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第百四十一話 葬儀と祭り

 魔王国の葬儀は、俺の知るそれとは全く違うものだった。


 始まるのは日が暮れてからだったし、お坊さんや神父の存在は無く、国の代表である魔王が短い挨拶があるだけ。亡くなったのが魔王と近しい者だった場合は死者との想い出を語る。


 今回も多分に漏れず、魔王はバルゼとの想い出を語った。


 初めて会った日に決闘を申し込まれた事、敗北したバルゼにトドメを刺さなかった時の「殺せ」という喚き声、護衛になってからの従順な姿……


 魔王はまるでどこかの大企業のCEOのように、笑いを交えながら流暢にスピーチを続ける。


 そんな魔王からバルゼへの最後の言葉は……


「次の魔王はバルゼだと思っていた」というものだった。


 それを聞いたカートは何を思うのか……


 カートに視線を移す。カートは穏やかに微笑んでいた。


 余裕の笑み? ポーカーフェイス?


 いや、何も考えてないんだろうな……


 魔王とバルゼの想い出話も終わり、始まってからほんの10分程度で葬儀は第二フェーズへと突入する。


 それは飲み会……いや、お祭りだった。


 出店も出店していれば、キャンプファイヤーまである。その周囲を音楽に合わせて陽気に踊っている。遠くから花火まで打ち上がっている。


 魔王はまだ体調が優れないらしく、スピーチを終えると同時に小休止と言って王城へと帰って行った。国民的の不安を煽る事が無いよう、魔八将との緊急会議という嘘までつく周到ぶり。


 サーシャやゴレミが買い食いに精を出す中、ゴレオは魔王から密命を受け、ダンジョンへと出発していった。


「魔王に聞いてください!」


 と言って、ゴレオは何の指令が下ったのか、俺にも教えてくれなかったが、まあ良しとしよう。


 俺たちはそのまま市街地に向かう。街もお祭り騒ぎで、酒を片手に皆んなでワイワイ騒いでいた。


 ……何処か既視感があると思ったら、ハロウィンだ。全員魔物のコスプレをしている在りし日の渋谷ハロウィン……おいおい、サキュバスの集団やべーエロいな。ハルパラさんのところの人ですか?


