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第百五十二話 魔八将の実力 前編

 ABブロックの一回戦が進む中、魔王も参加して、トーナメントの変更点に関しての話し合いが持たれた。


 以下が決定事項だ。


 ABブロックはそのままの組み合わせで試合を進める。日程は前倒しに変更。


初日 :一回戦のみ→三回戦まで。

二日目:二〜四回戦→四、五回戦。

三日目:五〜七回戦、準々決勝→六、七回戦、準々決勝。

四日目:準決勝、決勝。


 上記の日程に変更し、CDブロックのゴレミ、ゴレオ、ボルバラはシード扱いに変更。


二日目:ゴレオvsボルバラ。

三日目:ゴレミvs上記の勝者。


 の対戦が執り行われる。


 タルトが優勝するには、あと9勝が必要。


 ゴレミが優勝するには、あと2勝が必要。


 明らかにバランスが悪いが、ゴレミの実力的に順当なシード権とも言えなくもない。


 それに加えて、魔王から試合の実況・解説役が必要ではないかという提案があった。


 中継という文化が誕生してから、一日足らずでの進化……流石は史上最強の大魔王だ。


「……と言う事で、実況と解説は英太がやってくれ」


「どうして俺が?」


 そんなものは、前世でも経験などない。


「なるべくなら強い者がやるべきだからな。適任者は英太しかいない。負けた幹部たちもゲストで出演させるから、宜しく頼むぞ」


「そんな、急には出来ないですよ」


「安心しろ、ピックアップゲームのみだ」


「は?」


 ピックアップゲームなんて、スポーツ番組じゃないんだからさ。


「英太とタルトの試合、それにゴレミとバルカンの乱闘のような、主だった試合だけでいい」


「前もってわかるもんですか? いや、まぁだいたいわかりますね」


「アシスタントの美女も用意している」


  魔王の視線の先には、サーシャが居た。


「あの、うちのメンバーなんですけど」


「英太さん、私も魔王さんみたいに人前で話せるようになりたいです!」


「そうなの?」


「はい。ご安心ください! エルフ王国の学校では、良く代表でスピーチをしていました!」


 きっと、成績優秀とかじゃなく、女王の孫娘だからだね。


「それとこれとは違うけど……わかりました。解説というか、少し話すだけですよ」


 漫画やドラマで良く見る、初期のライバルがいつの間にか観戦事の解説役になってるイメージで行こう。


「英太様、国民から意見が上がって来たもので、出場者の声が聞きたい、というものがあります」


 ガリュムはなにやら資料をめくりながら言った。


「試合後の談話とかですか?」


 魔王国民ったら贅沢だな。


 ……本当に国民の声か? ガリュムの提案じゃないだろうな?


「いえ、舞台の上で英太様やタルト・ナービスが話している内容が気になるとの事で……そうですね。勝利者インタビューも面白いですね」


「話の内容ですか……特に変わった事は話してないですよ」


 ピンマイクを着けるとか、そういうことを希望してるのね……


「魔道具で何とか出来たら対応します。出場者にカメラとペアリング……同期出来るイヤーカフを付けて貰って……」


「はて、ペアリング?」


 あ、わかるわけないか?


「耳に着ける魔道具で、耳に入る範囲の音を映像に乗せます」


「流石は英太様! では、こちらの素材をご自由にお使いください!」


 ガリュムは机の上に魔晶石と鉱石を置いた。最初から何かしら創造クリエイトさせるつもりだったな?


「《創造クリエイト》」


 俺は8人分の集音イヤーカフを創り上げた。自動でカメラに音を流し込む事が出来る魔道具だ。


「耳に着けます。頑丈にはしてありますが、流石にゴレミクラスの打撃には耐えられないので、壊れたら都度修理しますね」


 これにより、放送環境が爆発的に整った。


 魔王の話では、Aブロックの一回戦第一試合が特に盛り上がったらしい。


 魔王デスルーシと同タイプのニューヒーローと、人間国の邪神の闘い……?


 自らの手は汚さず、ゴーレムをこき使って戦わせ、挙げ句の果てにゴーレムごと爆破しようとしたかららしい。真っ黒の鎧を身に纏っていた事も理由のひとつだってさ。


 なぁグゥイン……


 俺、魔王国で邪神って二つ名になったよ……


 お揃いだな……


☆★☆★☆★


 一回戦は思いの外スムーズに進んだようだ。魔王とガリュムの不正を抜きにしても、実力に差があるケースが多く、一撃での決着も多かったらしい。


 それにも関わらず、未だ死亡者はゼロを保っている。一番死に近かったのは、当然武神バルカンだ。


 それでも、既に夕方になっている。これから二回戦の256試合を行い、三回戦の128試合を行う……これ、深夜までやる事になるんじゃないかな?


