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第百六十七話 想定外

 モニターの中で行われた一部始終に振り回されていた。


 ボルバラの中身はやはりアンカルディアで間違い無かった。あの演技は必要だったのか、そうでないのか……いまいち判断が難しいが、とにかくアンカルディアの計画通りに事は進んだみたいだった。


「英太様、何か進展があったのかい?」


「死体ゴーレムにタルトが取り込まれて、アンカルディアが正体を明かした」


「やはり、ボルバラはアンカルディ・アビーノだったんだね……それで、戦況は?」


「まだ変わらないが、逆転しそうだよ。タルトの身体に猛毒が仕込んであるそうだ……タルトの奴、俺たちにまで黙ってやがった」


「安心して構わないよ! アンデットに対しての猛毒であって、生命体にとっては単に異物を取り込んでいるだけの状態さ!」


 それもあまり良くは無いだろう。しかし、アンカルディアが仕組んだって事は、必要な事なんだろう。


「しかし、マズい事になったな。私が生贄になるつもりだったのに」


 生贄……ガリュムが言っていた「タルト・ナービスが生贄になる」は、この状況の事だったのか?


「マズいって、何がだ?」


「だからね、私が生贄になる予定だったから、私の身体に猛毒が仕込んであるんだよ」


「……それ、大丈夫なのか?」


「私は問題ない。問題なのは、兄上の身体から猛毒を奪ってしまった事なんだ」


「……奪った?」


「ああ、だから、兄上の身体には猛毒など存在しないのさ」


「いつの間に……」


「私との対戦で兄上が死にかけていた時だよ。口移しでポーションを飲ませながら兄上の身体から猛毒を奪ったのさ!」


「……なんでそんな事を?」


「次の魔王に危険な橋を渡らせる訳にはいかないからね! そういうのは私の担当だよ!」


 カートなりに魔王国の事を考えて行動したのか……しかし、それは考え得る最悪の行動なのではないか?


 次の魔王どころか、魔王国全体を危険な橋に追い込んでいるのでは……


 俺はモニターに視線を移した。そこには、得意げにネタバラシをするアンカルディアの姿があった。


☆★☆★☆★


 死体ゴーレムは、アンカルディアの魔法で拘束されていた。アンカルディアは優雅に宙に浮かびながら、演説風にネタバラシをしている。


「死体ゴーレムは、じきに崩壊するよ」


「黙れっ! 何を根拠に!」


「私が言っている。それ以上の根拠が何処にあるのさ?」


「バルゼ! こいつを殺せっ!」


「……お前、俺が本当にアンデットだと思っているのか?」


 バルゼが言葉を発した。静まり返っていた観客席から、涙交じりの歓声が飛んだ。


「貴様……」


「バルゼは死んでなんかないよ。私の隠蔽魔法で死体に見せかけていたのさ……映像なんか捏造に決まっているさね」


「……ついでにだが、名誉のために伝えておこう。ゴレミ様に完勝したのは、全て演技であると」


「いえ、なかなか手強かったですよ」


 ゴレミが立ち上がる。傷だらけではあるが、平気そうだった。


「国民の皆……残念ながら、王子たちは本物のボルバラに殺されている。正式な決闘の結果だから、それは仕方ないと理解してくれ」


 バルゼは痛みを誤魔化すように言った。


「死体ゴーレムが崩壊する理由は二つだよ。タルト・ナービスは死んでない……だから、死体ゴーレムには吸収出来ない」


「馬鹿なっ! 確かに生命反応は……」


「何度も言わせないでおくれ、私だよ? 出来ない訳が無いだろう。そして二つ目、タルト・ナービスには、強力な生命エネルギーの塊を取り込ませてある。死体ゴーレムにとっては猛毒さね……そろそろ身体が崩壊するんじゃないかな?」


