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幕間 タルト・ナービスの冒険 中編

 晴れて冒険者パーティーとなった俺たちは『紅蓮の牙』を名乗ることにした。


 『紅蓮』は俺が身に纏っている炎を連想させる鎧から取った。


 ……と、いうのは本当だが、何処か本来の姿……魔物の姿をしたハルフ王子の肌の色を意識している。


 それと同様に、『牙』は魔物から連想している。


 ラブラン、リンガー、アイラ。人の姿をしているが、本来は『低級魔物』に分類される者たちだ。


 力で彼らを値踏みする事などしない。


 だが、埋まらない差は確かに存在していた。旅を共にし、同じ敵と戦い、同じ鍋を囲み、彼らは確実に成長した。


 しかし、俺たちの間にある力の差は、日を追うごとに広がっていった。


 理由は明白だ。俺の中に流れる血、個体としての強度……忌まわしい魔王の血は、俺をどんどん強くしていく。


 どれだけ姿を変えようと、血の匂いは隠せないのだ。


 家族、そう思っていた。


 『紅蓮の牙』だけではない。


 孤児院で保護した魔物たち、他種族の奴隷や人間の子供達だってそうだ。


 しかし俺は、彼らを「家族」とは呼べずにいた。


 ……心のどこかで、俺はいつも彼らと線を引いていた。


 『紅蓮の牙』として、ダンジョンの深層階を次々と攻略していった。


 いつしか俺は、底辺からのし上がった叩き上げの冒険者として名声を得ていた。力不足の仲間たちを活かして戦う様は、多くの冒険者から賞賛された。


 七大国の全てに孤児院を設立していたのも功を奏した。一つの国の権力者に囲われる事なく、良い距離感を保つことが出来たのだ。


 俺は知らぬ間に、偽りの姿で人間の国の英雄になっていた。


 冒険者、『タルト・ナービス』の名は、人々の希望と呼ばれる事すらあった。


 魔族である自分が、人間社会の英雄か……


 血に抗いながら、血の力で築き上げる……矛盾に満ちた生き方。


 けれど、それ以外に進む道はなかった。


 噂は充分広がった筈なのに、大魔導師アンカルディアは、不思議と俺の前には現れなかった。


☆★☆★☆★


「タルト、本当にやるの?」


「ああ、決めた」


 俺がやろうとしていたのは、魔物を含めた他種族を奴隷とする組織の壊滅だ。


 各地に点在する野盗が、その組織を通して貴族に奴隷を流している。その尻尾を掴んで断罪するのだ。


「でもさ、絶対に貴族様が絡んでるよ」


「だから、お前らとはもう旅は出来ない」


「……え?」


 表情を強張らせるアイラとリンガーを尻目に、ラブランは落ち着き払った態度を見せている。


「俺たちを殺す気なんだね」


 なんて勘のいい奴なんだ……しかし……


「半分は正解だ。俺以外の『紅蓮の牙』の三人は、次に挑戦するダンジョンで、非業の死を遂げる……実際は、バスクチ村から移住して来た家族として、辺境の街で暮らす事になる」


「そんなの嫌だよ」


 いつも気の強いアイラは、瞬間で涙を溜めた。


「すまないが、俺一人なら上手く立ち回れる……お前たちは足手纏いなんだよ」


「タルト! 私は納得しないよ!」


 食い下がるアイラをリンガーがそっと抱きしめた。貴族の戯れで聖属性魔法を覚えさせられたコボルトの少女……リンガーは僧侶に相応しく、優しくて強い子だ。


「今とは違う、新しい身体にしてやる……」


 俺はそう言って、三人にかけた隠蔽魔法を解いた……筈だった。


「……は?」


「どうしたの?」


「……隠蔽魔法が解けない」


 そんな事はない。今までは簡単に解けた。何でなんだ?


「タルト?」


「……ちょっと疲れたんだな。また今度にしようか……時間はたっぷりある」


☆★☆★☆★


 隠蔽魔法がもたらす効果について、俺は知識不足だったようだ。長い間同じ姿にしておく事で、姿が定着してしまうという。


 特殊な方法での隠蔽魔法では、通常の隠蔽魔法よりも、その効果が顕著に現れるらしい。


 俺が得意とする「結界術」を使用する隠蔽魔法がその代表例だった、


 アンカルディアのくそババアめ……教えておけよ。


 俺のプランは消滅した。紅蓮の牙の三人を元の姿に戻してやる事は出来ない。結界魔法で新たな外見を作ってやる事もだ。


 問題は、それだけではなかった。


 隠蔽魔法による外見の変化で、姿を定着させた者に対する肉体的な負担だ。


 魔王の血を引く俺の肉体ならばともかく、低級の魔物である三人は、変化と定着に適応し切れないのだ。


 それはつまり、死を意味する。


「死ぬまで一緒に冒険をしていたい」


 そんな事を口にするリンガーを突き放す事など出来はしなかった。


 一縷の望みに託して、三人のレベルを高める事に専念した。


 低級魔物の特性通り、一つレベルを上げる為にも膨大な経験値を必要とした。


 もっと効率の良い狩り場は無いだろうか?


 王国の管理下に無いダンジョンは?


 そんなある日、信じられない事件が起こった。人間国の七大国がひとつ、フレイマが爆裂魔法によって消滅したのだ。


 フレイマを消滅させたのは、魔王デスルーシだった。


 勇者グレアルを阻止する為だと聞いたが、原因など関係ない。フレイマで運営していた俺の孤児院は、魔王デスルーシの攻撃により、跡形もなく消え去った。


 俺を捨てた父親は、俺の家族たちを皆殺しにしたのだ。


 しかし……皮肉にもその爆破のお陰で、ラブラン、リンガー、アイラの三人に、生存の可能性が芽生えた。


 魔王の放出した魔素のせいで、フレイマ跡地に新たなダンジョンが産まれたのだ。


 俺たちがその事を知ったのは、あの爆破から二年以上が経過してからだった。


 既にダンジョンに挑戦する冒険者も居たが、それはごく一部に限られていた。


 荒くれ者の冒険者が殺到するのを管理する為に、ギルドマスターが情報統制をしていたのだ。


 俺はそのギルドマスターに疑いの目を向けた。


 かつて、勇者グレアルと共に冒険者パーティーを組んでいた、元S級冒険者のショウグン・トクガワだ。


 その妻は、かつて『大聖女』と呼ばれたマリィ・トクガワ……フレイマの孤児院・タタンに経済的援助をしてくれた人物だった。


 この二年の間の調べで、違法奴隷の売買を取り仕切っているのが、聖統主教会である可能性が強まった。なかなか尻尾を掴めないのは、その中心となっているのが、教会を抜けた人物であるから……


 俺はそう踏んでいる。


 証拠は無いが、辻褄は合う。奴隷売買の大元となり得る人物……それは、マリィ・トクガワだ。


 それを探る為に……同時にダンジョンを攻略する為に……俺たちは、アラミナの街に拠点を移すこととなった。


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