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第百七十一話 漆黒のハイエルフ

 俺と魔王はガリュムの遺体が入った棺桶と共に、再び闘技場へと戻って来た。


 依然として、結界内では死体ゴーレムとアンカルディアたちの熾烈な戦闘が続いている様だった。


「ガリュムを死体ゴーレムに取り込ませるのは、それ以外の手立てが完全に無くなってからにしたい」


 俺の意見に、ゼスが反論する。


「いえ、死体ゴーレム……聖統主教会の目論見を阻止するのは、ガリュム様の悲願です。ガリュム様の遺体を使ってくださいその為に自ら仮死状態になったのですから」


「ゼス、其方の想いは理解出来る……だが、判断を下すのは儂だ。引いてはくれぬか?」


 魔王の決定に、ゼスは少し悲しげな表情を覗かせながらも頷いた。


「さて、英太よ……それ以外の手立ては見つかるのか?」


「今のところ、見当も付きませんよ」


 あの大魔導師アンカルディアと魔王デスルーシが練りに練った作戦が通用しなかったのだ。俺が思いつく筈もない。


 だが……


「それでも、何としても見つけ出さなきゃですね」


「ふむ……さすがは邪神殿だ」


「その呼び名、事が片付いたら正式に拒否させてもらいますからね」


 その時……「ゴォォォオー」という合音と共に、結界の一部が破損した。


「魔王!?」


「うむっ……」


 俺と魔王は、破れた結界の元へと向かう。


 死体ゴーレムの異様な瘴気と共に、結界内で舞い散ったであろう瓦礫や粉塵が溢れ出ていた。その傍らには、必死で結界を崩壊を食い止めようとするライムの姿があった。


「ライム!」


 ライムは返事をする余裕すらない。魔王は即座に結界を修復し、ライムに問う。 


「一体何があったのだ!?」


「サーシャ様が、結界を破って闘技場へと……」


「サーシャが?」


「止めたのですが、何の反応も示されなく」


「ライム、それは夢遊病のような状態じゃなかったか?」


「ええ、まさにその通りした」


「英太よ、何か心当たりがあるのか?」


「はい……前に一度、同じような状態になって……生命体を攻撃出来ない筈のサーシャが、暴漢を攻撃した事があります」


 その時、紫色の大きな光が天に伸びて、そのまま結界を貫いた。


 結界は頂上から崩れ始める。一気に放り出される瓦礫たち。砂煙の中、何とか目を凝らす。


 光の発生源には、死体ゴーレムの姿があった。


 その傍らに、小さな結界が展開されており、その中にアンカルディア、ゴレミ、バルゼの姿がある。


 紫色の光を発しているのは、漆黒のサーシャだった。


「……サーシャ?」


 そこに居たのは、サーシャで間違い無い。しかしその肌の色は褐色に染まっていた。


「あれは……ダー……」


「言うな!」


 俺が口にしようとしたのは『ダークエルフ』という言葉。魔王の制止には、異様な圧力があった。


「英太、言葉にするな! 今ならまだ間に合う!」


 まだ間に合う? これは何かの呪いなのか?


「《R.I.P》」


 サーシャの声と共に、紫色の光が死体ゴーレムを襲った。死体ゴーレムの一部が、腐った肉片に変わっていく。


「死体ゴーレムを浄化しているのだ」


 魔王の説明は、納得のいくものだった。確かにR.I.Pには、その効果が期待出来るかもしれない。


「でも、サーシャのスキルレベルじゃ難しい筈……」


 アラミナの街で、サーシャは死者の魂を天に返した。その時は、能力の前借りの代償として自身のレベルを大きく下げてしまった。


 それよりも上級スキルである事は間違いない。


「《R.I.P》」


サーシャは一定の感覚を開けながら、R.I.Pを唱え続けている。その度に死体ゴーレムに取り込まれていた魔物達が肉片へと戻っていった。


「アンカルディア! 貴様、サーシャに、何かしたのか!?」


 魔王が声を張り上げる。


「それが、何もしていないんだよ」


 アンカルディアが小さな結界から出て来る事は無かったが、声だけは耳に届いて来た。


「では、この状況をどう説明する!」


「《R.I.P》」


「目覚めたんじゃ無いのかい? 魔王国に来た事で、安らかに眠っていた『能力』が」


 アンカルディアと魔王は、明らかに何かを隠している。共に邪神討伐部隊で戦ったサーシャの祖母『ダーリャ・ブランシャール』に関する事だろうか?


「《R.I.P》」


 サーシャはR.I.Pを唱え続けている。居た堪れずに、俺もアンカルディアに質問する。


「アンカルディア! 質問を変える! このままでサーシャは大丈夫なんですか?」


「死にはしないよ。絶対にね……あの姿になってるって事は、サーシャ自身の能力も上昇している筈だしね」


「……元の姿に戻る事は出来るんですか?」


「無理かもしれないね」


「《R.I.P》」


 ハイエルフに覚醒出来ずに苦しんでいたサーシャが、ダークエルフになってしまう? 夢遊病から醒めたサーシャの事を考えると、胸が張り裂けてしまいそうだ。


「ひとつだけ、元の姿に戻る方法があるかもしれないね」


 アンカルディアは、魔女らしく不気味に笑って、言葉を続けた。


「愛の力さね」


「愛の力? どうすれば良いんですか?」


「英太の声を届けるんだよ! サーシャの意識を取り戻す程に強く、大きな声で!」


 俺の声で? 何を言えば良いんだ?


「さあ、叫ぶんだ! 愛の言霊を!」


「サーシャ!」


「《R.I.P》」


 サーシャは俺の言葉に反応しない。


「さあ! 叫ぶんだよ! 愛の言霊を!」


 アンカルディアが再び俺に愛の言霊を求めて来る。


「サーシャ! 愛している! サーシャ! 愛しているよ!」


「《R.I.P》」


 サーシャからの反応は無い。


「ゴレミ、これで満足かい?」


「……ゴレミ?」


「ああ、何でも無いよ……死体ゴーレムはサーシャのスキルで何とか出来そうさね……サーシャを元に戻すのは、私に任せておきなさい」


「……愛の言霊は?」


「バッチリ魔導カメラで録画してあるよ。グゥインさまへのお土産にするんだとさ」


 アンカルディアの声しか聞こえて来ないが、どうやらゴレミが一枚噛んでいるようだ。この状況で、やってくれるな……


「《R.I.P》」


 サーシャはその後もR.I.Pを唱え続けた。


 死体ゴーレムの肉体はどんどん崩れ落ちていく。


 アンカルディアの余裕は、R.I.Pの効果に対する確信からくるものだったのだろう。


 死体ゴーレムを形取るものは、タルトと王子たち……そして、ラミレスだけになってしまった。

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