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第百六十六話 計画通りの悲劇

「ダメだ……どうしても広がらない」


 カートは必死に結界を広げようとしていたが、そう簡単にはいかなかった。それでも、結界を触媒として安定させる事には成功したようだった。


「結界の事は俺よりカートだ。何とか頼んだぞ」


「承知した。しかし、本当にアンカルディと打ち合わせていないのかい?」


「一方的に話を聞いただけだよ。それも血の契約で言えないことに……」


 あれ……言えた?


 血の契約のせいで、その事自体が言えなかった筈だ。


「どうしたのだい?」


「血の契約が切れたみたいだ……どういう事だ?」

 

「アンカルディの魔術に関してはわからないが、ガリュムが使っていた血の契約ならば、契約したどちらかが死んだら無効になる筈だな」


「……は?」


 じゃあ、アンカルディアは?


 不老不死だろ?


「あそこに居るボルバラは……アンカルディアじゃないかもしれないのか?」


 ゴレミ相手に何度でも立ち上がったタルトは、ボルバラの足元に転がっていた。ボルバラはタルトの顔を足で踏みつけ、「くくくっ」と笑っている。


 正直、アンカルディアならこれくらいは演じそうなものだが……


「はっはっはっ! 安心しろ、死んだのは英太様かもしれないぞ!」


「生きてるよ。目の前にいるだろ」


 今は目の前で起こっている事に対応するんだ。


「《精霊召喚ドライアドサモニング》」


 ボルバラは、ドライアドの根で作った十字架にタルトの身体を拘束した。タルトの身体は、まるで磔にされた殉教者のようだった。


 その姿を目の当たりにしたサーシャの表情が一変する。結界をドライアドでこじ開けようとするが、びくともしない。


 ボルバラが魔王デスルーシと対峙する。


「魔王デスルーシ様、そのままで私に勝てるとお思いですか?」


 魔王は返事をしない。ボルバラが言葉を続けた。


「貴方が死んだら、魔王国は終わりですよ」


「……終わらない……新王デスタルトが居る……新王を支える者もいる……魔王国は更に素晴らしい国になっていくだろう」


「魔王国の皆さん。ボルバラ・ネフェリウスと申します……皆さんに問います。魔王デスルーシと共に消滅する未来を選ぶか、私たちと共に究極の進化を遂げるか……」


 ドライアドが魔王デスルーシを捉えた。


 木の根は十字架の形に変化して、魔王をタルトの隣に磔にした。


「準備は整いました」


 王子たちとバルゼのアンデットと交戦する魔八将と漆黒の面々。その激しい戦闘音の中で、ボルバラの静かな声が不気味に響いた。


 そして、闘技場の結界が解かれた。


 真っ先にボルバラに向かって行ったのは、サーシャの召喚したドライアドだ。


 しかしドライアドの木の根は、ボルバラの身体に触れる事なく進路を変えてしまう。


「『漆黒』のエルフ、サーシャは生命体を攻撃する事が出来ない」


 ボルバラが指を鳴らすと、サーシャのドライアドは消滅してしまった。


「《精霊召喚ドライアドサモニング》」


 サーシャの声が響くが、ドライアドは召喚されない。


「ハイエルフならともかく、貴女のような半端者が精霊魔法で私に勝てる筈無いでしょう《精霊召喚ウンディーネサモニング》」


 大量の水がサーシャを押し流す。観客席に押し流されるサーシャを、黒い膜が優しく包んだ。


「《分解魔法ディスビルド》」


 その膜は脆くも崩れ落ちてしまう。膜を作り出していたのはゴレオで、ゴレオ自身も核を残して粉々になってしまった。


「ゴレオくん!」


「『漆黒』のゴレオは、こんな低級の魔法でも身体を崩壊させてしまう」


 ボルバラは、魔力の弾を飛ばした。その弾は正確にゴレオの核を捉える。


「核を破壊すれば、復活する事は出来ない」


 そこにバルゼの攻撃を受けたゴレミが降って来た。舞台に激しく叩きつけられ、痙攣している。


「『漆黒』のゴレミは、進化したバルゼの足元にも及ばない……」


 バルゼはゴレミの背中に拳を打ち込む。


「ぐぁっ……」


 という声をあげて、ゴレミは意識を失った。


「……これでも死なないのか、タフだね。まぁ、彼女は研究対象ですから、殺さず持ち帰りましょう……バルゼ、ゴレミと魔八将は生かしたまま研究材料にする。残りのゴミ供は全て殺して構わないよ」


