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第百八十六話 魔王出陣

 息も切れ切れのデスタルトが、膝をついて頭を下げた。


「すまん……全部俺の力不足だ」


「いや、就任早々に無理をさせてしまった。聖統主教会の事もあったのに、こちらこそすまない」


「プラスに考えましょう。これで私たちも一緒に教会の処理を出来ます」ゴレミが胸を叩いた。


「ってか、マー君は何処に行ったんですかね? デスタルトに断りなく、人間国との結界を破棄したとか?」ゴレオが言った。


「……まさか!?」


「ご安心ください。人間国との間にある結界はそのままです」


 焦るデスタルトをバルゼが静止した。


「……じゃあ、何処に行ったんでしょうか?」


「デスタルトに言えない場所に向かったのか?」


「でも、私たちにまで嘘を吐く必要はありますか?」


「……もしかしたら、攫われたのかもしれないっすね!」


 ゴレオの言葉に一同が凍りついた。攫われた可能性……僅かではあるが、あり得ない話ではない。


「ご心配無用です。マー君は英太様からお預かりした魔晶瓶をデベロ・ドラゴに送る為に旅立たれました」


 バルゼは何かしら知っている様だった。


「バルゼ、王命だ。知っている事を全て話せ」


「私も詳しくは聞かされておりません。しかし、向かった先には心当たりが御座います」


「人間国じゃないんだろ?」


「はい。おそらくですが、人間国と魔王国以外に発生している結界の隙間から、魔晶瓶を届けようとしているのだと思われます」


「人間国と魔王国以外って……」


 真っ先に思いつくのは、エルフ王国だった。


「エルフ王国、獣人国、ドワーフ王国、フェアリー国……そのいずれかではないかと思われます」


「マー君は何処に?」


「そこまでは分かりかねます」


「十中八九、エルフ王国だ」


 デスタルトは断言した。


「俺もそう思う」


「英太さま、今すぐエルフ王国に向かいましょう。ドラゴン形態に変化すれば、空路から向かう事も出来ます」


「駄目だ。エルフ王国にも国を護る為の結界が張られている」


 ゴレミの提案は、デスタルトによって却下された。


「それは魔王デスタルトでも破棄出来ないものですか?」


「ゴレミ、デスタルトは一国の王だ。聖統主教会の件が片付かないまま、国を空ける訳にはいかないだろう」


「転移魔法で私たちを置いて、戻ってくれば良いと存じます」


「確かにそうだが、結界の破棄に時間がかかるだろう」


「アンカルディアやサーシャ様が既に侵入済みですが」


「ゴレミ様、アンカルディア様は上手く侵入したのでしょうが、普通はそうは行きません……それに、エルフ王国の結界は、魔族を封じる事に特化した結界だと聞いています」


「ならマー君はどうやって侵入したんだ?」


「マー君程のお方ならば、何か方法があるのでしょう」


「なら魔王デスタルトにも出来て当然ではありませんか?」


 ゴレミはなかなか折れない。多少強引ではあるが、確かに手っ取り早くもある。デスタルトは深く呼吸をして、バルゼに言った。


「ガリュムと魔八将を召集してくれ」


☆★☆★☆★


「これから十日間、魔王デスタルトは一匹の魔物になる」


 会議室に集まった魔王国の幹部たちに向かって、デスタルトはそう宣言した。


 真っ先に手を挙げたのは、宰相であるガリュム・ノストラフゥだった。


「魔王国の王としての業務を放棄して、エルフ王国に向かわれるという事ですか」


「その通りだが、少し違う」


「皆が納得出来る様に説明して頂けますか?」


「俺がエルフ王国に向かう事は、魔王としての業務の一環だ」


「そこを、詳しく」


「魔王国は近く不可侵条約の破棄を宣言する。他国を攻撃する事も可能になる。その代わりに攻められる事も覚悟せねばならない」


「ですから、それに備えねばなりません」


「魔王国の魔物たちを鍛え上げる事と、不可侵破棄後の立ち回りに関しては、既にバルゼとガリュムに伝えてある。当然、魔八将の皆にも伝わっているだろう?」


「それはそうですが……」


「それに、今の俺では魔王国の現状把握で手一杯だ。だったら、改革が進んでから、その魔王国を把握すればいいだろう?」


「つまり、我々に丸投げ……という事ですか?」


「その通りだ!」


「……血は争えないといいますか」


 ガリュムの視線の先には、居眠りをするカートの姿があった。


「訂正する。カート以外の皆んなに丸投げする」


「それで、エルフ王国に向かう事の何が魔王としての業務なのですか?」


「エルフ王国に『同盟』と『戦争』の二択を迫る」


「それはそれは……魔王らしいですね」


「おい、タルト……」


「英太は口を挟まないでくれ。エルフ王国には、幼き頃に迷い込んだハルフ王子を殺害しようとした罪がある。その王子は現在の魔王デスタルトだ。エルフ王国にはその罪を償って貰わねばならない」


