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第百八十九話 黒竜を討伐せし者

 マリィとギルマスは、アドちゃんが目にした者が誰であるかを確信したようじゃった。


 かくいう妾も阿呆ではない。二人が言葉を失うほどの人物となれば、もう彼奴しかおるまい。


「どうやら、グゥインを討ったのは成長したマリヤのようだな!」


 ルーフは得意げに語っておったが、この場にそれに気づいておらぬ者などおるまい。


「だよっ!? あれ……マリヤなんだよ?」


 ……おった。


 今の此奴はサーシャの事で頭がいっぱいじゃろうから仕方あるまい。


「確証は無いが、可能性は高いだろうな……その辺は、また別のタイミングで話し合おう……今現在、人間国にマリヤが居ないってだけでも運が良い」


 ギルマスは冷静を装っている。妾の目にはそう映っていた。その点では、妻のマリィの方が肝が据わっておるようじゃ。


「そうですね。少なくとも、人間国がデベロ・ドラゴを襲うのは10年先になる……って事ですからね」


「……だよ。13回目までの事はわからないから、なんとも言えないけど、14回目以降ではあの時だけだったんだよ」


「15回目の時だけ人間国がデベロ・ドラゴにやって来たのか……その時だけ何か違う行動をしていたからそうなったのか? 何か覚えてはおらぬのか?」


「うーん……」


 アドちゃんは眉間に皺を寄せながら唸り続けた。


「もしかしたら、サーシャ嬢が死の大地に足を踏み入れる前の出来事によって影響が出たのかもしれない」


 そう言ったのはギルマスじゃ。


「どういうことじゃ?」


「俺も良くわからねぇけどさ、アドちゃんが過去に戻った瞬間……戻る場所? 時間か? それはサーシャ嬢が生まれる瞬間なんだろ? そこから330年の間に起こった事が、少しずつ間接的に人間国に影響を与えたのかもしれないって事だよ……」


「つまりは……どういうことじゃ?」


「だから……アドちゃんはサーシャ嬢が死なない未来を作る為に、色々してたんだろ? その色々の中のどれかが、別の何かに影響して、それがまた別の何かに影響して……ってのを繰り返すうちに、人間国にまで伝わって行った……そんで、死の大地に騎士団が向かう事になったんじゃねぇかってことだよ」


「ギルマス、やはり其方は見た目とは違って賢いのぅ」


「ありがとよ! つまり、アドちゃんが意図してない部分で運命を変えたのなら、調べるのは不可能に近い。好意的に考えてもかなりの時間を要する……って事になる。考えるのは当面の問題……サーシャ嬢を無事に保護してからだ」


「うむ、あいわかった!」


「という事だ。アドちゃん、サーシャ嬢がエルフ王国に戻った時……13回目のタイムリープに関して、詳しく説明してくれ」


「……待って。その前に、ここからエルフ王国に向かう方法を探さなきゃならない」


「いきなり難題だな。一番手っ取り早いのは、第五区画にある結界の隙間から向かう事だが……」


「ダメなんだよ。結界の隙間は完全に閉じているし、第五区画の結界は、エルフ王国からデベロ・ドラゴへの侵入が容易い代わりに、デベロ・ドラゴからの侵入を防ぐ力が強いんだよ」


 アドちゃんは前にも同じ様な事を言っておった。何故此奴はそんな事を知っておるのじゃろう?