 ヤバい! 俺は婚約したんだった! しかし、俺の婚約者には嫉妬という概念がないようで、俺のスケベな視線を咎める様子もない。


 代わりにカットインして来たのはゴレミさんだ。俺とサキュバスたちの間に割り込んで、ジト目を向けてくる。本当に良い仕事しますよ。


 しかし……みんな本当に楽しそうだな……故人を偲ぶ事と同時に、今在る生命を楽しんでいるように見えた。


 この葬儀は素晴らしいと思ったし、デベロ・ドラゴでも、いつかこんなお祭りを開きたいなと心から思った。


 ちなみに、第二フェーズは朝方まで続くらしい。そこも渋谷ハロウィンみたいだね。


 そんな中、りんご飴らしき食べ物を持ったゴブリンの少女が、真っ直ぐサーシャに突進して来た。


 咄嗟にゴレミが間に入る。少女は転んでりんご飴を落としてしまう。


 こらこら、前を見て歩かなきゃダメですよ、と注意しようとしたが、俺よりもゴレミの方が敏感だった。ゴレミは即座に闘気を解放した。


「おいゴレミ! 街中でそれは!」


「いえ、緊急事態です」


 ゴレミは少女に殴りかかろうとする。ゴレミの拳が少女の顔面に伸びるが、直前でバリアのようなものに阻まれてしまう。


「随分と優秀なゴーレムさんだね。本物のレミみたいだよ」


 声も姿も全く違うが、すぐにわかった。アンカルディアだ。


「ちょっと移動するよ」


 アンカルディアに連れられて、俺たちは路地裏に向かった。そのまま転移魔法が展開される。


「ここなら安心だ。すまないね、ちょっとした冗談をかねて、サーシャの警戒度を試させて貰ったよ」


「英太さま、お知り合いですか?」ゴレミが聞く。


「言ってもいいですか?」


 俺の言葉にアンカルディアは頷いた。


「ゴレミ、この人は大魔導師のアンカルディアだ」


「敵ではないと言うことですか?」


「あぁ……そうでしたっけ?」


「それは状況によるが、対立しない方向で考えているよ。だから話しに来たんだ。ちょうどカートもルーシのところに行ってるしね」


「しかし、恐ろしいほどの敵意がサーシャさまに向けられていましたが」


 ゴレミは敵意を認識出来る。アンカルディアがサーシャに敵意を向けていた?


「わかりやすく敵意を出して、それに気付くかどうかを試したんだけどね、サーシャは気付かなかったかい?」


「全く気付きませんでした」サーシャが答える。


「俺もだよ。ゴレミに感謝だな」


「そんなんじゃダメだね。サーシャは常時ドライアドの精霊を召喚し続けられるようになりなさい。少数でいいから、オートマで自分を護り続けるんだよ」


 日常からオートマで防御か……隠蔽魔法と組み合わせれば、エルフとバレる事も無いかもしれない。


「……わかりました」


 アンカルディアの言葉に、サーシャは頷いた。


 確かにその方が安全だが、そんなに危険な状況に陥る事があるのだろうか?


「メインの話はそれじゃないですよね?」


「あぁ、レベル上限の件だよ。すまなかったね、まさかこの私の力を持ってしても失敗するとはね」


「完全に俺のせいにしてますね」


「その通りだからね」


「レベルが1になっちゃったんですけど……これはどういう事ですか?」


「私がやったのさ。レベル上限解放が失敗した要因のひとつは、そもそもの能力値の低さも原因だと思うからね。今の能力でレベル99まで上乗せすれば可能性は見えるかと思ったのさ。これは予想であって、確定じゃないから期待しないでおきなよ」


「……なるほど」


「そのぶんの『対価』も払ってもらうよ」


「いや、勝手にやっておいて……」


「やらなきゃ良かったのかい?」


「いえ、助かります……で、何を御所望で?」


「ブラックドラゴンの鱗をおくれ。持っているよね? そっちのゴーレムにも混じってるしね」


 空気が凍るのがわかった。背後にいるゴレミから発せられるものだ。


「おいそれと渡せるものじゃないんですけど」


「ちょっと実験をしたいんだよ。そっちに悪い事ばかりじゃないから安心しな」


「……信用していいですか?」


「私以上に信用出来る大魔導師はいないよ」


「そもそも、大魔導師は他にいるんですか?」


「いないね」


 ……ったく、物は言いようだな。


「ゴレミ、構わないか?」


「英太さまの判断に従います」


 俺はマジックバックからグゥインの鱗を取り出し、アンカルディアに手渡した。


「英太もダメだね。人を簡単に信用し過ぎだよ……私が鱗を触媒にブラックドラゴンを生み出そうとしていたらどうするつもりなんだい?」


「……じゃあどうしろと?」


「まぁ良いよ。使い方はちょっと良くないけど、結果は良くなるだろうから……」


 アンカルディアは何をしようとしているんだ?


「英太はレベルを99まで戻しておきな。それからもう一度レベル上限の解放に挑戦するよ」


「わかりました」


「サーシャはドライアドの常時召喚と、他の精霊との契約だね。本当なら上位精霊と契約したいところだけど、ドライアドの下に着いてくれるかは怪しいところだね。ルーシに頼んで精霊の祠に行っておいで」


「……はい」


「ゴレミちゃんだよね? 貴女は充分強いけど、純粋な強さよりも勝ちに拘りなさい。それと、精神干渉体制は絶対身に付けるように」


「承知しました」


「それじゃあ私は急ぐから、くれぐれも私の存在は内密にね」


 アンカルディアは一方的に言い捨てて、消えてしまった。


「英太さま、アンカルディアはグゥインさまの鱗を何に使うと思われますか?」


「わからない。創造クリエイトが無ければ加工なんて不可能に近いとは思うけど、アンカルディアだからな」


「私はアンカルディアさんを信じています」


 サーシャは真っ直ぐにそう言った。俺が寝ている間に、何かアンカルディアと話したのだろうか?


