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第百六十五話 悲劇の始まり

  突如現れたファーファ王子のアンデット。即座に魔八将のライムとカンパネルラが対応に向かう。


「……そんな、まさか」


「カート、ショックなのはわかるが、俺たちはまず脱出だ」


「違う……兄上……ファーファ王子は、非戦闘系の魔物だったんだ……戦闘力ではライムやカンパネルラの足元にも及ばない」


 アンデット化した魔物は、想定よりも強いって事か。


「そりゃ厄介だな」


 闘技場の各所から、ミルベラ王子、スパイク王子、ナビナ王子のアンデットが姿を現した。


 魔八将たちは、それぞれ二人がかりで王子のアンデットの対応に向かう。


 カートが居ないぶんは、ゴレオが対応している。日光を浴びて弱体化しているゼスの分まで暴れ回っていた。


 しかし、ゴレオと魔八将は思う存分に暴れ回るという訳にはいかなかった。


 観客席と舞台の間には結界が張られているが、王子たちのアンデットと魔八将の闘いは、観客席のすぐ目の前で行われていたからだ。


 配慮して闘うには敵が強力過ぎる。被害が出るのは時間の問題だろう。


 王子たちが放った魔法の流れ弾が観客席に向かうが、それらは全てドライアドの根が受け止めていた。


 サーシャの瞳は、既に濃い紫に変わっている。


 絶対に観客に被害を及ばさない。そんな強い意志がひしひしと伝わって来る。


 ゴレミ……最大戦力のゴレミはどうしているんだ……?


 ゴレミの姿は魔導カメラの捉えられる範囲内に存在していなかった。


 ……嫌な予感がする。


「《創造クリエイト》」


 俺ももう一度心象風景の結界を創り上げた。


「カート、これを触媒にして結界を構築してくれ」


「わかった! やってみる!」


 カートに結界を委ねて、脱出後の行動をシミュレーションする。


 王子たちの死は確かに痛ましい。しかし、起こってしまった事だ。


 これ以上死者を出さなければ、俺たちの勝ちだ。


 その時、モニターの端に、激しい戦闘を繰り広げる小さな影が見えた。俺は画面に目を凝らす。


 戦闘していたのは、ゴレミだった。


 ゴレミがこれほどまでに苦戦するなんて、相手は誰なんだ?


 ほんの一瞬だけ、相対していた相手の姿が画面に映った。それは魔王国の元最高戦力であるバルゼだった。


 アンデット化したバルゼ……非戦闘系の王子ですら魔八将を軽く凌いでいるのだ。いったいどれほどの強さになっているのだろうか?


 単純に10倍と計算しても……ゴレミどころか、グゥインを凌ぐ実力になっている事になるぞ?


 ゴレミとバルゼの戦闘は、魔導カメラの範囲を出たり入ったりで、状況を把握し切れない。


 ゴレミで勝てなかった場合、どうなってしまうんだ? アンカルディアはバルゼがアンデット化するなんて言ってなかったぞ……


 俺はアンカルディアとの血の契約……その内容を思い返した。


☆★☆★☆★


 アンカルディアと俺の血で書かれた魔法陣が、魔力の炎に包まれて消えた。


「これで契約成立だね」


「……それで、何を聞かせてくれるんですか?」


「私が魔王国に来ている理由だよ。端的に言えば、教会の目論見を潰すって事さ」


「教会の目論見?」


「魔王デスルーシの余命に関して、情報が聖統主教会に漏れていたからね。後継者問題のゴタゴタを作り出して、魔王国を支配しようとしているんだよ」


「ゴタゴタって、王子たちのカート暗殺ですか?」


「そうだね。それを促して、対抗勢力を潰したのさ。残されたバカ王子を国王にして、実質的には右腕が祭り事を取り仕切る……よくある話だろうさね。その右腕はボルバラさ。だから殺した……殺す前に、教会側の動きと狙いを問いただしたんだが、奴等は気持ちの悪い事を考えていたよ」


「気持ちの悪い事?」


「邪神の復活だよ」


「……邪神」


 それは、グゥインの事なのか?


