅した理由もわからぬ……ただの里帰りであって欲しいものじゃ」


「そうだな! 我もそれを願うっ!」


 妾の言葉に、ルーフの魔力が揺れるのがわかった。


☆★☆★☆★


 彼奴は何かを隠しておった……それはきっと……サーシャがエルフ王国を殲滅する理由じゃろう……


 そうなる未来が正しいものなのか……


 そうなる未来を防ぐべきなのか……


 妾には判断出来る事ではなかった……


 妾に出来る事は、皆を信じる事以外に無かった……

第6章は『デベロ・ドラゴのグゥイン視点』と『エルフ王国の英太視点』で進んで行きます。


第6章もよろしくお願いします。


しばいぬ

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