「……エルフ王国以外の結界を通り抜けて、エルフ王国に向かうしかないか」


 ギルマスはそう言ったが、それが出来るならば苦労はしない。そもそも、全ての区画の結界の隙間が閉じている。


「その様な事が可能なのか?」


「今から結界魔法を習得するしかねぇな。幸か不幸かルウィネスから大量の魔導書を仕入れたばかりだ」


「結界魔法を習得する……確かにその手があるか」


「あなたもグゥインちゃんも、簡単な事じゃないですよ」


「しかし、すぐにでも向かいたいぞ! 結界魔法の習得まで何日かかるんだ?」


「早くて一年……才覚が無ければ努力したって覚える事は出来ない」


「1年?」


「あぁ、大丈夫だ。ダンジョンの設定を弄れば外の世界との時間経過を変える事が出来る。最大で1年を1日で消化出来る」


「よし、そうであれば、妾が覚えててみせようぞ」


「駄目だ」


「どうしてじゃ?」


「そもそも、この結界はグゥインを閉じ込める事に特化してるんだよ。グゥインが干渉する事は避けたい」


 正論じゃった。この件に関して、妾はあまりにも魔力じゃ。


「では、誰が覚えるのじゃ?」


「それは今から決める……デベロ・ドラゴの住人全員を集めてくれ」


☆★☆★☆★


 ギルマスはゴーレムを含めた全国民の能力を鑑定魔法で調べて行った。


 驚くべき事に、ゴーレムたちの中にも結界魔法の適正を持つ者は存在した。しかし、デベロ・ドラゴを包む結界に影響を与えられるレベルの者は誰一人としておらなんだ。


 皮肉にも、唯一可能性がある者は、全てにおいて真っさらな存在……ギルマスやマリィが、最も鍛え上げたく無い者じゃった。


「俺とマリィで、マリヤとゴレアに結界魔法の指導をする」


 唯一可能性を見出せたのはマリヤであり、ゴレアの適正は高いとは言えなかった。しかし、ギルマスはマリヤとゴレアに存在する繋がりに可能性を見出したようじゃ。


 ギルマスとマリィはデベロ・ドラゴだけでなく、人間国においても上澄みの存在じゃろう。しかし、その二人を待ってしても、自信が習得していない魔法の指導は並大抵では無い。


 そんな両親の想いを知らずに、マリヤとゴレアは合宿気分でウキウキしておった。特に、ダンジョンを出禁になっておったマリヤはニヤニヤが止まらぬ様子じゃ。


 嗜めるのは、国王の仕事じゃろう。


「マリヤ、ゴレア、其方らに結界魔法を教えるのは、妾たちにとっては苦肉の策なのじゃ……本来ならば、幼い其方らに無理を強いる事はしたくはない。しかし、今回ばかりは事情が事情じゃ……ギルマスもマリィも同じ気持ちなのじゃ……其方らの肩ににサーシャの命が乗っている……遊び気分ではなく、真剣に取り組んで貰わねばならぬぞ」


 妾の真剣な問いかけに、マリヤはため息を吐いた。


「グゥイン、子供だと思って勇者マリヤを舐めないでよ。遊び気分な訳無いじゃない。どんな困難だって乗り越えてみせるよ」


「それは済まなんだ……あいわかった」


 勇者マリヤか……冗談の様に語っておったが、その通りなのかもしれぬ。


 アドちゃんが経験したタイムリープ……妾を討伐する為にデベロ・ドラゴにやって来たマリヤの肩書きは、やはり『勇者』だったのじゃろうな。


 妾たちは、ダンジョンに入るギルマス一家を見守るしかなかった。


 4人を見送ったのち、妾の元にルーフがやって来た。


「グゥイン、話がある」


「なんじゃ?」


「マリヤとゴレアは時間さえかければ、結界魔法を習得出来るだろう。しかし、死の大地を覆う結界魔法に干渉出来る可能性は限りなく薄い」


「そうだとしても、信じてやらねばならぬ」


「精神論ではない。全世界の上澄み中の上澄みが、なんらかの誓約を課して成立させた結界なのだ……才能があったとしても、あの幼な子たちには荷が重い……何よりもっ! ……我はサーシャの命を救う為事だけを考えている」


「うむ、で……何か策があるのか?」


「少々危険な賭けではあるがな」


「言うてみろ」


 ルーフが口にした『策』は、ルーフにとって、命を懸けるもので間違いなかった。


「ルーフよ……其方はそれで構わぬのか?」


「ふん! サーシャの為に命を懸けられるのだ! これ以上の幸せなど存在しないっ!」


 淀みのない言葉に、流石の妾も気圧されてしまった。


 そして確信する。


 命に変えても、ルーフがサーシャを死なせはしないと。

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