第十九話 ドラゴン、姉になる
グウィンたちと別行動をすることになった俺は、創造と鑑定を繰り返す事にした。
クリエイトのスキルレベルが上がれば、やれる事は確実に増える。そして今、明確に必要としているのは、『鑑定』のスキルアップだ。
『死の滝の水』をもっと詳しく鑑定したい。スキルレベルが上がれば、水の中にいた目視出来ない死骸が何の死骸だったのか、死亡した理由までわかるかもしれない。
俺は作業用ゴーレムたちのパーツを強化して、全員の能力をリーダーゴーレムのゴレンヌと同等まで引き上げた。そして全員を鑑定する。
グウィンに名付けられていなかった可哀想なゴーレム達にも名前を付けてやった。ゴレゾーやゴレスケなど、男の子っぽい名前にした。
今はまだ国を作る為の作業員としての役割しかない。しかしいずれは、国を守る為のガーディアンになって欲しい。創造と土魔法のスキルがもう一段階アップしたら、核以外のパーツを再構築するのもアリかもしれない。
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それから一週間が経過した。俺は順調にスキルレベルを一段階上げる事に成功した。見よう見まねの生活魔法もレベル2となった。
特訓の成果も虚しく、サーシャのスキルレベルは上がっていない。
グウィン曰く、隠蔽魔法に関しては、使えてもおかしくないはずだが、何故か発動しないという事だった。メンタル面の影響だろうか?
しかし、サーシャは俺たちに慣れてきて、溶け込み始めていた。
最初はグウィンに怯えていたサーシャも、今ではグウィンと姉妹のような関係を築いている。
グウィンが姉で、サーシャが妹だ。年齢的には2025歳と329歳で当然と言えば当然だが、外見は小学生女児とハイブランドのモデルだから違和感はある。調子に乗った天才子役とモデル出身の新人女優の関係性と言ったところか?
そんなサーシャは、俺やゴーレムたちの王国作りも手伝いたいと言いだした。
とは言っても、ゴーレムたちのような力作業をさせる訳にはいかないし、俺のように創造が出来る訳でもない。
サーシャが立候補したのは、ゴーレムたちの原動力である核への魔力充填だった。
グウィンなら小一時間で全員に魔力を送り込める。俺も干し肉を頬張りながらであれば、さほど変わらぬ時間で充填出来る。サーシャだと一日一体が限界だ。
「魔力を使い切る事が大事なんです!」
サーシャはそう言っていた。限界まで魔力を使うと、MPの上限や魔力の消費効率に影響するらしい。
「俺もそうなのかな? 実感ないんだけど……エルフだけとか?」
「はい……エルフは少なくともそうです。私もそうだと信じています」
「お婆ちゃんの知恵袋的なやつかな?」
サーシャは驚いたような顔を見せた。
「そうです。祖母から聞きました。どうしてわかったんですか?」
「そう、あ、たまたまだよ」
サーシャは動揺を隠せないようだった。この世界にはお婆ちゃんの知恵袋という概念は無いみたいだな。何の気無しにした発言が、たまたま当たっただけなのに申し訳ない。
「そうだ……サーシャに聞きたい事があったんだ」
「なんですか?」
「カボレナガス、ミツメナガス、サシダ……って何の事かな? 『死の滝の水』を鑑定したら出て来たんだ」
「カボレナガスとミツメナガスは魚です。サシダは……目に見えないくらいの小さな生き物で、魚たちの食料ですかね?」
「エルフの国の魚たちってこと?」
サシダはプランクトンに近いのかな?
「うーん、エルフの国だけに生息するのかは、わからないですけど、エルフの国では珍しくない川魚です」
「そっか、ありがとう!」
「魚たちはどうしたんですか?」
「ああ、見つけた時には死んでいたんだ。もう姿形も無くなってた」
鑑定スキルで調べた時には「死骸」と記載されていた。死因についてはまだわかっていない。
「そうですか。カボレナガスは毒があるので、適切な処理をしないと食べられないです。私が処理しますから、処理せず食べちゃダメですよ」
「了解!」
うん、危うかった。あの時見つけてたら絶対食べてたよな。でも、生きてたら鑑定スキルで毒を感知出来てたか?
「私、役に立てましたか?」
覗き込むように見つめるサーシャの顔に胸が高鳴った。この顔面は攻撃力が高過ぎる。
「あ、うん……もちろんだよ」
何か話さねば……と、考える。考えるほど何も思いつかない。エルフの共通設定ってどんなのがあったっけ? と考えていたら、アレの事を思い出した。
「《創造》」
おお、ちゃんとしなる……土で弦まで作れるなんて、創造最高だな。
「サーシャ、これを使ってみる?」
俺が弓矢を手渡すと、サーシャは目を輝かせた。
「わあ、すごいです! これ、私でも使えますか?」
「もちろん。島に獣が生まれたら、サーシャに狩りをしてもらわないとね」
「狩り! やります! やってみたいです!!」
「よし、的も作ったから、まずは練習だ」
「お任せください!」
笑顔で弓を掲げるサーシャ。その姿に惚けている自分に気がついた。
弓矢を持つ姿は可愛らしくて様になっている。しかし弓を構えると急激にぎこちなくなった。弓に持たれているというか……下手くそと非力が一目見てわかる。矢を引き絞る手がプルプル震えている。
「そ、それっ!」
放たれた矢は見事に的を外した。というか、上空へと飛んでいった。狙い澄ましたかのように飛行して来たグウィンにコツンと当たって、矢は落下した。
「妾を狙うとは勇気があるな……」
暗黒竜の佇まいで死の大地に降り立ったグウィンが、じとっとサーシャを睨む。
「ち、違います! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
サーシャは矢を投げ出して土下座しそうな勢いで謝り倒した。
「弓は苦手そうだね。なにか他の仕事を考えるか」
「いえ! まだやります! 私、絶対に役に立ちたいんです!」
その後もサーシャの努力は続いたが、結果的に矢が的に当たることはなかった。
「どれ、妾に貸してみろ」
グウィンがサーシャから弓矢を奪った。
「少し大きいな。サーシャの体躯に合っておらぬから、あのような無様な結果になるのじゃ」
外見小学生め……お前の方が小さい癖に、何を偉そうな事を……
ブラドラ姉さんが弓を引いたが、当然のように弓は大破した。拗ねた姉さんは、スキル名『煉獄の炎』を矢のようにぶっ放し、跡形もなく的を大破していた。
「凄いです! グウィンさん!」
弓矢と的をぶち壊した姉に対して、的外れな賛辞を送る妹。
「サーシャよ! 風呂に入るぞ妾が直々に風呂を沸かしてやろう!」
「ありがとうございます! 浄化魔法でお背中流します!」
まあ、結果として楽しそうなら問題ないな。
「英太も一緒に入るか? 穴が開くほど見ていたサーシャの乳の全容が知れるぞ」
「グウィンさん! はしたないです!」
「入らないよ! ってか見てないし!」
あんまり見てはいない。そんなに見てはいない。
「そうか、ではサーシャよ、英太には内緒の話をしようぞ!」
「はい! ガールズトークですね!」
名誉を毀損されてはいるが、楽しそうなら……良いとしよう!
国の成長だけではなく、何気ない日常にも彩りが増えてきた。デベロ・ドラゴはほんの少し国家に近づいている……と思う。




