表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/214

第百五十三話 魔八将の実力 後編

 波乱のハルパラ棄権で幕を開けた二回戦。しかし、それ以外の魔八将は順当に勝利を重ねていた。


 魔八将と一般の魔物の間は勝負にならない程の実力差があり、勝負は全て3秒以内に決着が着いていた。


 最短記録は、二試合連続で対戦相手が棄権したカートのゼロ秒である。


 けして王族への遠慮ではないと確信している。


 カートが控え室にメイドを連れ込み、ティータイムを繰り広げていた事による《怠惰》スキルの発動故だろう。


 そして迎えたAブロック三回戦第一試合……


タルト・ナービス【HP:38520/38520】


vs


ライム・バルグリフ【HP:28600/28600】


 魔八将の一人、キマイラのライムとの対戦となった。ライムは俗に云うキマイラとは少し違い、基本的にライオンの魔物だ。身体にヤギとヘビの魔物が同居しており、様々な部分から顔を覗かせる。


 基本的にタルトと同じ近接戦闘タイプだし、基本攻撃が炎によるもので、それも同じだ。互いに相性は悪く無いが、それだけに決定打も無さそうな印象を受ける。


 しかし、勝負はすぐに決した。


 近接戦闘タイプのタルトは、場外判定スレスレで空中を飛び回った。そして、遠隔から炎の魔法を飛ばす。


 ライムにとって弱点では無いそれでは、ほんの僅かなダメージしか与えられない。


 安全圏から僅かなダメージを与えながら、時間切れの判定勝利を勝ち取る。


 そんな、しょっぱい作戦かと思わせたその時……《爆炎魔法インフェルノエクスプロージョン》をエンチャントした大剣ごと、ライムの身体に突進した。


 大剣は溶けながらヤギの頭を切り落とす。そして、ヤギが生えていた部分に、大剣の溶けた鉛が流れ込んだ。


 そう……今日の大剣は、鉄ではなく鉛だったのだ。


 体内から焼けただれ、のたうち回るライムを場外へと追いやり、タルトは悠々と二回戦を突破した。


 その圧勝振りに、観客席はどよめいた。


 『邪神』の二つ名を持つ人間に勝利し、魔王国のニューヒーロー扱いをされていたタルトだった。


 棄権したハルパラは別としても、魔八将に対して、ここまでの圧勝劇を繰り広げるとは思われて居なかったのだ。


 切り落とされたヤギの頭と共に救護班に運ばれるライムを尻目に、俺は勝利者インタビューに向かう。


「魔八将が強いのはわかっていました。一瞬たりとも気を抜けないので、勝ちにこだわって最初から全力を出した、それだけです」


 タルトはそれだけ言ってインタビューを終えた。いつもより拍手が少なかったのは、その凄惨な試合のせいだろう。


 その作戦を仕込んだのは、魔王国で『邪神』の二つ名を賜った俺だ。


 ガリュムから貰った資料に加えて、俺は前世で調べていたキマイラの神話的弱点をタルトに仕込んだのだ。


 神話におけるキマイラは、空飛ぶペガサスに乗った英雄に空中から攻撃され、地上での力を封じ込まれた。


 そして、先端に鉛をつけた槍を口に突っ込まれ、自らが吹いた火によって、溶けた鉛で内臓を焼かれて倒されたのだ。


 ライムには神話のキマイラとは違い、明確な知性がある。自ら鉛に火を吹く様な事はしないだろう。


 だから俺は、鉛で内臓に攻撃するという部分だけを切り取ったのだ。


 少しだけ重い空気が流れたが、ライムに命の別状はなく、切られたヤギの頭も、問題無く再生可能のようだった。


 三回戦は深夜まで続いた。第一試合に勝利したタルトは早々に宿に引き上げたが、最終試合の決着は日の出近くになっていた。


 魔物たちの熱狂は冷めやらず、何時だろうと変わらぬ声援で戦士たちを応援していた。