 二回戦から六回戦までは、AブロックBブロックを更に半分に分け、四会場で同時進行する事になった。


 二回戦最初のピックアップゲームは……もちろんこのカードだ。


タルト・ナービス【HP:19080/38520】


vs


ハルパラ・ミューズ【HP:6400/6400】


 タルトのHPはDランクポーションでは回復し切っていなかった。


 しかしHPしか表示されないこの仕組みだと、それでもタルトが有利に見えてしまう。


 ハルパラのMPは魔八将の中でも随一であり、精神干渉に特化したスキルは、全くもって油断出来ないものだ。


 ……といったことを、試合前に解説した。


 お前が与えたダメージなのに無責任だな邪神……という声が聞こえて来そうだったが、それは敢えての無視とさせて貰います。


 アシスタントのサーシャさんは、ハルパラから男性を惹きつけるテクニックを学んだと仰っていました。いつか見せて貰いたいものです。


☆★☆★☆★


「さあ! Aブロック二回戦第一試合……いま試合開始の鐘が鳴りました!」


 ドラの音が鳴り響く。試合はゆっくりとした立ち上がりだった。


 大剣をもったタルトと、尻尾をゆらゆらと動かすハルパラが、互いを品定めしているようだった。


 ハルパラは微笑んで、口を開いた。その言葉は、イヤーカフを通して、魔王国の全土に同期された。


「見れば見るほどに、良い男ですわね」


「そりゃどうも、貴女もお美しいですよ」


「よく言われますわ」


 ハルパラは一切の殺気を見せずに、ゆっくりタルトとの距離を詰めていく。反対に、タルトからは明らかな緊張が伝わって来る。


 次の瞬間、ハルパラはタルトの右腕にしがみついていた。尻尾は胴体に巻き付き、完全にタルトの自由を奪っている。


 単純な腕力ならば、振り払う事は容易いだろう。


 しかし、タルトにはそれが出来なかった。


 精神干渉系の魔法に侵されているのだろうか?


「わたくし、棄権しますわ!」


 ハルパラの言葉に、会場が静まりかえった。


「棄権?」タルトが聞いた。


「ええ、貴方と真正面から戦ってもわたくしに勝ち目はありませんわ。それに、わたくし決めましたの」


「なんだ?」


「わたくしは貴方の妻になりますわ! わたくしは女王ではなく、皇后になりたいのです!」


 ハルパラの尻尾は、タルトの身体をフェザータッチで這っていく。


「……という事です! わたくしは棄権しましたわ!」


 ハルパラはタルトにウインクをして、ゆっくりと舞台を後にした。


 しばしの静寂の後、「勝者はタルト・ナービス! 三回戦進出です!」という俺の声が鳴り響く。


 観客席は、何故だか異様な盛り上がりを見せた。


「ハルパラさんっ! 凄いっ!」


 興奮するサーシャの隣に、そのハルパラがやって来た。


「ハルパラ! ……選手のインタビューです」


 思わずそう言ったが、普通は勝利者インタビューだよな?


「何で急に求婚をしたんですか?」


「彼がタイプでしたの。それに、新たな魔王に相応しいと、そう感じましたわ!」


 勝利者インタビューを受ける筈のタルトは、苦笑いで控え室へと戻って行ってしまった。


 次のピックアップゲームまで、解説はお休みの予定ですが、急遽ハルパラ流『男の落とし方』講座が始まってしまった。


「えっ……? 耳を噛むんですか!?」


「噛みちぎっちゃダメですわよ。噛むではなく、はむっ! ですわ!」


「はむっ!」


 受講生役のサーシャが、これまた良い相槌を打つんですわ……ちょっとタルトのところに行ってきます!


☆★☆★☆★


 タルトは控え室には居なかった。俺は転移魔法を展開する。案の定、タルトは宿屋でライムの資料と向き合っていた。


「まさか求婚されるとはな」


 俺の軽口に、タルトはしらけた反応をする。


「……不幸中の幸いだよ」


「なにがだ?」


「真正面から戦ってたら、きっと負けていた」


「……そんなにか?」


「お前から観て、俺の動きに違和感無かったか?」


「いや、別に何も」


「動けなかったんだよ。ハルパラが俺の腕に抱きついた時……あの時、精神干渉系の魔法をかけられていたみたいだ」


「……魔力が飛んだ気配はなかったぞ」


 そう、ただ素早くタルトに抱きついただけのように見えた。


「そうだよな……最後に俺の身体を尻尾でなぞってただろ? あれをされるまで、完全に身動きが取れなかった……そして、それを口にする事も阻まれていた」


「アンカルディアの『血の契約』みたいなものか?」


「……あの婆さん、バンパイヤの特殊スキルまで使えるのか?」


 やべっ……言っちゃダメだったかな? 口に出せるって事は契約の範囲外なのか?


「とにかく、あのままじゃ負け確定だったよ」


「そのレベルなのか」


 そりゃ、アンカルディアも警戒するわけだな……


「他の魔八将とは毛並みが違いそうなのが救いだけどな……さあ、残り時間はライム対策に使わせてくれ」


「そのライムだけどな……相性的に、タルトに分があると思うんだ」


「……なに?」


 俺の考えるキマイラ対策は、タルトの常識とは真反対のものだった。しかし、この対策がもし嵌れば、魔八将総当たりを余儀なくされたタルトに、希望の光が差し込む事になる。

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