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第百三十九話 レベル上限の解放

「サーシャ、カートとハルパラが目覚めるまでどれくらいだ?」アンカルディアが聞いた。


「わかりません。R.I.Pをお昼寝に使ったのは初めてです。普段は8時間くらいでしょうか?」


「ふむ……一応、ボルバラの姿に戻っておくか……」


 アンカルディアは、一瞬でその姿をボルバラに変えた。


「そっちの事はある程度信頼したよ。だけど、私の目的は話さない。話せばほんの少しだけ失敗の可能性が生まれるからね」


「それは、ごもっともな話ですね」


 何をしようとしているのかはわからないが、最善を尽くすなら、そうなるだろうな。


「生意気だね、顔に出ているよ。まぁ代わりと言っちゃあなんだけど、特別なプレゼントをしてやるよ」


「プレゼント? 嫌な予感しますけど」


「嫌なら英太にはやらんよ。サーシャ、服を脱ぎなさい」


 おいおい、何言ってんだこいつ……変な事されないように、ずっと確認し続けなきゃないな……


「どうして服を脱ぐのですか?」


「こんがらがってる魔力の動線を調整するのさ」


「魔力の動線?」


「正直な話をするよ……サーシャはダーリャと比べて、圧倒的に弱いんだ。そりゃあレベルの違いもあるけれど、それにしたって差があり過ぎる」


「そうなんですね」


 サーシャの耳が少し垂れ下がった。勇者パーティーだったお婆ちゃんに敵うとは思っていなかっただろうが、やっぱり少し落ち込むだろう。


「サーシャはハイエルフに覚醒したばかりなんです。戦闘も人間国での一ヶ月しか経験していません」


「覚醒したばかりって……あんた330歳なんだろ?」


「ちょっと無茶をしてしまって、そのせいで遅れちゃいました」


「……確かに、ハイエルフの代替わりがあったって話は聞かなかったねぇ……てっきり、娘の件があって伸びてるだけだと思っていたよ……そうか、それなら仕方ないね……ほら、上だけで良いから脱ぎなさい」


「え、あの……ちょっと……」


「安心しな、ほんのちょっと調整するだけさ」


 アンカルディアはサーシャの服に手を掛ける。見た目がボルバラだから、襲っているようにしかみえない」


「でも、英太さんが……」


「あぁ、英太に見られるのは恥ずかしいか。英太、そっち向いててくれ……」


「最初からそうするつもりでしたよ」


 俺は二人に背を向けた。べ、べつに見たかなんか無いんだかんね。


「私の見立てでは、サーシャの才能はダーリャを凌ぐものがある……あらあら、着痩せするタイプなんだね……こんなにたわわなものを……ちょっと揉んでもいいかしら?」


「え、あ、その……」


 おいおい何してるんだ? ここは止めに行かないといけないか? いけないよな? 仲間だもんな?


