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第百四十二話 武神バルカン

 魔王国のダンジョンにはパーティー制度が無いようだった。経験値は分配されず、人間国のフィールドと同様、魔物にトドメを刺した人物にのみ経験値が入る。


 先を急いではいだが、ここはレベル1の俺に任せてもらう事にした。グゥインの干し肉をついばみながら、有りとあらゆる属性の広範囲魔法で魔物を殲滅していく。


 あっという間に30階層の入り口に到着した。


 全ての魔物を俺が倒したのだが、低層の魔物が相手という事もあって、レベルは12までしか上がらなかった。


 改めてグゥインを倒した時の経験値が膨大だったのだなと気付かされる。と言っても、あれは二度と経験したくない……


「ここが30階層です」


 ゴレミに先導されて扉を潜ると、そこからは激しい戦闘音が聞こえた。


 どうやら武神とゴレオが戦闘しているようだ。


 ギュイーーーーン!


 という音と共にゴレオが青い鬼に体当たりをする。青い鬼は弾き飛ばされて真っ白い建物にめり込んでいく。瓦礫の中から現れた青い鬼は、豪快に笑った。


「くわっはっはっはぁ!! 強くなったな! しかし、そんなものでは儂は倒せぬぞ!」


 絶対にあれが武神バルカンだ。ゴレオの体当たりは普通の魔物なら即死レベルの攻撃に見えた。それを喰らっ平然としているのは……はっきり言って異常だ。


「ゴレミ、あれがバルカンか?」


「その通りです。決闘の最中の様ですね」


「いや、あの勢いじゃ本当に殺しかねないぞ」


「大丈夫です。この30階層は魔王国にとって特別な場所です。ダンジョンマスターである魔王の指示によって、致命傷クラスの攻撃を受けても、HPが1で留まる様になっています」


「ダンジョン固有の設定か……確かに、ここに来るたびにバルカンの相手をさせられるなら、それくらいの配慮は欲しいよな」


「でも、武神さんはHP1になっていなそうですよ」


「なっていても平然と動くのが武神です。レベルアップによる能力向上に限界を感じた武神は、時間の経過が異なるこの階層で、基礎訓練に明け暮れました。その成果がこれです」


「永遠にHP1のまま耐えてくるのか? 無理ゲーだろ!」


 それで居ながら、武神の一太刀一太刀も見るからに威力が激しい。強化したゴレオでなければ粉々になるだろう。


 能力を見ようとしたが、当然のように武神は俺の鑑定スキルを弾いてくる。俺もこの地で永遠に鑑定しまくって、スキルレベルを上げてみようかな?