「アンカルディア! 貴様、この様な事をして、無事で済むと思っているのか!?」


「逆に、済まない訳が無いだろうさ。あんたが相手にしているのは、大魔導師アンカルディアと魔王デスルーシだよ?」


 アンカルディアの言葉を受け、アンジー枢機卿の視線が魔王に向かった。


 十字架に貼り付けられていた魔王は、いつの間にか拘束を脱していた。


「デスルーシ! 貴様っ!!」


「そう騒ぐな。貴様の企みに儂が勘付かない訳が無いだろう? それを対処するのは容易いが、根本から取り除くには、不本意ながらアンカルディアの力を借りるしか無かった。本当に不本意だが、次の世代に先送りする訳にはいかないからな」


「私だって不本意だよ。とは言っても、次の世代でも生き続ける私としても、ここで聖統主教会を潰しておくのは渡りに船だったのさ」


「私が死んでも、意思は受け継がれていく」


「だろうね。だからね、全世界に危機感を持って貰おうと思ってさ……魔王国だけではなく、全世界に同時中継しているんだよ!」


 全世界同時中継?


 俺の魔力では魔王国全土に中継を飛ばすのでやっと……いや、もしかしたらもう少し広範囲に中継を飛ばす事も可能かもしれないが、そんな準備はしていない。


 これはアンカルディアのブラフなのか、それともアンカルディアが魔導カメラを操作しているのか……


「全世界に告ぐ! 聖統主教会は、秘密裏に人体改造を行っていたんだよ! ここにいる死体ゴーレムは、魔王国の王子達をベースに作り上げたものだ! このゴーレムを基礎として、様々な種族の死体を取り込んでいく算段だったのさ! そして、新たな邪神に据えるつもりだったんだよ!」


「アンカルディアっ!」


 叫ぶアンジー枢機卿に、闇の魔力が飛んだ。発したのは魔王デスルーシだ。魔王の魔力は、アンジーの口を正確に破壊した。


「唆され、死んだのは愚息たちの責任だ……しかし……しかしだっ!! アンデット化され、その上死体ゴーレムにされるなどっ!! ……貴様を殺さないでいるのは、アンカルディアの計画を達成させる為だけだっ!」


「ひとつは全世界に聖統主教会の思想を伝える事さね……それともうひとつは……死体ゴーレムの核を維持し続けるには、ラミレスの身体が必要不可欠なんだろう?」


 アンジーは何かを叫んだが、破壊された喉からは、隙間風の様な音しか響かなかった。


「そして、ラミレスの鱗はもう残っていない……最後のひとつで作った死体ゴーレムだったのに……残念だね。何で最後なのかって? ゴルディアの研究施設に保管していたんだよね? ご愁傷様……あれ、やったのはタルト・ナービスだよ」


 アンジーは声にならない声を叫んでいた。


「ついでにもうひとつ……魔王国に残されたアンジーの鱗って奴……あれは、私が流した嘘さね……わざわざ魔王国くんだりまで出張って来たのに、可哀想にねぇ……アンジー枢機卿、あんた達の企み……邪神の復活は大魔導師アンカルディアと、魔王デスルーシの手によって阻まれたのさ」


 アンカルディアの決め台詞に、観客席が沸いた。


☆★☆★☆★


「……この一連の流れが、カートのせいで台無しになったんだよな?」


「はっはっはっはぁっ!! 大丈夫であろう! 死体ゴーレム如き、父上とアンカルディアが一蹴するさ! それにバルゼにゴレミもいる! 何の問題もない!」


 カートの無責任な発言の是非は置いておいて、確かにそれはそうかもしれない。


 このメンバーなら、グゥインやルーフにも立ち向かえる……か?


 起こった想定外は二つ。


 アンカルディアが仕込んでいた『死体ゴーレムにとっての猛毒』が、タルトの体内に存在していなかった事。


 本来取り込めない筈の、生命体であるタルト・ナービスを『死体ゴーレムが吸収し始めた』事だ。

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