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第百六十一話 魔王への挑戦権

 優勝者のタルト・ナービスに対する鳴り止まない拍手。収めるのは、この人以外居なかった。


 壇上に登った魔王デスルーシがこれから発する言葉に、魔王国中が耳を澄ませる。


「タルト・ナービスよ、先ずは優勝おめでとう」


 魔王とタルトの関係性を知る者は少ない。俺はその一人で、最も注意を払っている人間と言っても過言では無い。


「大丈夫ですよ」


 そんな俺の手を、サーシャがそっと握った。


 そして、そんな俺たちを横目で見守るゴレミと、よくわからないでいるゴレオがいる。


 大丈夫だ。確信は無いが、少なくともそう思い込む事は出来た。


「ありがとうございます。しかし……」


「なんだ?」


「本当に、私が次の魔王になっても宜しいのでしょうか?」


「勿論だ。全国民がそれを望んでいる」


「貴方様個人にお聞きしたいのです」


 サーシャの手が汗ばんでいるのがわかった。俺はサーシャに声をかける。


「大丈夫だよ」


「儂は……こんな日が来る事を想像もしていなかった」


 魔王は深く息を吸って、吐いた。


「タルトよ、其方の素性を国民たちに聞かせてやっても構わないか?」


「構いません……しかし、お話になる前に、私の願いを聞いて頂きたいのです」


「言ってみろ」


「優勝者への褒美のひとつ、魔王様への挑戦で御座います」


「構わぬぞ……しかし、魔王の言葉を遮ってまでの願いとは、その意図はなんだ?」


「ただの我儘です。一人の魔物として、貴方を倒したい……魔王デスルーシを討ち倒す……これまで私は、それだけを糧に生きて参りましたから」


「わかった。その勝敗によって、タルト・ナービスの次期魔王就任が揺らぐ事はない。構わぬな?」


「構いません」


「国民よ! これから一刻の後、魔王デスルーシとタルト・ナービスによる決闘を行う! 儂の魔王としての最後の戦いだ! 存分に堪能するがいい!」

 

 読めていた展開だが、少しタイミングが早かった。全てが片付いてから、二人には語らう様な戦闘を繰り広げて欲しかったのだが……


 俺はボルバラ(アンカルディア)の姿を探した。その姿はどこにも見当たらない。カートの横にも居ない……何処に行ったのだ?


 その瞬間、俺たちは強制的に転移させられた。それを行ったのは、魔王デスルーシだった。


 そこはハルパラ領地の鉱山跡地、会場から目と鼻の先だが、俺たち……とは、会場に居た全員だった。魔王デスルーシは、50,000人近い数を一気に転移させたのだ。


「英太よ! 頼みがある!」


「どうせ創造クリエイトでしょう?」


「其方たちの国へ持ち帰る闘技場は、もう収納して構わない! 魔王国に残す闘技場をもっと大きくしてくれ!」


「大きくって、どれくらいですか?」


「この10倍は欲しいな」


 50万人収納のスタジアムかよ。モニターが無きゃ何してるかもわからないぞ?


「魔王国の全国民に告ぐ! これからの闘いを、ぜひ子供達に見せたい! 今から儂と魔八将、そして、タルト・ナービスとじっ……邪神が其方らを迎えに行く! 未成年の子供たちを優先して、会場に送り届けて欲しい!」


 魔王って奴は、本当に子供想いだな。ちゃっかり俺とタルトまでこき使おうとしてるのは頂けないし、邪神って呼ぶ前に笑い堪えてたのは、国際問題だよ。


 ……しかし、子供たちか……ちょっと嫌だな。


「英太よ! 頼めるか?」


「わかりしたよ。でも……」


 続きの言葉が出て来なかった。アンカルディアと結んだ血の契約の効果だろう。


「どうした?」


「いえ、なんでもありません」


 俺は闘技場を二つ収納して、残りの二つに、持ち帰る予定だった鉱山ひとつぶんの素材を加えた素材で創造クリエイトを敢行した。


 自分でも「無茶だろ!」と思ったが、無理なく完成してしまった。自分で自分が怖すぎた。


 相変わらず鳴り響く「邪神!」コールから逃げるように、各地の子供たちを迎えに行く。俺が言ったことのある場所は限られているので、多くは回れなかったが、どの場所でも『邪神』は歓迎された。


 これだけ愛されるのならば、元の名前の意味なんてどうでも良い気もしたが、名は体を現すという。


 俺はその言葉の信憑性を何度も目の当たりにしてきた。クリエイター視点での感覚だが、キャラクターは、付けられた名前の様に行動して行く事が多かった。


☆★☆★☆★


 たったの一時間で、闘技場の創造クリエイトと、子供達の輸送が完了した。


 魔王とタルトは、各々の控え室で集中モードに入っていた。


 俺は『漆黒』のメンバーを招集した。


「魔王とタルトの決闘前後、何が起こっても、俺たちで対処するんだ」


「……何かが起こるという事ですか?」


 ゴレミの質問には答える事が出来ない。血の契約の効果ではあるが、それ以前に、起こした上で解決しなければならないからだ。


「可能性の問題だよ。新たな魔王の誕生を快く思わない者もいるかもしれない」


「そうですか……」


 ゴレミは何かを察して、言葉を飲み込んだ。やはり、こういう時には頼りになる。


「三人共、周囲の警戒を怠らないでくれ」


「承知しました。悪意を感じた場合には、先立って対処致しますか?」


「いや、その場合の指示は俺が出す。魔王国の一大イベントでもあるから、慎重に行動しよう」


「英太さんはどうするんですか?」サーシャが聞いた。


「俺は魔王国の幹部たちと話して来る。特にカートだな」


 半分本当で、半分嘘だった。


 カートとも話したいが、最優先はボルバラ(アンカルディア)だ。


 何故居ない? この日の為に魔王国に居るのではないのか?


「何かあったら、指輪の探知能力を頼りにしてくれ……任せたぞ!」


 そう言い残して、俺は闘技場の控え室へと向かった。魔八将の誰かとエンカウントすれば、カートと連絡を取れる。何としてもボルバラを探し出さねばならない。

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