「姐さーん……俺じゃ無理でした」


 その時、ボロボロのゴレオが空から降りて来た。その状態で、どこに行っていたのかわかった。


「私は魔王から密命を受けていないので、行動出来ませんよ」


「そんな……じゃあ英太さま、俺と一緒に来てくださいよ!」


「いや、密命だろ? 俺たちは武神のいるダンジョンには行けないよ」


「もうわかってるじゃないですか! 一緒に行きましょうよ!」


「ゴレオくん、それは魔王さんに確認を取ってからじゃないとダメですよ」


「密命だからな」


「……わかりました。じゃあ英太さん、俺を創造クリエイトで再構築してください。ボコボコにされたままじゃ悔しくて」


「うーん……わかった。ちょっと姿が変わってもいいか?」


「姐さんみたいになるんですか?」


「いや、鱗と一緒にアダマンタイトやオリハルコンを混ぜてみる。それと、体内にポーションを保管出来るようにしようかと思ってる」


「それは、マジックタンクのようなものでしょうか?」ゴレミが言った。


「ああ、ゴレミに胃袋を作ったみたいに、マジックバックの応用で、ポーションを保管出来るタンクを作る……究極の自動回復だ」


「凄いっ! お願いします!」


「任せてくれ! 姿の希望はあるのか?」


「カッコいいのが良いです!」


 子供っぽいな。しかし、ゴレミがデフォルトで拳聖レミの姿になった例もある。それも実験してみよう。


「わかったよ。ゴレオも自分のなりたい姿をイメージしてみてくれ……《創造クリエイト》《ゴーレム再構築》」


 一瞬の輝きと共に、ゴレオの姿が変わった。竜人族の子供ゴーレムといった様相だ。


「どうです?」


「あぁ、格好良いよ」


 俺はアイテムボックスから鏡を取り出し、ゴレオに手渡した。


「おお! 凄いっ! 格好良い!」


「ステータスも上がったし、マジックタンクも機能している……思う存分戦って来い!」


「はい! グゥイン様の鱗に誓って! あいつらに一泡吹かせてやります!」


 ゴレオはそう言うと、猛スピードで飛び去って行った。


「ゴレオくん、可愛いですね」


「あぁ、本当だな」


「英太さま、マジックタンクは興味深いです。私の身体にも追加可能でしょうか?」


「……出来ると思うけど、姿が変わる可能性は否定出来ないよ」


「保留でお願いします」


 ゴレミったら、素直だな。


 ……あれ、ちょっと待てよ……?


「なぁ……ゴレオの奴、『あいつら』って言ったよな?」


 バルゼの葬儀の最中、お祭り騒ぎの中で、武神以外にダンジョンに入っている奴がいる……って事だよな?


「……確かにそうですね」


「タルトの可能性もあるよな?」


「でも、ゴレオくんが気付かないですかね?」


「ゴレオはタルトと面識が無いし、そもそもタルトなら姿も変えているだろう」


「向かいましょう!」


 ゴレミの背中から翼が生える。拳聖レミの姿のまま俺とサーシャを抱き抱えた。


「お二人は安全の為に手を繋いでください。しっかりと、互いの体温を確かめるようにです。その繋ぎ方ではダメです。指を一本一本絡め合うように!」


 こいつ、久々にやってくれたな……でもいいか、婚約者だしな。


 俺たちは魔王国の修行場であるダンジョンに向かって飛び立った。

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