「どのようにですか?」


「それは、後々考えよう。魔王国には優秀な宰相がいるからな」


「真っ先にエルフ王国に叩きつけなければならないのは、ハルフ王子を救ったエルフの処遇に関してだ。サーシャ・ブランシャールの生死が分からないまま、新たなハイエルフを女王に据えた……そこに、聖統主教会も一枚噛んでいる」


「それはわかりました。しかし、マー君だけでなく、デスタルト様まで抜けてしまうと、万が一聖統主教会が魔王国に攻め入った場合の……」


「そこで、デベロ・ドラゴの国王に提案がある」


「なんだ?」


「ハルパラの領地をデベロ・ドラゴに譲ろうと考えている」


「え?」


「そして、そこの領主として、ゴレオを迎え入れたいんだ」


「えっ!!? どういう事っすか?」


「ゴレオには、空席になった魔八将の一席を担って貰いたい。もちろん、デベロ・ドラゴと魔王国の行き来が可能になった場合、居住地をデベロ・ドラゴに戻して貰っても構わない……その時は、代わりのゴーレムを領主に据えて欲しい」


「おい、魂胆が読めたぞ……俺に大量のゴーレムを創造クリエイトさせるつもりだな?」


 デスタルトは返事をせずに微笑んだ。


「ゴレミ、ゴレオ、俺がエルフ王国に滞在する10日間で、ゴーレムたちを鍛え上げては貰えないか?」


「私もですか?」


「ああ、ゴレミとゴレオが居てくれたら、俺も安心して動ける。頼めるか?」


「私は英太さまの指示に従います」


 俺とデスタルト、それにマー君とアンカルディア……戦力的には充分だろう。


 それに……今回ばかりはデスタルトの存在が必要だ。


「わかった。二人は魔王国に残す事にしよう」


「英太さま、生きの良いゴーレムを100体程お願い致します」


 ゴレミの眼は真剣そのものだ。うーん……頑張るよ。


「バルゼ、既存の魔物達も必死で鍛えてくれよ! 次の魔八将が全員ゴーレムになっちゃうかもしれないぞ!」


「承知しました。元より魔八将の世代交代は急務です。ゴレミ様という生きる教材を目の当たりに出来るなど、次の世代を育てる良い機会です」


 ゴレミが得意げに鼻を鳴らしている。確かに尊敬もされているが、子供達の恐怖の対象になっている事は忘れるなよ。


「よし、そうと決まったら急ぐぞ……ハルパラの領地を作り直したら、すぐにエルフ王国に向かおう」


「え、領地を作り直す?」


☆★☆★☆★


 人は……魔物は……なんと罪深い生き物なのだろうか?


 出来るからと言って、こんなにも無理をさせるなんて……


 歓楽街めいていたハルパラ領地は、たったの数時間で訓練場で埋め尽くされた土の要塞に変貌していた。これならたくさんの魔物を鍛えられるよね?


「素晴らしい領地です。ではゴーレムを生成してください」


 うん。やっぱりブラックドラゴンの系譜の方々が一番容赦無い。


 俺はゴレオを生成した時と同様に、グゥインの鱗とミスリルを混ぜ合わせたハイブリッドなドラゴンゴーレムを生成した。素材の関係で100体には届かなかったが、80体のゴーレム生成はなかなかの疲労感だ。


「さあ、エルフ王国に向かうぞ!」


 デスタルトが俺の手を取る。マジックポーションのお陰で数値としての魔力は回復しているが、それとは別の疲労感で一杯だった。


「わかった……タルトに任せるよ」


 力なく言葉を絞り出した俺を背負ったデスタルトは、深く呼吸をする。


 その瞬間、俺たちは僅かに浮かび上がり、バチインッという音を鳴らした。


 目を開けると、そこにあったのは青く美しい木々たちの姿だった。


「英太、ここがエルフ王国だ」


「ああ、一目でわかったよ」


「ちょっと、きな臭いな」


 何が? と問う前に答えに襲われた。


 四方八方から、俺たちを殺す為の矢が降り注いでいる。


 きな臭いどころの話ではない。


 エルフ王国との戦争が幕を開けてしまうのだろうか?

長かった第五章完結です。

1〜2週間ほど本編の投稿をお休みして、第六章に突入します。

その間も幕間の物語と設定資料の公開、ストーリーが変わらない程度の加筆修正を行います。


是非ブクマと評価お願いします!


今後ともよろしくお願い申し上げます!

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