 バルゼは転移しながら、次々と魔八将を倒していく。


 まるで赤子の手を捻るように、簡単に倒された魔八将は、ボルバラの結界魔法で拘束されてしまった。


「さて、最後の見せ物と参りましょうか……アンジー様」


 名前を呼ばれたアンジーが立ち上がる。それは、魔王デスルーシが連れて来た他国からの来賓客の女性だった。


「低俗な魔物たちよ、貴方たちに神の救いを与えましょう」


 アンジーはそう言って、穏やかに微笑んだ。


「平伏しなさい。アンジー様は聖統主教会の枢機卿であられますよ」ボルバラが言った。


 しかし、観客席の魔物たちはその言葉に反応を示さない。


「構いませんよ。教育を受けているとはいえ、所詮は低級の魔物ですから……まだ幼い魔物ばかりですね……殺してしまうのは勿体ないので、捕獲しておいてください」


「承知致しました」


 ボルバラが観客席に結界を張り直す。


「では、メインイベントと参りましょうか」


 アンジーの言葉に、アンデット化した王子たちが反応する。それだけでは無い。アンジーの護衛をしていた人間たちも同様に舞台上に集結した。


 人間たちは、魔物のアンデットに姿を変え、サーシャを取り囲んだ。


「あなた方は、一体何を企んでいるんですか?」


 サーシャは怯える様子もなく、気丈に言い放った。答えるのはアンジーだ。


「私はね、エルフが嫌いなのよ……特に、紫色の瞳を持つエルフがね……本当は私の手でダーリャを殺したかったけど、それは叶わなかった……寿命じゃ仕方ないよね……その代わり、うちの子が最初に殺すのは、貴女にしてあげるわ」


 アンジーは、サーシャがそのダーリャの孫娘である事を把握していない様子だった。


 アンジーは、ペンダントを開いて、コバルトブルーの鱗を取り出した。


「偉大なるラミレス様……貴女様こそ、邪神の名に相応しいお方でございます」


 アンジーは微笑むと、鱗に向かって詠唱を始めた。


「モルトゥス・ヴィア・レクィエム・カダヴェル・エクス・ヴィタ・セクルム・イグナリウム」


 鱗は宙に浮かび上がり、美しい光を放った。その光に吸い込まれる様に、アンデットたちが次々と取り込まれて行く。


「スルジェ・エ・テネブリス」


 王子たちのアンデットも光に溶けていった。


 ボルバラの背後に身を隠したバルゼだけは光の影響を受けていない。バルゼを残した全てのアンデットを取り込んで現れたのは、見るも悍ましい死体ゴーレムだった。


 魔物たちの死体で組み上がったゴーレムの身体からは、ところどころ、王族の証である天使の羽根が生えている。その腹にはコバルトブルーの髪を靡かれる美しい魔物の姿があった。


「……あぁ、お美しいですわ……お久しぶりですラミレス様」


 アンジーは感激の余り、涙を流している。そして、死体ゴーレムの腹、ラミレスと呼んだ魔物に口付けをする。


「アンジー様……仕上げは、デスルーシとタルト・ナービスのどちらに致しましょうか?」ボルバラが言った。


「憎きデスルーシは、エルフと共に最初の犠牲者になって貰うわ……タルト・ナービスにしましょう」


「承知致しました。では……」


 ボルバラはタルトをドライアドの拘束から解いた。力なく倒れるタルトを死体ゴーレムの前まで運ぶ。


 アンジーは、先程と同様の呪文を唱える。


 タルトの身体は宙に浮かび上がり、死体ゴーレムへと吸い込まれていった。


「完成致しました」


「……何も変わっていない様に見えるけど?」


「核として、体内に埋め込んであります。やはり、中心に居られるべきなのは、ラミレス様であるべきですから」


「それもそうね……さあ、先ずはどちらから殺しましょうかね? 憎き魔王デスルーシにするか、顔だけ似ているエルフにするか……」


「あんたって手もあるよ」


 ボルバラは、ドライアドの木の根でアンジーを拘束した。自害を許さぬ様に、口元も木の根で覆っている。


 アンジーは、何が起こったのかわからないといった表情で、呆然とボルバラを見ていた。


「ボルバラはとっくに死んでるよ。殺したのは私さね」


 そう言って、ボルバラはロリっ子魔女に姿を変えた。


「死体ゴーレムとは、趣味の悪いものを作ったもんだよ。タルトを取り込んだのが運の尽きだね……なんせ、身体に猛毒を仕込んであるからね」

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