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第十五話 紫玉の瞳を持つエルフ

 首が折れそうな程の爆速で飛ぶグウィン。身体強化の魔法を唱えられて本当に良かったと心から思う。俺たちはあっという間に六芒星の8時の先端に到着した。


 轟音と共に噴き出していた滝は、どうやら俺たちの到着を待たずに消滅してしまったようだ。


「むう、滝は消えてしまったようじゃな」


「なんだったんだ一体」


 地面一帯が水浸しとなっていた。渇ききった『死の大地』に、これだけの質量の水が存在している。この水は外部から来たもので間違い無さそうだ。


「供給が止まっただけで、流れていた水が消えた訳ではないようじゃな」


 その時、ぴちゃぴちゃっ、という音が聞こえた。


「グウィン!? 何か聞こえないか?」


「うむ」


「生き物がいるかも……」


 周囲を見渡すが、視界が悪い。星を輝かす漆黒は目の前のものを探す障害でしかない。


 グウィンが弱い炎を吹いた。辺りが明るく照らされる。同時に大地に溜まっていた水が蒸発を始める。


「グウィン! 炎をとめて!」


 グウィンが慌てて炎を止める。


「何故じゃ? 灯は必要であろう」


「水が蒸発しちゃう。外部からの水なら微生物がいるかもしれないし、水の中でしか生きられない生き物がいるかもしれない」


「うむ、すまぬ……どうやら妾はか弱き生き物への配慮が足らぬようじゃ」


「俺も説明不足だった。灯は任せてくれ《聖光源ホーリーライト》」


 聖属性魔法の光が大地を優しく照らす。グウィンの炎で水嵩は半分近くまで減っていた。そして、さっきまで聞こえた、ぴちゃぴちゃっ、という音も消えている。


「グウィン、水の中に生き物がいないか探すんだ。魚や微生物がいたら、それを育てたり、その栄養で大地を復活させるきっかけを見つけられるかもしれない」


「あいわかった!」


 俺たちは水溜まりをくまなく探した。魚だけでなく、生き物は見当たらない。


「英太よ、鑑定スキルを使うのはどうじゃ? 微生物とやらを見つけられるかもしれぬ」


「やってみるよ!《鑑定》」


 スキルを発動する。ウインドウが開いて、「死の滝の水72万リットル」と表示された。その下に「カボレナガスの死骸×48」「ミツメナガスの死骸×92」「サシダの死骸×980」とあった。


 死骸となったのは、死の大地の影響か、グウィンの炎が原因か……でも……「死の滝の水」とは……「死の大地」の住民でなければビビっていただろう。それ以外は魚の名前なのか、微生物の名前なのか……


「グウィン、カボレナガス、ミツメナガス、サシダ、どれか知ってる?」


「すまぬ、忘れている」


 項垂れるグウィンの頭を撫でた。


「謝らないでくれ。俺の為を思ってリポップしてくれたんだから。謝られると俺も傷付く」


「あいわかった! 二度と謝らぬ!」


「いや、記憶の事だけな! 悪いことした時は謝るんだぞ」


「わかっておる。しつこいのう……そんなに積極的に器の小ささを示したいのか?」


「その言い方は良く無いよ。謝って」


 結局グウィンは謝らなかった。


 鑑定で調べられるのはここまでだった。詳細を調べるにはスキルアップが必要だろう。探索と検証は明日に持ち越しにする事にした。


 俺は「死の滝の水」を三種類に分けることにした。


「《創造クリエイト》《水造形ウォーターボール》」


 一つ目が、拠点に持ち帰って詳しく調べる用の水。巨大な土の桶を作って、いくらかを桶に移した。


「《収納》」


 二つ目は、アイテムボックスに収納して長期観察する用。アイテムボックスに入れたものは傷まない。水も現在の状態を保つだろう。


 三つ目が、この場に放置して、大地の変化を観察する用だ。


 そうしているうちにドタドタと大きな足音が響き渡った。ゴレンヌ率いるゴーレム軍団だ。


「おお! ゴレンヌよ、良き頃合いじゃ!」


「グウィンサマノ、ホノオガミエタノデ」


「うむ、狙い通りじゃ! けしてお漏らし炎ではないぞ! では其方らに命令を下す! この桶を妾たちの家まで運ぶのじや! くれぐれも慎重にな!」


「ワカリマシタ」


 ゴーレムたちは5万リットル程の水を軽々と運び始めた。アイテムボックスで運んでも良かったが、どうせなら経由せずに変化を検証したい。


「妾たちも戻ろうぞ」


 グウィンが俺を抱える。翼を広げて羽ばたいた瞬間の事だ。俺たちは同時に気付いた。


「グウィン……」


「うむ、気配が増えた」


 見渡す景色に変わりはない。荒廃した大地と水溜まり……


「……なんか、あそこだけ空気違わないか?」


「間違いなく、何かがおるな」


 グウィンの表情が微かに変わった。その佇まいは間違いなくドラゴンのものだった。


「見に行くか?」


「当然じゃ。妾が支配する死の大地に、気安く足を踏み入れさせるわけにはいかぬ」


 それを言うと、グウィンは堂々とした足取りで進み始めた。


「友達欲しい癖に」


 俺もその後に続いた。


 ふと目の前に違和感を覚えた。先程まで水溜まりしかなかった筈の場所、地面の一部が奇妙に掘り返されていた。まるで誰かが隠れようとして急いで掘ったかのような浅い穴だった。


「さっきまで無かったよな」


「隠蔽魔法が解けたのであろう。妾をも欺くとは相当な使い手じゃな。


 俺の「鑑定」もグウィンの察知能力をすり抜ける魔法使い……緊張感が高まった。


「緊張しなくてもよいぞ。魔法が解けたということは、魔力が尽きたか術師が意識を失ったということじゃ」


「備えあれば憂いなしだよ。油断大敵!」


「なんじゃ、訳のわからぬ事をぬかす」


「《身体強化》《対魔法強化》」


 俺は慎重を期して、ゆっくりと穴を覗く。中には若い女性がいた。銀色の長い髪が、まるで月光をまとったように柔らかく輝いている。特徴的な長い耳が、彼女が「エルフ族」である事を示していた。


「エルフかな?」


「じゃろうな」


 興味なさそうに腕を組むグウィンだが、ぶるぶると揺れる尻尾はときめきを隠しきれていない。


「……生きてるよな?」


「生命反応は感じるがな。心配なら左の胸を触って鼓動を確かめるが良い」


 一瞬……ほんの一瞬だけ心が揺れた。グウィンの指示なら許されるような気がしたのだ。


「いや、それはよくないよ!」


「ずっと胸ばかり見ているから、確認したいのかと思っただけじゃ」


「見てねーし!!」


 鼓動を確かめる為に、仕方なく仕方なく、そっと触れるかどうか迷っていた。だからちょっと見ちゃっただけだ。それだけなんだ。俺は視線を胸から顔へと力づくで移した。


 その時、そっと彼女のまぶたが動いた。長いまつ毛が微かに震え、ゆっくりと目が開かれる。


 紫に輝く瞳が真っ直ぐこちらを向く。


「……あなたは……?」


 その美しさに息を飲んだ……ファンタジーの世界では「エルフ=美しい」と決まっている。一般受けする美しいエルフを散々作り上げてきたゲームクリエイターの俺ですら、その美しさには声を失ってしまった。


 まるで神様が彼女を手作りしたみたいだ。


「あなたは誰ですか?」


 彼女は柔らかい紫色の瞳で、こちらをじっと見つめていた。

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