「それよりも、タルトだ……タルトの姿は……」


「見当たりませんね」


 そうなのだ。タルトの姿は何処にも見当たらない。


「……あの」


 サーシャが手を上げた。


「どうした?」


「二人には見えないんですか?」


「見えない?」


「タルトも戦っています」


 俺とゴレミは顔を見合わせる。目を凝らし、気配を探るが、そこにタルトの存在を感じさせるものは無かった。


 あるとすれば、武神の反応だ。ゴレオの打撃を受けたタイミングを外すように、何かを振り払っている。


「サーシャ、タルトは何処にいるんだ?」


「それが……」


「やっと会えたな」


 俺たちの目の前に、真っ赤な姿の魔物が現れた。その姿は魔王デスルーシを若返らせたものとしか思えない。


「……タルトなのか?」


「ああ、そうだ」


「その姿は……」


「これが本来の姿だよ」


「ずっとここに居たのか?」


「いや、話せば長くなるんだが……」


 タルトとの会話をぶった斬ったのは、戦闘狂の武神様だった。


 あり得ない速度の斬撃がタルトを襲う。タルトは結界魔法で斬撃を受け止めるが、それも数秒しか持たないようだ。


「英太、サーシャ、戦闘に参加しなければ攻撃される事は無いだろうが、一応自分たちの身を守っておけ」


「わかりました」


 サーシャがドライアドを召喚する。


「悪いけど、ゴレミは一緒に戦ってくれるか?」


「承知!」


 ゴレミは闘気を解放し、武神の顔面に拳をめり込ませる。そのまま武神は吹き飛んでしまった。


「英太、支援魔法も頼むぞ! でもあんまり目立つな、攻撃のターゲットになってしまうからな!」


「師匠! お手合わせお願い致します!」


 ゴレミはいつの間にか武神バルカンに弟子入りしていたようだ。その師匠に向かって、ダンジョンごと崩壊してしまいそうな打撃を延々とに浴びせ続ける。


 ゴレミの存在に気付いたゴレオは、タンク役に徹し始めた。武神を挑発してヘイトを集める。


 タルトの結界魔法で動きを鈍化された武神は、一方的にタコ殴りにされていく。


「こりゃ……虐めみたいだな」


「でも、武神さん楽しそうですよ」


 そうなのだ。やられながらも高揚しているのがわかる。しかし、どんだけタフなんだ……あのおっさん。


 小1時間ほど戦闘を見学した俺たちは、終わらない戦いに終止符を打つ為に、アイテムボックスに保存しておいたカレーライスを取り出した。


 風魔法で、これみよがしに武神の元に匂いを届ける。


 反応したのは武神だけでは無かった。その場に居た全員が、俺に視線を向ける。


「皆さん、ちょっと食事にしませんか?」


 俺の提案に、その場に居た全員が頷いた。


「なんだ、この匂いは?」


 ようやく武神が戦闘体制を解除した。


「カレーライスという、英太さまの得意料理です」ゴレミが言った。


 武神が喉を鳴らすのがわかった。


「英太さまに敗北を認めた者だけが、あのカレーライスを食する事が出来るのです!」


 タルトは訳の分からない事を言い出し、俺の前に跪いた。


「英太様の勝利で御座います。是非私にカレーライスをくださいませ」


「……タルト?」


「俺も負けました! カレーライスをください!」


「私もです。大盛りのカレーライスを!」


 ゴレオとゴレミもタルトに続いた。


 武神バルカンもふらふらと近づいて来て、俺の前に跪いた。


「儂の負けです。カレーライスをくださいませ」


☆★☆★☆★


 ゴレオから事の成り行きを説明された。


 魔王からの密命は、武神バルカンをバルゼの葬儀に参加させる事。第二フェーズが終わる明日の早朝まで、半年間が期限だった。


 しかし武神はダンジョンを出たがらない。


「儂に勝つ事が出来たならば、外に出てやろう!」


 からのタフネス。どれだけ攻撃しても負けを認めない武神に痺れを切らしたタルトは、ゴレオと共に武神を倒そうとする。


 しかしタフネス。ボコボコにされても楽しそうに剣を振るっている。


 ……そこに現れたのが、俺たちだという訳だ。


「どうしてそんなにここを出たく無いんですか?」


 俺はバルカンに聞いた。


「魔王様は儂を騙しているからだ」


「騙す?」


「そうだ。奴がそう簡単に死ぬわけがない」


「奴って、バルゼですか?」


 身体の色は違うが、似ていなくもない。バルゼとバルカンは同種族なのかもしれない。


「それに、儂は喪主などといったややこしいことは出来ない。そういうのは魔王様にお任せする」


「喪主……?」


 この世界にも喪主があるのか……という疑問もあったが、同じくらい気になる事があった。


「バルゼのご家族なんですか?」


「バルゼは儂の息子だ」


 少し驚いた。バルカンは歳の頃で言えば40手前に見える。魔物の年齢は分かりにくいとは言え、30過ぎのバルゼの父親には到底見えない。


「師匠はこの階層で歳を取らないのです」


「歳を取らない? そりゃまた凄いな……もしかして、それをやったのって……」


「アンカルディアだ。対価として、ダンジョンから出られなくなった」


「俺、魔王様から聞いてますよ。自発的に出られないだけで、魔王様とアンカルディアの呼び出しには応じられるんですよね?」


「そうだが、儂を呼び出したのが本物の魔王であると誰が証明出来る?」


「だから、書状も見せたでしょう?」


「偽装だ!」


「ちょっと待って、何でそんなに外に出たく無いんですか?」


「儂はまだまだ強くなれる。こんな中途半端な力で外に出ても仕方がない。外の世界は歳を取るからな」


 ……それが普通なんだけどな。長年ここで暮らしていたら、その考えが普通になるのかな?


「一週間くらいで良いって言ってましたよ! 絶対後悔させないって!」


「もういいよ、とりあえず俺に負けたから、外に出ざるを得ないでしょ?」


 俺はアンカルディア仕込みの『対価』を駆使した。既にバルカンは敗北を認めている。


「武神に二言は無いですよね?」


「もちろんだ! 童! すぐに出るぞ!」


「え? お、ちょっと!」


 武神は無理矢理ゴレオを引き連れて、ダンジョンを出て行ってしまった。


「やれやれだな」


 とため息を吐く真っ赤な魔物に対して、俺たちの冷たい視線が集中した。


「俺たちはタルトに用があるんだよ」

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