「冗談だよ。やっぱり背後から邪気を感じるね……サーシャ、R.I.Pをかけてやりなさい」


 え、おれ……? 一日に二度のR.I.Pなんて……しかもさっきは悪夢を見たのに……


「《R.I.P》」


 その声を聞くと同時に、意識が混濁していった……


☆★☆★☆★


「うわぁぁあっ!!」


 全身の痺れで目覚める……また大量の魔物に襲われていた。


 またしてもアンデットだった……食われかけてたよ……怖いよ……


「大丈夫ですか?」


 そこにはしっかりと服を着たサーシャが居た。


「サーシャ、途中で起こすのダメだ。悪夢の質が高過ぎる」


「起こしたのは私だよ。マッサージ魔法にしてやったのに大袈裟だね」


 マッサージ? とんでもない痺れだったぞ。


「……もう終わったんですか?」


「そうさ。現状変わっていないけど、魔力の動線は整ったから、レベルアップと共に徐々に開花していく筈だよ」


「そうですか。ありがとうございます」


「お次は英太だ。でも生意気だったからね。やって欲しかったら、アンカルディア様の素晴らしいところを100個言いなさい」


「100個!?」


「あぁ? 無いって言うのかい?」


「いや、魔法が凄いです。魔力も凄い……結界魔法も素晴らしい……」


「英太、わざとかい? 私の素晴らしさは魔法だけだって?」


「……というか、出会ったばっかで、どう褒めろって言うんですか……内面知らないし、外見はボルバラだし……」


「減らず口! じゃあ、代わりに『対価』を貰おうかね……」


 くそババア……最初からそのつもりだったよな。


「サーシャ、あんたも自分にR.I.Pかけなさい。大丈夫、サーシャは悪夢を見ない筈だから」


 R.I.Pのオートスキル『悪夢無効』も知ってるって訳か……


「わかりました」


 サーシャは言われた通りにソファーに寝そべると、自らに《R.I.P》をかけた。


「……さて、どんな『対価』にしようかね……そうだ、魔道具を作って貰おうか」


「そんなの自分で作れるじゃないですか?」


「エンチャントは出来るよ。でもガワを作るのは別さ……お気に入りの指輪を無くしてしまってね、それと同じのが欲しいんだよ」


「指輪……これみたいな?」


 俺はアイテムボックスから大魔導師アンカルディアの指輪を取り出した。


「……これ、私のじゃないか? 何処にあったんだ?」


「人間国のアラミナって街です」


「そうか……ダンジョンが出来たんだったね。そこの報酬にでもなってたのか……いやぁ……懐かしいよ……」


 言えない……普通に露天商で買ったなんて……しかも値切って買い叩いたなんて……


「これを再構築して、私にくれないか?」


「……再構築? 出来ますけど、付与はご自分で?」


「いや、それも頼むよ……素材は用意するから、しばらく保管しておいてくれ」


「良いですけど……」


 思ったより安く済んだな。使って無かったし、本人の元に帰るなら指輪も本望だろう。


「俺も上半身脱ぎますか?」


「脱がなくてもいいよ。英太にするのは、魔力回路の調整じゃないからね」


「……え? じゃあ何ですか?」


「サーシャを抱きたいんだろ? 自分で言ってたじゃないか」


「……レベル上限の解放?」


「出来るかどうかはわからないよ。本人の資質の問題がある。けして私のせいじゃない」


「またまた、ご謙遜を……」


「本当だよ。勇者や神獣にしか成功していない」


「失敗した時のリスクはあるんですか?」


「さあね、失敗しても『対価』は支払わなきゃいけないってくらいかね? 私の知らないところでのたうち回っていた可能性は無くはないけどね」


 ノーリスクではないって事か……でも……


「やります。お願いします」


「ふん、そんなにサーシャを抱きたいかね?」


「別に俺とサーシャはそんな関係じゃないので、純粋にレベル上限を超えたいんですよ」


「ふーん、つまらんね……じゃあ聞くよ? もしもサーシャが他の女と同じで、抱いても英太が死ぬことはないとわかったらどうするんだ?」


「それは、その時にならないとわかりませんよ」


「本当につまらん男だよ。惚れた女を抱く為に命を張るのが男ってもんだろうさ」


「護る為とかなら腑に落ちるんですけど、抱く為にってのはちょっと」


「このままだと、サーシャは子供を産む為だけに、好きでも無い男に抱かれるよ? 惚れた男に抱かれて欲しいとは思わないのかい?」


「……俺に惚れてるとは思えませんが?」


「もういいよ。なんでこんな奴に惚れたかね……」


 話は平行線からの、断定で終了した。


「レベル200を超えたら子種を残しても死なないって、本当の事なんですか?」


「過去にたった一例だけ、父親が死ななかった例があるんだよ。その父親がレベル200を超えていたんだよ」


「……全然確定じゃないじゃないですか」


「確定だよ。私が言ってんだから」


 その言葉にはとてつもなく説得力があった。2,000年以上の間生き続ける大魔導師にしか出せないものだろう。


「さて、やるよ」


 やるとは言ったが、始めるのが急すぎる。ルーフはこれをずっと食らってたんだな。


「フラグナ・メルセ・ローデン……ソルミナ・レヴァント・アグナイエル…… クラディナ・フェルガ・エス・ロア!」


 アンカルディアが言葉を発した瞬間に、魔力が重くのしかかる。言葉の意味は分からないが、魂が軋む感覚があった。内部がこじ開けられていく感覚だ。


「レグナ・アスト・ティレイナ……カン・ゼル・オルデアッシャ!」


 全身に熱が走る。


 頭が焼ける。


 光が目の奥で爆ぜた。


「ラストラム・ティア・アカシャ・ノア!」


 その声を最後に、室内は静寂に包まれた。


 ……終わったのか……アンカルディアに話しかけようとしたその時、物凄い吐き気に襲われた。


 レベル上がってる……気持ち悪い……これって、もしかして……今まで獲得した経験値のぶんが一気に……うぇぇ……脳がついていけない。


 これもう無理だ……


 意識はそこで途切れた。


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