第百六十九話 邪神の名に相応しいスキル
俺はもう一度闘技場に転移した。
アンカルディアの手によって分解されたゴレオの欠片を探す。しかし闘技場の周囲には見当たらない。
ゴレオが分解されたのは、闘技場の上だったか……闘技場の中は結界による靄とアンカルディアたちの激戦による砂埃で視界が覚束ない。
「英太様!」
その声はハルパラのものだった。
「ハルパラ! 分解されたゴレオの素材を探している! 何処にある?」
「存じませんわ! ですが、魔王デスルーシ様と共に転移しているかもしれませんわね!」
魔王と転移……あり得るな……というか、濃厚だ。
「魔王は何処に?」
「ここだ」
背後から魔王の声が聞こえた。物々しい呪符の貼られた壺を手にしている。
「魔王、分解されたゴレオの素材を知らないですか? 創造し直して、武神のところに連れて行きたい」
「武神バルカン……奴はなんと?」
「全てを伝授すると」
「……そうか……先にアンカルディアからの伝言だ……奴は英太にも死体ゴーレムを作らせるようにと言っていた」
「……死体ゴーレムを?」
「最悪のケース、イレギュラーの対策として、英太の創造を使うと言っていたのだ。魔王国の先人たちの遺体を触媒にして、同等以上の死体ゴーレムを作成する」
「それじゃ、マジもんの邪神みたいじゃないですか」
「何を言っている? 其方の能力はその言葉に相応しいものだぞ」
「……その死体ゴーレムと、教会の死体ゴーレムを戦わせるんですか?」
「いや、戦闘に関しては中に居る三人で対応するそうだ……英太にやって貰いたいのは、死体ゴーレム消滅の手順を創り出す事だそうだ」
「消滅の手順?」
「アンカルディアの話では、死体ゴーレム創造の過程で、必ず破壊の手順も掌握する筈だと言っていた」
「破壊の手順……」
俺が出来ると思った事は出来る……それが創造の能力だ。
「死体ゴーレムの分解方法が解明出来なかった場合は、ゴレオの肉体を取り込ませる様に言っていた。核は使わなくていい。ほんの一部で構わないから、鍛え上げられた黒竜の肉体を取り込ませるのだと」
「理由は?」
「それが死体ゴーレムを消滅させる為の手段だそうだ。アンカルディアがタルトの身体に仕込んでいたのは、黒竜の鱗を魔力で加工したものだそうだ。死しても復活を遂げる生命力の塊を取り込んでしまえば、死体ゴーレムはひとたまりもない……その読みは外れてしまったようだがな……」
その読みがハズレていたかどうかはわからない。タルトの身体にあった死体ゴーレムにとっての『猛毒』は、今はカートの身体の中にある。
「アンカルディアに渡した鱗がどう使われようと、それは俺の責任です……しかし、一度ゴレオになった素材で死体ゴーレムを作るなんて事は出来ません」
「わかった」
魔王はあっさりと首を縦に振った。
「良いんですか?」
「ここでゴレオを死体ゴーレムにする様な英太で無くて、安心したくらいだ……」
「ゴレオは武神バルカンに預けます……俺はその後で死体ゴーレムを創ります」
「わかった」
魔王はアイテムボックスから、バラバラになったゴレオの素材を取り出した。俺はそれにグゥインの鱗を加えて創造する。
「英太さま! ありがとうございます!」
ゴレオが元通りに復活した。
「大丈夫か?」
「はい! 何の問題も無いです! 話はアイテムボックスの中で聞いていました! 武神のところに連れて行ってください!」
俺はゴレオを連れ、武神バルカンの居るダンジョンに向かった。
そして、とんぼ返りで闘技場に戻る。
「魔王……やりましょう」
「……そうだな」
魔王は壺に貼られた呪符を丁寧に剥いでいった。形容仕様のない禍々しいものが漏れ出て来る。
「先代の魔王『デスビート』の羽根と、当時の魔王国幹部たちの肉体の一部だ」
紀元前の勇者たちが討伐した魔王と幹部たちの肉体は、何かしらの魔法がかけられているのか、今この瞬間切り落とされたかの様な状態を保っていた。
「良いんですか?」
「構わない。儂の世代で全て終わらせるべきなのだ」
そして魔王は、コバルトブルーに輝く鱗を取り出した。
「死体ゴーレムの核となるのは、ラミレスの肉体だけだ」
「……でも、アンカルディアはもう鱗は無いって……」
「ブラフに決まっているだろう」
「魔王、確かにお預かりします」
俺は魔王から受け取った死体の一部に集中した。創造は生命を生み出す事は出来ない……しかし、ゴレミやゴレオの様なゴーレムを創る事は可能である。
死体ゴーレムは創造出来るのか……
「《創造》」
…………何も起こらなかった。
「くわっはっはっはっはぁっ!!」
魔王デスルーシが高らかに笑った。
「何ですか?」
「其方が死体ゴーレムなど生み出せずに安心したわ! 仕方あるまい! アンカルディアの作戦を無視して、魔王国の最善を尽くすぞ!」
「魔王国の最善?」
「魔八将よ! 結界の維持は儂とカートに任せろ! 其方らには魔王デスルーシに仕えた魔王国幹部として、最期の仕事をして貰う!」
魔王デスルーシの声が高らかに響いた。
その力強さは、やはり王に相応しいものであり、デスルーシの作戦が失敗したとしても、納得出来るだけのカリスマ性があった。
だからこそ、伝えなくてはならない。
「カートは今、アンカルディアが作った心象風景の結界内にいます」
「……なんだと?」
「事が済むまでゆっくり休んでいるそうです」