「どこぞのブラックドラゴンを復活させるって事じゃないよ。それと同等以上の、新たな邪神を誕生させるって意味の『復活』さね」


「いったいどうやって?」


「教会が魔物の生態実験をしているのは知っているだろ?」


「いや、初耳ですよ」


「あんたはアラミナの街で、暴れ回ったんじゃないのかい? アンデット化した孤児たちを葬ったんだろう?」


「……教会の地下に居た孤児たちですか?」


「教会は色んな種族を実験台にして、全く新しい究極生命体を創り上げようとしているんだよ。獣人やエルフもそうだったけどね、やっぱり魔物を使うのが効率的みたいでね。魔物が出現するアラミナは研究にうってつけだったのさ……誰かさん達がぶっ潰すまではね」


「それは、良かったって事ですよね」


「その後、ゴルディアの教会や奴隷商も潰しただろう? ゴルディアの教会地下には、アラミナの比では無い程の研究施設があったからね。あれのお陰で研究は中止せざるを得なくなったのさ」


 ゴルディアで起こった惨殺……タルトの仕業だ。地下施設に関しては、国が揉み消したのだろう。


「それも、良かったって事ですよね?」


「それによって、矛先が魔王国に変わったのさ。魔族の上位種を使うのが一番効率が良いからね。強い魔物の捕獲に舵を切ったのさ……でも、魔八将クラスの魔物なんてのは、そう簡単には捕獲出来ないさね。だから、死んだ魔物を主集した。魔王デスルーシの遺伝子を持つ魔物なんてのは、格好の研究対象だね」


「殺された王子たちですか?」


「御名答……最初は何百年も前に死んだ王子たちの墓荒らしをしていたみたいだけど、やっぱり新鮮な方が都合が良かったのさ……ボルバラは、王子たちにカート暗殺を持ちかけた。誘き出された王子たちは、まんまとボルバラの手で屠られる……教会にとっては、欠損部位のひとつもあれば、相応の肉体を構築するのなんて容易いからね」


「王子たちの身体の一部を持ち去って、身体を作り上げているって事ですか?」


「そうさ。この後行われるであろう出来事を伝えておくよ。先ず、収集した王子たちを触媒にしたアンデットが魔王国を襲撃する……そこで、バルゼが殺される筈だった……それは前倒しになったからね、その代わりにルーシかカートが殺される……ルーシの力は強大だが、先が短い上に呪いがかけられている……やはりカートが本命だろうね」


「それは、魔王国を支配する為ですか?」


「それもあるけど、新たな邪神の器にする為だよ」


「……邪神の器」


「私にはそれを防ぐ手立てがある。だから、英太は手出しをせず、起こる事に流されていな」


「ここまで聞かされて、そんな事は……」


「血の契約ってのはね、守る守らないじゃなく、守らざるを得ないんだよ」


 その通りだった。俺は言葉を奪われていた。


「最後に、その研究を始めたのが誰かを教えるよ。ラミレス・タタン、人魚族の姫君だった美しい魔物さ……対外的には、魔王デスルーシに殺害された事になっている……しかし、あの女はルーシの攻撃を受けて尚、生き延びた」


「どうやって?」


「ルーシの優しさを逆手に取ったのさ。ラミレスのユニークスキルは、生命の核に関わるものだったからね……謀反者は葬れても、その息子までは手にかけないとわかっていたんだよ」


「待ってください。その息子って……」


「タルトだよ。当時の名前はハルフだったかね?」


☆★☆★☆★


 ボルバラの放つ魔力の散弾が、タルトの身体を無数に貫いた。


 心臓が存在しないというタルトにも、代わりとなる部位は存在するのだろう。どんな事があっても立ち上がったタルトだが、倒れたままぴくりとも動かない。


 ボルバラはタルトの顔を踏みつける。そして、小さく呟いた。


「息絶えるが良い……邪神の器よ」

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