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第百九十話 最強の少女たち

 ギルマス一家がダンジョンに入ってから、丸一日が経過した。


 魔素の消費量がどう影響するかわからぬ故、妾とアドちゃんはダンジョンに入るのを自重した。


 オークのラブランは、家畜の飼育担当のアイラと、妊娠中のリーナの世話をするリンガーの分までダンジョンに出入りして、一家のサポートをしておった。


 ルーフは一人、自らの肉体と魂に向き合っておった。


 予定では一日で出てくる筈じゃったが……ギルマス一家は現れなかった。落ち着かない様子のアドちゃんを宥めながら、妾たちはじっと一家が出てくるのを待った。


 一家が帰還したのは、それから半日後の事じゃった。


「あー! グゥイン! 久しぶりー!」


 マリヤが無邪気に手を振った。


「妾にとっては昨日ぶりじゃがの……マリヤ、少し大きくなったのではないか?」


 時の流れる速度が違っているのは本当のようじゃ。


「そうみたい。もうすぐグゥインを抜いちゃうね」


「全く生意気な奴じゃ……それで、成果の程は?」


 妾の問いに、ギルマスは頬を掻いた。


「二人とも結界術は使いこなせるようになったよ。ただし、死の大地に張られた結界をどうこう出来るかは、やってみないとわからないがな」


「うむ……では早速試してみるとしようぞ。向かうのは第一区画で良いか?」


 直接エルフ王国に向かいたいのは山々じゃが、結界の耐性を考えると、遠回りするのが無難じゃろう。


「いや、その前に、誰がエルフ王国に向かうのかを決めよう」


「そうか……そうじゃの」


 例によって、妾は外の世界に出る事が出来ない。死の大地と契約をしているアドちゃんも同様じゃ。


「我が向かう!」


 名乗り出たのはルーフじゃった。此奴がおれば一人でエルフ王国を掌握出来るであろう。


「それは分かりきってたんだが、他に誰が向かうかって事なんだが……」


「みんなで話し合ったんだけど、私たち家族はデベロ・ドラゴに残ろうと思うの」


 ギルマスとマリィは申し訳無さそうに言った。立ち位置からして、『家族』の枠組みの中にゴレアも含まれているようじゃった。


「其方らに強要は出来ぬ……それに、ルーフだけでも過剰戦力じゃ」


「うむ! 我だけでも充分だ! 不安材料があるとすれば隷属魔法の類だが、ギルマスたちが参加しても憂いが無くなる訳ではない!」


「一応、俺は行けるんだけど……」


 ラブランは自信なさげに手を挙げた。力不足であると思っているのじゃろう。


「サーシャを護る盾は必要じゃ。其方にも期待しているぞ」


「ラブランの心意気は嬉しいが、結界が通り抜けられる状態になるかどうかが疑問だ。この結界は、くそババア級の圧倒的な術者が、何らかの誓約を課した上で成り立たせているものだからな。如何に勇者マリヤ様でも、容易には干渉出来ないだろう」


「やってやるわっ! ね、ゴレア!」


「うん! 私たちは最強だもんね!」


 少女と少女ゴーレムが肩を組んだ。最強なのは妾じゃが、今日のところは大目に見てやろう。


「うむ。二人に期待していない訳では無いのだ。実際、針の穴程のサイズでも構わないから、穴を開けて欲しい」


「でもそれだとルーフも通れないだろう?」


 そうなのじゃ。結界の隙間を通り抜けるには、物理的に人が通れるだけの広さを必要とする。ルーフから事前に聞かされていなければ、妾もそう思ったじゃろう。


「大丈夫だっ! 我は神獣だからなっ!」


☆★☆★☆★


 妾たちが向かったのは、人間国と繋がる第一区画でも、エルフ王国と繋がる第五区画でもなく、第四区画じゃった。


 既にゴーレムたちの手によって、結界の隙間が発生する地点には関所が建設されておった。


 隙間の発生地点はわかる。しかし、当然ながら現在は隙間は存在しない。


「ルーフよ、本当にここで良いのか?」


「うむ! 満月の夜に感じ取った。ここからもエルフの発する精霊力を強く感じた。きっとこの場所は、エルフ王国と隣接するドワーフ王国と繋がっている筈だ!」


「ドワーフ王国……確かに隣り合わせではあるよ。不可侵だから、国交は殆ど無かったけどね」


 アドちゃんが言った。


「ほとんど、という事は少しはあったのか?」


「ドワーフ王はダーリャの事が好きだったからね。変装して、お忍びでやって来てたんだよ。相手にはされてなかったけどね」


「なるほど……では、国と国を行き来する手段は存在するということか」


「今はそこにも結界はあるんだよ。ダーリャが亡くなって、後を追うようにドワーフ王も亡くなったんだよ。そこからは誰も行き来してないよ」


「大丈夫だっ! 通常の結界なら我が何とかするっ!」


 ルーフは高らかに吠えた。それに呼応するように、見送りの老ウルフたちも雄叫びをあげる。



「マリヤ、ゴレア、頼むぞ!」


 妾の声を聞いた二人は、手を繋いで結界のへりに魔力の道筋を作り出した。そして、詠唱を始める。


永き眠りを守りし鍵よ……

いま、我が声に応えよ……


島を覆う六つの星よ……封印よいま解かれん……


我が血を供物とし……

この叫びを礎として……

禁じられし扉の縁に、かすかな亀裂を刻まん!


裂けろ……! 避けろ……!


破封解律式はふうかいりつしき! 今ここに発動せよ!


 二人の身体から、膨大な魔力が注がれて行く。それは結界に近づくにつれて、細く、小さくなって行く。全ての魔力を一点に集中して、最大限の効果を生み出しておるのじゃろう。


 結界に歪みが生じては、修繕する。一進一退の状態が続いたが、やがてマリヤとゴレアの魔力が尽きた。


 結界の隙間は発生出来なんだ。


「パパ、ポーションちょうだい」


「駄目だ。これ以上はやめておけ」


 マリヤの要求を、ギルマスが突っぱねた。


「やだ! 私たちなら出来るもん!」


「私もそう思う。それに、このままじゃエルフ王国に行けるのは一ヶ月後になっちゃうよ」


 ゴレアも続いたが、ギルマスは首を縦に振らない。


「ギルマスよ、結界に変化は無いのか? 穴は開かずとも、薄まったり、弱まったりはしておらぬのか?」


「……変わりないと思う。くそっ……もう一度だけだぞ!」


 ギルマスはマジックバックから妾の尻尾肉入りポーションを取り出した。マリヤとゴレアがそれを飲み込むと同時に、二つの魔力が爆ぜた。


 それは、マリヤとゴレアのものではなかった。


 ひとつはルーフの魔力……結界の隙間が発生する可能性を信じて、ユニークスキルを発動したようじゃった。


 そしてもうひとつは……第五区画から発されていた。


「グゥイン、第五区画からすげー魔力が流れて来るぞ」


「……魔力もそうじゃが……これは、魔素ではないか?」


「だよっ!? とにかく向かうんだよ!」


 妾たちはギルマスに掴まり、一斉に第五区画へと転移をした。


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