 それに応えるように、俺も精一杯の《聖光源魔法ホーリーライト》で照明をサポートした。


☆★☆★☆★


 二日目は四回戦と五回戦が行われ、タルトの対戦相手は、ケンタウロスのクライン・フォルクスと、サイクロプスのカンパネルラ・ゴルダとなった。


 タルトはその二人に対しても圧勝した。


 ケンタウロスの神話での弱点は酒によるもの。酒に酔わせてしまおうという作戦は、主人公気質が受け入れるものではなかった。


 つまり、タルトが勝利したのは完全たる実力によるものだ。比較的防御の薄い人間部分を狙うと見せかけて、馬の弱点である脚狙い。僅かなダメージでの勝利を収める。


 サイクロプスのカンパネルラの弱点は、シンプルに目だ。タルトはライムを倒した《爆炎魔法インフェルノエクスプロージョン》のエンチャント攻撃を囮にして、伸ばした爪で目を斬りつけた。


 視界を失ったカンパネルラは、そこで戦意を喪失してしまった。魔八将の名を冠していながら、降参もせず舞台上で背を見せて倒れ込む。


 そんなカンパネルラの背中に、タルトは深々と爪を突き刺した。


 鮮血が舞い、大量の血が流れる。少し残酷かとも思えたが、戦闘中に背を見せた者が悪である……それが古き魔王国の慣わしのようだった。


 勝利を積み重ねるタルトのステータスに変化が起きていた。明らかなHPの向上である。


タルト・ナービス【HP:38520/38520】


が、


タルト・ナービス【HP:42560/42560】


に変わり、


タルト・ナービス【HP:48300/48300】


となったのだ。


 ハルパラとクラインとの試合では変化は無く、ライムとカンパネルラとの試合では変化があった。


 全て勝利はしたが、殺害した訳ではない。その違いは、残酷さによるものなのだろうか?


☆★☆★☆★


 そして、本日のピックアップゲームはDブロックでも行われる。


 漆黒の弟分ことゴレオと、中身はくそババアことボルバラだ。


 ……実は昨夜のうちに、ボルバラ(アンカルディア)から、キツく注意を受けていた。


☆★☆★☆★


「大会中は完全にボルバラに徹するから、余計な反応はするんじゃないよ」


「わかってますよ」


「例え私が怪しい素ぶりを見せたとしても、だよ」


「……それはちょっと」


 本当に何かしでかす可能性もゼロではない。いや、けっこうあるだろう。


「何も知らない英太の反応ならいいよ。何かを知ってる英太の反応はするなって話さ」


「難しいですよ」


「……それと、対戦相手のゴーレムには、私の正体を明かさないようにね」


 ゴレオはアンカルディアがボルバラに化けている事を知らない。


「わかりましたが、何故ですか?」


「最終的には負けてやるけどね、少しは真剣勝負を楽しみたいからさ」


 ボルバラの姿をしたアンカルディアは、不敵に笑った。


「それと、サーシャ! あんたはボロが出そうだから、明日はアシスタント無しね!」


☆★☆★☆★


 アシスタント禁止令が出たサーシャに変わり、ハルパラに出演を頼んだのだが、何がどうなったのか、カート王子まで着いてきた。


 確かにボルバラはカートの配下だが、自分もこの後、試合がある筈なのに、なんてやる気の無さなんだろうか?


「ボルバラの事は私が一番良く知っているからね。良い人選だよ」


 呼んで無いんですけど、と二度ほど伝えたのだが、自分に都合の悪い言葉は記憶に定着しないようだったので、もう諦めて受け入れる事にした。


 舞台上では二人のスタンバイが完了していた。


「宜しくお願い致します!」


 ゴレオが丁寧に挨拶したにも関わらず、ボルバラ(アンカルディア)は鼻で笑っただけだった。演じているんだろうが、本物のボルバラ……こんなに感じ悪いの?


