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第百七十八話 新王デスタルト

 その日の夜には、魔王国の新体制が発表された。


魔王:デスタルト


側近:バルゼ・グラウス


宰相:ガリュム・ノストラフゥ


魔八将:カート、カンパネルラ、ゼス、ライム、カルビア、クライン、ジュウ(ひとつは空席)


特別顧問:マールーシ


 デスタルトが新王に、ガリュムが執事から宰相に、ハルパラの魔八将脱退。それ以外は既存の体制を維持する事になった。


 魔八将を脱退したハルパラは、ガリュムの抜けた執事の座に着いた。服装はメイド服だし、婚活目的なのは見え見えだが、能力的に適役かもしれない。


 改めて、正式に新魔王のお披露目と、宴が催された。いつも通りの形式貼らないお祭りだ。


 俺がミュゲル料理長に仕込んだ、たこ焼きならぬタコっぽい謎の海洋生物焼きは、かなりの大好評で、長蛇の列になった。


 屋台ひとつではどうともならない状況だったので、創造クリエイトで100,000食作り上げてやった。相当な疲労感だったが、とても心地よいものだ。


 サーシャと一緒に、マー君とデスタルトとカートの王族たちで、たこ焼きをみんなに配っている。新王誕生記念だそうだ。


 粉物はコストが低いという印象だが、この数を無料で提供するのはなかなかの大盤振る舞いだろう。


 何処からか、調理人に対する声援が飛んでくる。


「邪神っ! 邪神! じゃっ神! じゃしんっっ!」


 鳴り止まない邪神コール……新王デスタルト様っ!! このあだ名は禁止にしてください!


 すっかり屋台側の人間となってしまった俺とサーシャを置いてけぼりにして、ゴレミとゴレオは祭りを満喫していた。


 武神バルカンとの特訓は一旦お休みして、明日からは漆黒の4人で、レアメタルスライム狩りに精を出す。マー君とデスタルトに頼んで、経験値はパーティーで配分出来る設定に変えて貰った。


 レベルが下がってしまった俺と、生き物を攻撃出来ないサーシャのレベルを上げていきたい。


 アンカルディア曰く、現段階の聖統主教会の戦力は、それほど驚異ではないらしい。最も問題なのは、信者が何処に紛れているかがわからない点。


 アンデット化の秘術を使用出来るのが上層部のみなのか、もしくは外部に協力者がいるのか……アンジー枢機卿が知る情報が全てだと決めつけずに、その辺りを調べながらも速やかに殲滅しなければならないという。


「その為に必要なのは、あんたら『漆黒』の力だよ」


 アンカルディアはそう言い切った。


 いつもなら「私一人でなんとか出来るさね」と言い出しそうなものなのだが、俺にはその言葉の裏にあるものが何となく予想出来た。


 必要なのは漆黒の力ではなく、サーシャの力だろう。


 未完成のR.I.Pで、死体ゴーレムと化したアンデットを浄化し、全ての状況を打開してしまった。本人には伝えていない謎のダークエルフモードの事もある。


 アンカルディアとマー君が俺たちに話していない事は少なくなさそうだ。


 だから、アンカルディアはサーシャを積極的に鍛えようとしているし、マー君もダンジョンの設定を変える許可をくれたのだろう。

 

 その時、空に魔王デスタルトの姿が浮かび上がった。アンカルディアは魔道モニターの仕組みをアレンジして、何も無い場所への転写魔法を作り出したみたいだ。


 ロリっ子くそババアは、常に成長中のようだ。


「えー……魔王国の皆さん……改めまして、新しく国王になるデスタルトです」


 デスタルトの声が、魔王国全土に響き渡る。


 国民たちは、新王の声に耳を傾けていた。


「もうご存知かと思いますが、俺は300年前に行方不明になった……王子のハルフです。色々あって、人間国で冒険者をしていました。皆さん大好き邪神様とも、そこで出会いました。新王として良い仕事をしたと思います」


 デスタルトはクスリと笑った。至る所から、国民たちの笑い声が聞こえて来る。


「母親はラミレスです……皆さんには見せてはいけないものを見せてしまった……しかし、父上が……先代の魔王デスルーシが、何故国民に、子供たちに聖統主教会と死体ゴーレムとの闘いを見せたのか……俺なりに考えました……俺が統べる魔王国の在り方……」


 デスタルトは、深く息を吸い込んだ。


「近い将来、魔王国は他種族との不可侵協定から脱退しようと考えています……それは、魔族として、他種族の国を侵攻しようとか、そういう事ではありません。聖統主教会のように、国民に驚異をもたらす存在を野放しにする事は出来ないからです」


 少しだけ、国民たちが騒ついた。それはそうだろう……とても大事だ。


「魔王国の皆! 俺と共に強くなってくれ! あの様な悲しい出来事は二度と起こしたくない! 共に強い魔王国になって行こう!」


 デスタルトの力強い声が響く。しかし国民たちは反応に困っているように見えた。


 それは先代の魔王デスルーシの政策とは真逆とも言える。そして同時に、魔族に平穏を求めすぎたのではないか、という魔王デスルーシが答えを出せずにいた部分でもあった。


 大きな拍手が鳴り響いた。魔道カメラはその音を発した主を捉える。


 それは勿論マー君で、側に控えるカートやハルパラもそれに続いた。やがて拍手は魔王国の全土に広がっていく。


 タルトは主人公気質だが、けして好戦的な性格ではない。戦うならば、仲間を引き連れてではなく、個人で立ち向かう奴だった。


 デスタルトはそうはいかない。もう、一人で立ち向かう訳にはいかないのだ。


 簡単な事では無いが、デスタルトならばやれるだろう。そんなデスタルトは、勝手に俺を壇上に引き入れた。


「『デベロ・ドラゴ』の国王の一人……英太・鏑木殿!」


 何者かの力で、俺とサーシャはデスタルトの元に転送された。案の定、マー君がニヤニヤしている。


「はい。邪神ではなく、鏑木英太です」


「デベロ・ドラゴに、正式な魔王国との同盟国となっていただきたい」


 魔王デスタルトは、俺の前に跪いた。


 ほーう。そう来るか……答えはもちろん……


「デベロ・ドラゴにはもう一人の国王が居る。本来ならば、相談するべきだが……魔王デスタルトの頼みなら、快く聞き入れようではないか!」


 俺はデスタルトを起き上がらせ、固く握手をした。大歓声と共に、大きな拍手が鳴り響く。


 そして、案の定の邪神コールだ。


「英太ね、英太、鏑木英太!」


 俺の小さな声などかき消されてしまう。邪神コールは、当たり前に「デスタルト」コールに変わって行った。

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