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第百八十三話 新しい魔王国

 俺たちが魔王国にやって来てから、ちょうど一ヶ月が経過した。今夜、魔王国とデベロ・ドラゴの結界が繋がる。


 本当に色々な事があった。


 デベロ・ドラゴのブラック労働も大概だが、外の世界では、人間の醜悪さをまざまざと見せつけられる日々が続いた。


 俺たちは久しぶりに孤児院を訪れていた。子供たちは、あの死体ゴーレムとの戦いを闘技場で観戦していたし、魔王を決める武闘会も魔導モニターで観戦していたようだ。


 ……と言う事で、みんなゴレミに対して完全にビビっていた。敬語など当たり前。背筋はピンと伸ばし、軍隊の様に隊列を崩さない。


 鬼ごっこをしているのだが、ゴレミに追われる子供たちのそれは、紛う事なき恐怖に包まれていた。


 そんな子供たちを、マー君は微笑ましく眺めていた。


「子供たちは連れていかないんですか?」


 俺はマー君に聞いた。


「子供は魔王国の宝だからな。移住したかったら、成人してからにしろと言ってある」


「……でも、そうすると」


 俺は言葉を飲み込んだ。マー君の余命は残り一年だ。


「儂の余命が気になるか?」


「そうですね……マー君は本当にデベロ・ドラゴに移住しても構わないんですか? 貴方が築き上げた魔王国ですよ?」


「次の魔王に全てを委ねた。何か困った事があれば頼ってくるだろうさ」


「そうですか」


「単純にデベロ・ドラゴという国と、もう一人の王に興味がある。英太と共に居れば、死ぬまでワクワク出来るだろうしな」


 もう一人の王か……果たしてグゥインは魔王デスルーシとアンカルディアが封印したブラックドラゴンなのだろうか?


「デベロ・ドラゴに来たら、何がしたいですか?」


「うむ……移住者の生活基盤を整えながら、のんびりするつもりだったが、なんだろうな……最後の恋でもしようかな」


「最後の恋? 相変わらずですね」


 そう言えば、ゴレミを側室にしようとしていたな。


「美人はいるか?」


 デベロ・ドラゴにいる女性……人妻のマリィさんと、宿屋のリーナさん……リンガーとアイラもいるか?


「大人の独身女性は一人ですね。スライムとコボルトはいますけど」


「タルト・ナービスの冒険者仲間は勘弁だな。何を言われるか堪ったものじゃない」


「マー君はアンカルディアとお似合いですけどね」


「それだけは無い。絶対に無い……英太よ、儂の目が黒いうちに女性の移住者を増やすのだ」


「あなた、この間までデベロ・ドラゴに移住者を集めるのは慎重にって言ってましたよね?」


「早急に聖統主教会の対策を考えねばならぬな」


「そうですね……」


「気が重いか?」


「正直、そうですね……邪神復活を狙ってるってのが……」


「儂が生きているうちに決着をつけねばな」


 それが魔王デスルーシがデベロ・ドラゴに移住する理由のひとつだろう。


 2,000年以上前に起こった、始祖の勇者の物語……邪神の封印というかたちで幕を閉じたその物語……


 もしかしたら、俺とグゥイン……デベロ・ドラゴという国が、マー君やアンカルディアにとって、終わった筈の物語の『続編』を作って、それに無理矢理引き摺り込んでしまったのかもしれない。


「英太よ、デベロ・ドラゴでの暮らし……楽しみにしているぞ」


「はい」


「その前に……英太を友と見込んで頼みがある」


 友……? 少し違和感はあるが、聞かねばならないだろう。


「なんですか?」


「息子の事だ」


「息子って……」


「馬鹿息子だ」


☆★☆★☆★


「やあやあ英太様! 今日はどんな用事かな?」


 馬鹿息子のカートは、朗らかな笑顔で俺たちを出迎えてくれた。自身のスキルを最大限に活かす為だろうか、客人に対して、寝転がりながらの対応だ。


「以前飲ませて貰ったお茶があるだろ? あれの種を分けて貰えないかと思ってな」


「困るなー! あれは大変高価なものなんだ! 英太様であろうとも、タダで渡す訳にはいかないよ!」


 そんな事は想定内だ。


 俺は馬鹿息子の父親に頼まれてここにやって来た。


 如何に政に興味のない馬鹿王子であったとしても、王位継承権が完全に絶たれた今、手に入らなかった王の座に囚われる可能性は否定出来ない。


 マー君にとって、それだけは避けなければならない事だ。本人が魔王国を離れるならば、尚のこと。


「代わりと言っては何だが、それに見合った商品を渡そうと考えている。俺が創造クリエイト出来るのは、生命以外の全てだ。生き物は不可能だし、草木なんかも無理だ。何か欲しいものはあるか?」


「うーん……それはなかなか良い提案だね……そうだな……」


 カートは腕組みをして、目を閉じた。


「物だけじゃなくて、それを使ってやりたい事でも良いんだ。それをする為の道具を作ってやる」


「そうだな……まだこの世界に存在しない事をしたいな」


 随分と抽象的だが、理に適っている。まだ存在しない事……存在しないものの価値は計り知れない。


「わかった。でも、ちょっと幅が広すぎるな。具体的なイメージは無いのか?」


「そうだな! 英太様が作った魔導モニターがあるだろう? 私はあれに痛く感動した!」


「魔導モニターか……」


 魔導カメラは作ったから存在するしな……


 モニターの様なもの……


 大きなモニター……


 パブリックビューイングは、武闘会でやったよな……いや、もっとシンプルに……


「カート、巨大なモニターを作ろう!」


「巨大なモニター? うむ……それでも構わないが、存在しない物ではないのは残念だな」


「巨大なモニターに、映画を映すんだ」


「映画? それは何だい?」


「物語を作って、それを演じて、音楽をつけて……映像の演劇を流すのさ」


「物語か! 私は物語が好きだ! 始祖の勇者が悪の魔王を倒した話など、堪らなかった!」


「それ、お前のお爺さんだよな?」


「うむ……映画か……難しいが、楽しそうだな」


「映画を上映する施設を作る。デベロ・ドラゴにもそのうち作るが、今はまだこの世界に存在しない『映画館』という施設だ」


「映画館か……良い! 良いな!」


 俺はカートの領地に巨大な魔導映画館を創造クリエイトした。


 何処か懐かしさを感じるその施設には、ポップコーンマシーンも用意してある。


 映画を撮影する機材から、編集の基礎知識……物語を作る基礎……映画とはどの様なものか……俺はカートに熱弁したのだが、どれだけ理解してくれただろうか?


 『怠惰』スキルの兼ね合いで、少しばかりやる気があるのは気にかかるが……案外、良い映画を作ったりしそうだ。

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