 試合開始の鐘が鳴る。


 速攻を仕掛けるゴレオだったが、パンチが当たる直前で、見えないバリアに阻まれてしまう。


「何だこりゃ?」


 驚くゴレオに対して、ボルバラは《分解魔法ディスビルド》を唱えた。


 その瞬間、ゴレオの右腕が崩れ落ちる。そして右腕はまるまる間に、素材へと姿を変えていく。


「ええええ……どうしよう?」


 これは圧倒的にピンチだ。対ゴーレムには最も有効な魔法じゃないか……本物のボルバラも使えたのか? 俺はゲストに話題を振ってみることにした。


「カート王子、この魔法はいったいどのような魔法なのでしょうか?」


「はっはっはっはあっ!! 私がわかるわけ無いではないかっ! ボルバラは優秀な呪術師だからねっ! 常識では測れないのだよ!」


 案の定知らなかったな……と思ったが、気になる言葉もあった。


「呪術師……ですか? 魔法使いではなく?」


「ああ、効果そのものは殆ど共通なのだが、呼び名や発動手順など、微妙に違いが多かったよ」


「なるほど……そういう意味の『わかるわけ無い』ですか……」


「はっはっはっはあっ! 仕組みを聞いた事はあるが、忘れてしまったよ!」


 カートの大声が響く中、舞台上の二人は静かに会話をしていた。どうやら、ボルバラがゴレオに棄権を促したようだ。


「それは出来ません。俺の負けは俺だけの負けじゃないですから」


 ゴレオの奴、カッコいい事を言うなぁ!


 開始早々に場外判定で負けた自分が情け無いよ。


「ふぅん……だったら、もう片方の手も頂こうかね《分解魔法ディスビルド》」


 その瞬間、ゴレオの左手も素材に戻ってしまった。


「まだ戦えそうだね、《分解魔法ディスビルド》」


 ボルバラが唱える度に、ゴレオの身体は素材に戻っていく。脚が、翼が、尻尾が素材に戻り、首と胴体だけの姿になってしまった。


 人間国でギルマスがそうなっていた時は見るに耐えなかったが、ゴレオのそれは、なんだかゆるキャラ染みていた。


「くそっ……やめてくれよっ!」


「やめてで許して貰えるほど、魔物の世界は甘くないんだよ……負けを認めるまで、分解し続けるよ」


 ボルバラは呪文を唱え続ける。今度はゴレオの体をなぞるように身体が分解する。


「大した事ないねぇ……素材が悪いせいかな?」


 そう言ったボルバラは、落ちていた鱗を手に取った。


「何の鱗だろうね? トカゲか何かか?」


 その瞬間、ゴレオの闘気が爆ぜた。


「気安くその鱗を触るな!」


 その瞬間、ボルバラを黒い塊が覆い尽くす。ゴレオだった素材たちは、自動的に合成を始め、シートのように形を変えて、ボルバラに襲いかかった。


「ぶっ殺してやる!!」


 シート状になったゴレオは、そのままボルバラに巻きついて、覆い尽くしてしまった。まるで、ミイラのようになったボルバラは、そのままゴレオによって締め上げられていく。


 強力な圧力が掛かっているのだろう、人の形をしていたものは、ボギボギィ! という不吉な音を立てながら潰れてしまった。


 ……本当に殺したか?


 という観客席の反応を愉しむように、ボルバラは空中からゴレオを眺めていた。


 そりゃそうだ。アンカルディアなら転移魔法は使いこなせるだろう。


 意図的に対空時間を伸ばしてたボルバラは、場外判定を受けたと同時に舞台上に降り立った。


「申し訳ありません、ゴレオ様……貴方様の力を試させていただきました。体内に魔力の結界を張っていたら、私はあのデクのようになっていたでしょう」


 ゴレオがすり潰していたもの、それは、ボルバラが創り上げたゴーレム……いや、ゴーレムの形をした土人形だった。


 身代わりをゴーレムにするなんて、性格が悪いな……これも本物のボルバラを演じているからだよな?


「私の負けでございます。次の対戦相手との試合、楽しく拝見させていただきますね」


 そう言ったボルバラは、スタスタと会場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